日本の民進党に何が必要か?

森友学園、加計学園問題などで苦しむ安倍政権は支持率を下げているが、野党第一党の民進党は、支持率が上がるどころか逆に下がり、一桁台中ほどで停滞している。東京都議選でも小池都知事率いる東京ファーストが大きく支持を集め、民進党は議席を減らし、党首が辞任する結果となった。

東京ファーストの躍進は、フランスのマクロン新大統領が当選し、その率いる新政党が地滑り的大勝利を収めたことと重なる。すなわち、既成の主要政党に飽き足らない有権者がフレッシュな政治勢力に望みを託したいという思いを反映しているといえる。このような例に刺激されたのか、民進党の主要メンバーが離党して新党を模索する動きに出たが、マクロン大統領の支持率は既に大きく低下しており、このような新政治勢力が支持を持続していくのはそう簡単ではないことを示しているように思われる。

一方、イギリスの総選挙で見られたように、メイ首相の保守党は、地滑り的大勝利を予測されていたにもかかわらず、過半数を割る結果となった。その一方、野党第一党の労働党は、大敗北を予想されていたにもかかわらず、議席を増やし、もし総選挙が近々あれば、さらに議席を増やし、労働党政権が生まれる可能性が高いと見られている。

保守党と労働党はいずれも前回総選挙より大きく票を伸ばし、2党で、前回2015年の総選挙の得票率60%台から80%台に達する状況となった。その一方、地域政党を除いて第3党だった自民党はEUに関する2回目の国民投票を約束して選挙戦を戦ったが、予想に反し、前回総選挙で大きく失った得票をさらに減らした。前回総選挙で13%近い得票のあったイギリス独立党(UKIP)は2%を下回った。UKIPはもともとEU離脱を謳って設立された政党で、有権者の既成の政治に対する不満も吸収してかなり高い得票率を得たが、EU離脱が決まり、さらにUKIPの不満票を惹きつける力が無くなった結果と言える。

イギリスの主要2政党が高い得票率を達成したのは、有権者にはっきりと違う選択肢を提示したことが大きな要因と思われる。両党とも、EU離脱では、2016年国民投票の結果を尊重して離脱するという立場だったが、これからの国の在り方の点では大きく異なった。

前回2015年の総選挙では、キャメロン首相率いる保守党とミリバンド党首率いる労働党の間の政策の差が少なかった。労働党は、一定期間光熱費を凍結するという政策など、保守党から強い批判を浴びた政策を打ち出したが、いずれも緊縮財政の立場では同じような立場をとった。

一方、2017年総選挙では、保守党が緊縮財政の立場を維持し、税政策をあいまいにし(すなわち増税の可能性)、また、既存の便益を減らす立場を取ったのに対し、労働党は基本的に反緊縮財政の立場を取り、通常の公共支出ではない公共投資を大幅に増やし、保守党政権下で、実質ならびに事実上削減された福祉、教育、健康医療などの財源を確保するため、保守党政権下で大幅に下げた法人税を引き上げ、所得税ではトップ5%に増税するなどとした。その政策には大学授業料の無料化も含まれ、大学卒業後5万ポンド(約700万円)以上の借金を抱えると見られる多くの若者の負担を大幅に引き下げるとし、労働党は、「少数ではなく多数のため」に働き、「希望」を提供すると訴えた。つまり、保守党と労働党がはっきりと異なる立場を取ったことが、2党に票が集まった大きな原因と言える。

もちろんこれには、政治的な状況がある。メイ首相への有権者の評価が終盤まで高かったこと、コービン党首への特に若い世代の支持が急伸したこと、さらに労働党の政策への支持が高まったことである。労働党の政策は、強硬左派と目されたコービン党首が長年持ってきた基本的な考え方に基づくもので、それらが、2010年以来の保守党政権下の緊縮財政への不満が顕在化してきた時流に合ったことが背景にある。

さて、日本の民進党の最大の問題は、なぜ自民党ではなく、民進党でなければならないのかという基本的な問いに答えられていないことである。そしてその答えに必要なのは、イギリスの労働党のような将来への具体的なイメージであろう。

イギリスでもそうだが、政治コメンテーターのほとんどは、これまでの政治の動きの延長で将来を予測し、その枠内で行動しようとする。その将来の予測が共有されてくると、一定の範囲から離れられない(英語ではよくHerdingと言うが)という状態に陥る。それが、思考の足かせとなる。これが、ほとんどの世論調査会社がイギリスの2017年総選挙の予測を誤った原因でもある。

政情やタイミングにもよるが、政権政党の過ちを攻撃するだけでは、より多くの有権者の支持を得るのは難しい。さらに、もし民進党が党内で誰もが合意できる政策を打ち出そうとすれば、新しい、魅力のあるものが何も生まれないことになりかねない。むしろ、はっきりしたイメージをもとに、強い方向性を訴えて、その方向に党を引っ張っていくことが必要だろう。つまり、他の人を説得していく過程で、党内に強い求心力を作っていくということである。かつて小泉元首相が自民党の党首に選出された際には「自民党をぶっ壊す」と主張したが、そのような強いものが必要とされるだろう。

なお、今年初めに日本に帰国した際、民主党の蓮舫党首の街頭演説を見る機会があった。その際の印象は、すべてがたるんでいるというものであった。党首のスピーチは地元の状況にマッチしておらず、話が浮ついていた。しかもその前の地元の人のスピーチも準備不足だった。街頭演説の準備作業自体もおぼつかないものだった。

話を聞く人の心をどのようにつかむのか、どのような言葉を頭に入れてほしいのか、また、党や党首に関してどのような印象を与えたいのかというはっきりとした考えなしに、単に「流している」という印象を持った。緊張感のないこの状況では有権者の支持の流れを自分たちの方へ向けることは難しいと感じた。基本的な方向性の見えない状況で、自らに有利な政治状況を作ることのできない五里霧中状態の反映なのだろうと思われた。民進党がこのような閉塞状態を打ち破り、有権者に希望の持てる将来像を示すことが再生への第一歩のように思われる。

現状のままで、小手先だけの政策提示に留まると、支持を失いかけている自民党とともに、有権者の不満に直接さらされ、都民ファーストに見られたように新しい政治勢力に有権者の関心を奪われてしまう可能性があるだろう。

Brexit交渉の本質

通常、外国との関係、特に貿易交渉は、お互いの利益を図り、関税等を低くすることに重点が置かれる。しかし、Brexitの交渉は必ずしもそうではない。イギリスとEUとの交渉では、お互いの関係をより疎遠にし、関税、非関税障壁を上げる方向で動いている。この背景にはイギリス側、EU側双方の思惑がある。

多くのイギリス人には、欧州との関係が行き過ぎているという感覚がある。他のEU加盟国の国民が自由にイギリスに来て生活することができ、それが公共サービスに重荷になっているだけではなく、イギリス国民よりも優先されているという印象がある。また、欧州司法裁判所がイギリスの裁判所の上位にあり、イギリスの主権が失われてきている、EUに多額の負担金を支払っているという不満がある。それらの感覚が昨年のEU国民投票で離脱派が多数となるという結果を招いた。経済的なものだけではなく、政治的、感情的なものを含め、様々な要素が複雑に絡み合っている。それを単に、経済的な面だけで割り切ろうとするのには無理がある。

一方、EUという組織への疑いもある。巨大な官僚組織であり、民主的な吟味の過程を必ずしも経ることなく、EUの判断がそれぞれの加盟国の国民に大きな影響を与えている。確かにEU法令には、労働、環境、消費者の保護など、多くのプラス面があるが、その政策決定に不透明な点がある。秘密裏に進められていたEUとアメリカとの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉が漏えいされ、ネオリベラル的な規制緩和で、大企業に有利な制度となる可能性があったことが明らかになったが、そのすべてが前向きであるわけではない。

また、産業の国有化や、国からの援助には、一定の制限があり、現在のままでは、例えば、労働党が2017年総選挙マニフェストで謳った、鉄道などの再国有化などの政策が実施できない可能性がある。

フランスのマクロン新大統領の主張しているように、EU改革の話があるが、それが、これからどの程度前進するか、どのような形でまとまるかなど、その行く手がはっきりしていない。EU改革の議論はこれまでにもあったが、その方向性は「さらなる緊密化」であり、イギリス国民にある不満を解決する方向ではなかった。

イギリスはEU離脱の決断をした。国民投票そのものは、諮問的なものであったが、イギリス人の二者択一の政治感覚では、その差が小さくとも、どちらかが勝てば、それに従うのが当然である。それがイギリスの政権交代の本質でもある。議会でも、イギリスのEU離脱作業を開始するリスボン条約50条による通知に保守党、労働党が賛成し、承認された。

先述したように、EU離脱に投票した人たちには、様々な思いがある。これを経済的な、単一市場に残る、もしくは関税同盟に残るかどうかの議論に集約してしまうのには無理があるといえる。むしろ、国民の様々な思いを反映した、イギリス独自のEUとの関係を求めていく方向にはそれなりのメリットがある。この点で、最終的な考え方に差はあるものの、保守党のメイ首相や労働党のコービン党首が求めている方向性は正しいように思われる。

というのは、多くのコメンテーターたちの議論する、単一市場や関税同盟の「選択肢」には多くの問題があり、複雑な国民の気持ちを反映したものとはかなり離れた結果となる可能性が高いためである。

単一市場に残るかどうか?

EUを離脱しながら、EUの単一市場に残る、すなわち、欧州経済地域(EEA)に残るという案がある。この案の問題は、人の移動の自由を含む、いわゆる4つの自由を守る必要があり、しかも、EUの規制下に残る必要があることだ。すなわち、国境のコントロールと主権の回復ができないという問題である。欧州司法裁判所の判断に従う必要があり、しかも巨額の支払い義務が継続する。

例えば、ノルウェーはEU加盟国ではなく、EEAのメンバーとして単一市場にアクセスが許されているが、その人口一人当たりの負担金は、他のEU加盟国の6割余りである。一方、EUの執行機関である欧州委員会の委員の任命権はなく、欧州理事会で意見を述べ、投票する権利はない。欧州司法裁判所への判事の任命権もない。ノルウェーなどのEEA加盟国の人口は少なく、その国民性もイギリスとは大きく異なる。多くのお金を支払いながら、イギリスがEU主要国の座からほとんど影響力のない「属国」となれば、国民は納得しないだろう。

関税同盟はどうか?

関税同盟は、物の関税に関するもので、関税同盟以外の国との関税を統一するものである。ただし、このメンバーはEUの加盟国のみで、これらの国のみが他の国との交渉権を持つ。関税同盟の話で、よくトルコの話が出てくるが、トルコは、EUとの合意に基づく、別の関税同盟のメンバーであり、広い意味で関税同盟のメンバーではあるが、基本的にEU加盟国の関税同盟の決定に対する影響力は乏しく、関税同盟以外の国との交渉権はない。すなわち、それ以外の国との2国間貿易合意はできないこととなる。

さらにイギリスはEUの判断に従わざるを得ず、一方、欧州司法裁判所の判例に従う必要があるが、この裁判所に訴えることはできない。また、EUとアメリカの貿易合意ができれば、それをイギリスも受け入れる必要があるが、それが必ずしもイギリスの利益となるとは限らない。

結局、単一市場も関税同盟の方向も、現在のままでは、イギリス国民がとても受け入れられるものではないと思われる。

経済的な面で、イギリス経済に大きな影響を与えないよう、単一市場や関税同盟のような効果を求めながらも、特定のモデルに拠った方向ではなく、イギリスとEUの双方が受け入れられる、最善の道を求めるという立場にならざるを得ないこととなる。この立場をメイ首相も労働党も取っている。