ラミー外相と米国民主党

米国の大統領選挙は、2024年11月5日(火曜日)に行われる。共和党のドナルド・トランプ元大統領と民主党のカマラ・ハリス現副大統領の争いで接戦が伝えられる。2024年7月5日の英国総選挙で、前保守党政権を大差で破り、政権に就いた労働党は、伝統的に米国の民主党と近い。キア・スターマー首相は、来る米国大統領選でどちらの候補者が勝利を収めても、英国の外交政策の中軸である米英関係の緊密化に努力する旨の慎重な発言をしている。ただし、スターマー首相の9月中旬の米国訪問で、トランプ元大統領に会わなかったのは失敗だとする見方もあるが。この中、スターマー政権のデービッド・ラミー外相が米国との外交関係の窓口となる。

ラミー外相は、バラック・オバマ元大統領と親しい。オバマもラミーもハーバード大学で法律を学んだ関係で、2人はオバマが大統領になる前から親しい。ラミーは英国黒人で初めてハーバード大学で法律を学んだ人物だという。ラミーの妻ニコラ・グリーンは、アーティストだが、2005年にラミーが米国から帰ってきて、オバマが大統領選に立候補するつもりだと興奮して語ったという。そしてグリーンは、2008年の民主党大会の大統領候補指名や、翌年の大統領就任式など数々の行事に参加し、それを一連のアート作品としてまとめた。それは、In Seven Days…と題され、米国の議会図書館に寄贈され、さらに他のいくつもの美術館でも常設展示されている。

ラミー外相の米国民主党との人脈は、英国人で他に並ぶ人はほとんどいないのではないかと思われる。それが、ラミーが「影の外相」のポストを与えられ、そして外相に任じられた理由であろう。その構図がどうなるかは、大統領選挙の結果で大きく左右される可能性がある。

ウクライナ戦争の英国への影響

ロシア軍が2022年2月24日からウクライナを侵略し始めた。そのため、西側はまとまってロシアに対抗する体制をとっている。核大国のロシアと直接戦闘するのは避けながらも、それ以外の手段はなんでもとる構えだ。経済制裁、武器供与など、これまでロシアと敵対するのに消極的だったドイツもその立場を変え、ウクライナへの直接武器供与に踏み切った。

この戦争で、英国の新聞のトップは連日ウクライナ情勢であり、ジョンソン首相の「パーティゲート」疑惑は吹き飛んでしまっている。野党の労働党は、ジョンソン首相のウクライナ戦争の立場を支持している

ジョンソン首相は、この戦争を利用して、地に落ちた国民からの信頼を少しでも回復しようと躍起だ。アメリカやEUと足並みを揃えて、ロシア相手の経済制裁などを積極的に進めている。ロシア側は、西側がここまで足並みを整え、かつ強力な経済制裁を課してくるとは考えていなかったようだ。国際金融取引決済のためのスウィフトの利用が制限された上、事前に増強していたロシア中央銀行の外貨準備が凍結される事態となり、ロシア経済に大きな影響を与えている。ロシアの国内総生産(GDP)は、10位の韓国を下回る11位(IMF2021年)であり、経済的に強いわけではない。しかし、西側の経済制裁などの手段だけで、ロシアのウクライナ侵略を止められるかというと、少なくとも短期的には難しいと見られている。

ウクライナの戦況のため、英国の国内政治状況をまともに考えられる時ではない。3月3日に英国下院議員補欠選挙がある。労働党下院議員が急死したために行われる補欠選挙であるが、特に英国政治に影響を与えるものではないと言える。

ジョンソン首相は、パーティゲートなど数々のスキャンダルで傷ついた。まだロンドン警視庁のパーティゲートの取り調べが進行中であり、早晩その結果が公表され、同時にトップ国家公務員スー・グレイの厳しい報告書全文が発表されることとなる。ジョンソン首相は、ロシアのウクライナ侵略で少し息を吹き返したように見えるが、それがどこまで続くか。ウクライナが一刻も早く平和になるのを期待しているが、ロシア軍がウクライナから撤退する状況が早い時期に生まれなければ、英国内でも、ジョンソン首相のウクライナ対応への責任が問われる状況になりかねない。