あと2週間足らずとなったEU国民投票

6月23日にイギリスが欧州連合(EU)を離脱するか残留するかを決める国民投票が行われる。移民(離脱派)か経済(残留派)かの戦いとするメディアが多いが、現在の政治への見方、不満も重なり、有権者の考え方は、そう単純ではない。

この段階では、離脱派に勢いがあるように思える。筆者の知人にも、当初、残留に投票するとしていた人たちが、今では迷っている、もしくは離脱に投票することを考えているという人が何人もいる。

筆者は日本人であり、投票する権利がないが、ある知人に、もし投票できればどちらに投票するかと聞かれ、当初は残留だったが、今では決めかねていると答えた。

確かに、イギリスがEUを離脱すれば、その経済に与える影響は少なくないだろう。残留派のキャメロン首相が、イギリスはEUから離脱しても存続していけるが、経済成長は低下すると発言した。少なくとも短期的なショックはかなり大きいと思われる。しかし、現在のEUにはかなり行き過ぎている面がある。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の前総裁マービィン・キングが指摘するように統一通貨ユーロが破たんする可能性があり、もしそうなれば、EU自体の存続が問題となるだろう。移民問題などで苦しむEUを無理にまとめようとする努力は不毛かもしれず、将来イギリスが迫られてEUから離れるよりも、この機会にEUの重荷を離れて、独自の立場を確立することにはそれなりの意味があるように思われる。

ただし、イギリスがEUを離脱することとなれば、EU諸国の中に同様の国民投票実施を迫られる国があると見られており、その影響はかなり大きい。また、欧州の経済だけではなく、世界経済に与える影響もあるだろう。

最も新しい世論調査では、残留と離脱が均衡しているが、まだ決めていない人が一つでは11%、もう一つでは13%となっている。しかし、まだ決めていない、もしくは決められない人はもっと多いのではないか。2015年総選挙では、世論調査会社が保守党の過半数の議席獲得を事前に読めなかった。その理由の一つは、どの政党に投票するかを投票所で決めた人がかなりいたためではないかという見方がある。

今回の国民投票では、総選挙のように指標となる前回の選挙がないため、その予測と結果の誤差はかなり大きいと見られている。つまり、世論調査の結果による予測がはずれる可能性が高い。

イギリスの賭け屋は、最近の世論調査などの結果、大きく賭け率を変えている。以前、残留が圧倒的に優勢だったが、離脱に賭ける人が増えており、離脱の賭け率が減っている。今でも残留が強いが、キャメロン首相らは、この展開を心配していると伝えられる。

保守党の内乱のもたらすもの

欧州連合(EU)にイギリスが残留するか離脱するかを決める、6月23日のEU国民投票まで4週間足らず。保守党は、残留派、離脱派で分裂しており、キャンペーンが過熱している。いずれの側も誤解を与えるような主張や誇張が多いと批判され、一種の泥仕合の様相を呈している。

これを見たギリシャの前財相(極左のエコノミスト)が、このEU国民投票は、EU初めてのもので非常に大切なものだが、それが一政党の党内対立で埋没していると批判した。この批判は当たっているように思われる。

ただし、この保守党の党内対立で漁夫の利を得ているのが、テリーザ・メイ内相と労働党のコービン党首のように思われる。まず、ここでは、メイ内相を見てみたい。

女性のメイ内相は、キャメロン首相の後の保守党党首・首相の座を狙っているが、このEU国民投票をめぐる保守党の分裂で、メイ内相の株が大きく上がる可能性がある。

2015年総選挙の前、キャメロン首相が、その次の総選挙では保守党を率いないと発言した。そのため2020年に予定される次期総選挙前の2019年ごろに党首選が行われると見られている。

しかし、国民投票の結果、もしEU離脱ということになれば、残留派のキャメロン首相が退陣するのは確実で、もし残留という結果でも、この国民投票のキャンペーンで大きく分裂した保守党をまとめていくのは容易ではなく、また、キャメロン首相の早期退陣を求める声が強まり、次期党首選が早期に行われる可能性がある。

キャメロン首相は、次期党首に盟友のオズボーン財相を推すが、キャメロン首相が早期退陣に追い込まれると、オズボーン財相の可能性が乏しくなる。一方、離脱派の旗頭の1人となったボリス・ジョンソン下院議員は、もしEU離脱ということになれば、次期党首の座が近づいてくるだろう。もし残留となっても、その差が少なければ、離脱派の多い保守党党員の支持を受けて党首となる可能性があろう。

また、残留が離脱に大差をつけた場合、オズボーンが有利となるが、オズボーン党首ではこのキャンペーンでできたしこりで保守党がまとまりづらい状況が生まれる可能性がある。

キャメロン首相は、自分の跡をつげるのは、オズボーン、ジョンソン、メイだと言ったと伝えられる。メイ内相は、難しい問題が多く、大臣の墓場と言われる内務省の大臣を記録的な6年間務めてきている。その手堅さは有名だ。キャメロン首相やオズボーン財相の推す残留派の立場を取りながらも、この問題であまり目立った活動をしていない。一方、内務省の管轄である警察などに関しては、警官の会に出席して、予想以上に警察の問題を鋭く批判するなど自分の存在を印象づける機会を慎重に選んでいる。

メイ内相は、2014年に保守党員らのインターネットサイト、コンサーバティブホームの大会で、自分の省管轄以外の問題にも触れた演説をし、党首選出馬準備だと批判されたことがある。そのため、かなり慎重に振る舞っている点はあるだろう。

いずれにしても、オズボーンとジョンソンの死闘の中、いずれもが党首となることができず、メイ内相が妥協的候補者として保守党の次期党首・首相となる可能性が高まっているのではないかと思われる。