ロンドン市長選の動向(Forthcoming London Mayoral Election)

この5月3日(木曜日)にロンドンの市長選が行われる。このロンドン市長選は、日本で言えば東京都知事選にあたる重要な選挙だ。

この選挙は、保守党のボリス・ジョンソン現市長と労働党のケン・リビングストン前市長の争いである。現在までの世論調査では、二人の差はかなり小さく、接戦となっていると見られている。

二人の間の主な争点は、ロンドンの公共交通の運賃である。ロンドン内では、地下鉄、バス、それに一般の鉄道網は私鉄も含めて基本的にロンドン交通局の統一運賃の下で運営されている。この運賃をジョンソン市長が今年1月に上げたのに対し、リビングストン前市長は、当選すれば運賃を7%カットすると表明した。このため、それまで劣勢と見られていたリビングストンが支持率を上げ、接戦となっている。

ジョンソンは、リビングストンの運賃引き下げは、ロンドン交通局の予算から10億ポンド(1300億円)が失われることを意味し、地下鉄の改善整備ができなくなる、リビングストンは向こう見ずだと非難した。ジョンソン市長の政策には、以下のようなものを含む。

 20万人の仕事をつくる
 首都に300エーカー(120ha)の緑のスペースを復活させる
 街路に2万本の気を植える
 商業の中心街改善のために2億2100万ポンド(290億円)を投資する
 大ロンドン庁分の地方税を引き下げる
 地下鉄の遅れを2015年までに30%減らす

ジョンソン市長には個人的な人気があるが、上記のような政策に有権者がどの程度関心を示すだろうか?

なお、ジョンソンは、保守党支持のテレグラフ紙のジャーナリストを務めた後、人気のある保守党寄りの人気雑誌スペクテイターの編集長を務めた。そして保守党の下院議員としてよく知られていた人物で、キャメロン首相の後の保守党党首の最有力候補である。

一方、リビングストンは、ブレア政権で新たに設置した大ロンドン庁(Greater London Authority)で初代市長を2000年から2008年まで務め、ロンドンの混雑税やオイスターカードと呼ばれる自動運賃支払いシステムを導入した。かつては、サッチャーが廃止する前の大ロンドン議会(Greater London Council)の多数派だった労働党のリーダーとして市長のような立場にあった。その後、労働党の下院議員となった。

政党の政策作りのメカニズム(How political parties make their policies)

英国の政党はどのように政策を作っているのだろうか?ここでは、主要三政党の政策形成過程を見る。

いずれの政党も政策形成過程はよく似ている。党中央の政策フォーラムのような組織が中心となるが、なるべく多くの人に参画させ、意見を集約するとともに、参加意識を向上させることを狙いとしている。党組織からの政策へ影響が比較的大きい自民党でも、政策形成にはかなり慎重に対処しており、党のリーダーシップが目配りできる仕組みを作っている。実際には、総選挙の際のマニフェストには、リーダーシップの判断が大きく影響する。つまり、マニフェストは、総選挙時の政治判断で決まるといえる。

保守党

保守党政策フォーラムという全国組織を設けている。保守党地方支部ごとにその支部があり、それをまとめる広域地域ごとの責任者がいる。全国組織の座長は、内閣府で政策担当相を務めるオリバー・レトウィン。レトウィンは、保守党の野党時代に影の財相をはじめ、影の内閣の重職を務めた人物である。2010年総選挙のマニフェスト作成の責任者だった。

主な政策課題は以下の通り。
• ensuring higher employment rates;
• achieving a more regionally-balanced economy;
• delivering more affordable housing;
• raising productivity;
• reducing the exposure of the banking sector;
• eroding income inequality and child poverty;
• improving child wellbeing;
• improving the life chances of looked-after children;
• ensuring elderly care is well funded;
• protecting natural capital; and
• reducing the scale of central bureaucracy
参照:http://www.conservativepolicyforum.com/what-cpf
労働党

全国政策フォーラム(NPF)が中心となる。このメンバーは、中央執行委員会(NEC)33人全員を含めて194人。この委員会の上部機関として、党首が委員長を務める合同政策委員会があり、また下部機関として6つの政策委員会がある。NPFが、最高議決機関である党大会に政策を提出。党大会ではそれ以外の課題も議論される。

労働党には「政権へのパートナーシップ(PiP)」という、労働党のすべての関係者、党員、選挙区支部、労働組合、社会主義関係団体、議員などを含めて政策を討議するシステムがある。上記で述べた政策委員会が政策案を出し、PiPで検討し、そのフィードバックが繰り返されるという形のサイクルがある。。その結果がNPFに上がることになる。

党大会で合意された政策は、総選挙の際のマニフェストの基本となる。2010年の総選挙では、現党首のエド・ミリバンドがマニフェストをまとめた。

6つの政策委員会の課題は以下の通りである。

Britain in the World
Crime, Justice, Citizenship and Equalities
Education and Skills
Health
Prosperity and Work
Sustainable Communities

参照:http://www.labour.org.uk/policy_making
自民党

連合政策委員会(Federal Policy Committee)が中心となる。このメンバーは、党大会で2年ごとに選出され、この委員会が党大会で議論する土台となる案を作成する。また、この委員会が、国会議員団と協力して既に合意された政策を基にマニフェストを作る責任もある。なお、自民党党首のニック・クレッグはこの委員会のメンバーで、この委員会の座長は、クレッグ党首の側近のノーマン・ラム下院議員である。

自民党では党大会が最も重要な機関で、年二回、春と秋にある党大会で、地方支部から選ばれた代表者たちが英国全体に及ぶ政策を決める。地方支部やそれより広範囲の人の集まりで、政策を議論し、その代表者が党大会で政策決議や政策案を議論し、それらに投票する。

なお、イングランド、スコットランド、ウェールズでは、それぞれの地域に関わる政策を決める。

参照:http://www.libdems.org.uk/how_we_make_policy.aspx