2018年5月イングランド地方選挙(1)

地方選挙は、政治の現状を見るのによく使われる。今回の地方選挙の結果もその意味で注目されていた。イギリスの地方選挙では、地方によって様々な形があり、一様ではないが、地方議会議員の任期は通常4年であり、2018年の4年前の2014年との比較がなされることとなる。ただし、今回の地方選挙では、労働党関係者が、2014年の地方選挙と2015年の総選挙との関係、2017年5月の地方選挙と6月の総選挙の関係を取り上げ、地方選挙と総選挙は関係がないという主張をした。

確かに地方選挙では、地方の事情が色濃く出る場合がある。例えば、今回の地方選挙では、ロンドンで労働党が大きく支持を増やす可能性が強いと見られていたが期待外れになった。特にロンドンのワンズワース区とウェストミンスター区で、労働党が保守党から区議会過半数を奪い取る可能性がささやかれていた。しかし、いずれの場合も労働党が若干の議席を増やしたものの、保守党の支配は揺るがなかった。これらの区は、イングランドで最も地方税(カウンシル税と呼ばれる)が安く、標準の地方税の半分程度である。すなわち、労働党が過半数を占めれば、地方税が大幅に増える可能性が強く、有権者がそれに慎重になったのは理解できる。また、ロンドンのバーネット区では、保守党が議席を増加させ、過半数を獲得したが、その大きな理由の一つは、この区にユダヤ系住民が多いことが指摘された。すなわち、反ユダヤ人的だと攻撃されていた労働党に影響が出たのである。

地方選挙を見る場合、このような地域の事情を見ることが重要だが、それでも全体的な傾向を見ることは可能だ。

メイの難問:イギリス離脱後のEUとの貿易関係

メイ首相は、EU離脱後、イギリスはEUの単一市場も関税同盟も離脱するとしている。関税同盟は、域内の関税をなくし、域外からの輸入に同じ関税をかけるものであり、他の国に対しては一つのブロックとして交渉する。そのため、イギリスはこれまで独自の貿易交渉をしてこなかった。イギリスの単一市場、関税同盟離脱の大きな理由は、EUに事実上の決定権を握られ、しかもイギリスが独自に貿易関係を結ぶことができないからである。

ただし、それではイギリスの貿易の半分近くを占めるEUとの貿易関係をどうするかという問題がある。EU内にあることでイギリスに拠点を置いてきた外国資本がイギリスから撤退していくかもしれない。また、アイルランド島内のイギリス領北アイルランドとアイルランド共和国(EUメンバー)の国境問題がある。現在の境界も検問もない状況のままで継続していくためには、イギリスとEUとの貿易関係を緊密にし、検問などのチェックをできるだけなくする仕組みにしなければならない。

そこで出てきたのが、以下の2つの案であるが、いずれもEU側は消極的である。

①Max Fac(Maximum Facilitation)案:認定企業制度とテクノロジー(まだ開発中のものを含む)などを駆使し、国境でのチェックをできるだけ少なくする案である。しかし、税関でのチェックが完全になくなるわけではない上、EU側も同じような制度を設ける必要が出てくる。また、このような試みは世界でまだなく、実施までにかなり時間がかかる可能性がある。

②関税パートナーシップ(Customs Partnership)案:関税同盟の代わりに、イギリスとEUとの間で新たな枠組みを作り、EU並びにイギリスへの外部からの輸入に関し、それぞれの手続きをお互いの手続きと同じと認め合う案である。関税に関しては、もし外国からモノがイギリスに入ってきた場合、EUもしくはイギリスの関税のうち高い方をかけ、もしモノがイギリスに留まり、イギリスの関税がEUより低いものであれば、その関税の差を輸入業者は払い戻し請求ができる仕組みである。

この案では北アイルランドの国境で通関チェックの必要なしで済ませられる。しかし、EUの様々な規制に縛られる他、EU側、イギリス側の両方でかなり大きなコストがかかると見られる。また、事実上、イギリスがEU外の国と貿易関係を結ぶのに障害があると心配されている。

メイ首相は、この②案の方をよいと考えているが、5月2日のブレクジット内閣小委員会でこの案への反対が上回った

EU側は、アイルランドの国境問題の解決策をこの6月のEUサミットまでに合意したいと考えている。この問題は、EUとイギリスの将来の貿易関係に非常に密接に関係している。時間は乏しい。

なお、これからのイギリス・EU関係のスケジュールの概略は以下の通り。

2018年6月28-29日 EUサミット

2018年10月18-19日 EUサミット: EU側交渉代表者のバーニエはEU側がそれまで交渉してきた離脱合意に合意することを目指している。これには、「移行期間」に関する合意も含み、将来のイギリスとEUの関係についての「政治宣言」を含む。

2019年1月 イギリス議会と欧州議会の両方の離脱条約承認を目指す。

2019年3月29日午後12時(イギリス時間3月29日午後11時)イギリスがEU離脱。計画通りに進めば、イギリスは「移行期間」に入り、EUの意思決定過程から外れるが、それまでのイギリス・EU関係が続く。この関係は、2020年12月31日まで続き、それ以降、イギリスとEUは新しい関係に移る。イギリスは他の国と独自の貿易条約を結ぶことができるようになる。