下院議長に反感を持つ保守党

保守党のかなり多くの議員が下院議長ジョン・バーコウに強い反感を持っている。バーコウが議長になったいきさつだけではなく、バーコウが保守党政権に都合のよいように下院を運営しないためである。そのため、機会があるごとにバーコウを攻撃し、バーコウの追い落としを画策してきた。

バーコウが議長に就任したのは、2009年6月であり、この6月で満9年となる。2010年に早期退職した議長秘書、そしてその後任で2011年にそのポストを離れた二人の苦情がメディアで取り上げられたのをきっかけにバーコウの「いじめ」を下院の行動基準コミッショナーに調べさせようとする動きがあった。ある保守党下院議員がコミッショナーに苦情を提出し、また、官邸が、この「いじめ」の問題には懸念を持っていると表明した。しかし、その調査を下院の行動基準委員会は認めなかった。

なお、この行動基準委員会には、下院議員の他に議員でない一般委員もいるが、委員会の採決は議員のみが行うことになっている。しかし、この委員会の委員長が後で述べたように一般委員の投票も認めるべきだという考えが出てきている。これは今後の下院での検討課題である。

バーコウの「いじめ」疑惑で、バーコウの追い落としに失敗した保守党は、さらなる攻撃材料を見つけた。保守党政府の下院のリーダー(通常は閣僚)であるアンドレア・レッドサムの政府の声明を突然発表しようとするやり方は、予定されていた無役の議員らの議会での発言機会を奪うと腹を立てた議長がその旨議長席から発言した後、「愚か(Stupid)」という言葉をつぶやいたのを保守党議員が聞き、それをもとに議長がレッドサムを「愚かな女(Stupid woman)」と言ったと主張してことは大きくなった。保守党支持のテレグラフ紙はそれを第一面で取り上げ、官邸はそのような言葉は受け入れられないとした。

議長がつぶやいて何を言ったかは、多くの人が聞いたわけではない。確かに、もし議長が「愚かな女(Stupid woman)」と女性のレッドサムに向かって言ったとすれば大きな問題である。労働党にもその言葉を取り上げ、議長を批判した女性議員がいる。しかし、議長はそれを公式に否定した

バーコウは、議会の役割を取り戻し、きちんと法案を吟味し、討議することに力を入れてきている。それを好感している議員は労働党に多く、保守党にもいる。「首相への質問(Prime Minister’s Questions)」は政府の施政を質す場として重要だとして、30分とされているが、予定された質問が済むまで延長して行うことがよくある。先週はそれが52分にもなった。メイは、それが嫌いだ。バーコウがあとどれくらい議長の地位に留まるか不明だが、いずれにしても議長は自分の退任の時期は、他の人ではなく、あくまで自分が決めると考えているようだ。

変わる英国王室

ハリー王子メガン・マークルさんが2018年5月19日結婚した。この結婚に至る過程は、父親チャールズ皇太子や兄のウィリアムス王子のものとはかなり異なる。英国王室が大きく変わってきていることを示すものと言える。

メガンは、これまでの王室に入る女性のイメージとは異なる。アメリカ人で、母が黒人の混血であり、ハリーより3歳年上で離婚歴がある。しかし、有名な女優で、慈善事業や男女平等などの活動で知られた、自分の考えをしっかりと持つ女性である。

チャールズ皇太子は、ダイアナ妃と結婚する前、現在のカミラ夫人と付き合っていた。カミラ夫人はその前に他の男性と付き合っていたことがあるため、将来の国王となるチャールズの伴侶にはふさわしくないと判断されたといわれる。そのため、チャールズはカミラをあきらめ、将来の国王の妻にふさわしいと考えられたダイアナ妃と結婚することとなった。しかし、チャールズは、既に結婚していたカミラとよりを戻し、後にダイアナ妃が「私の結婚には3人いる」と告白した事態になる。すなわち、ダイアナ妃、チャールズ皇太子、そしてカミラの3人である。そしてチャールズとダイアナの離婚、ダイアナ妃の事故死を経て、チャールズとカミラが結婚する。

1997年のダイアナ妃の事故死で、イギリス国民はヒステリックな状況となり、皇室への反感が高まった。そのため、エリザベス女王が、テレビに出演し息子チャールズの離婚した元妻であったにもかかわらず、ダイアナから学ぶものがあったとし、国民のダイアナへの思いに感謝するという事態となった。そしてダイアナ妃の棺を乗せた霊柩車の後ろをエリザベス女王の夫であるフィリップ殿下、チャールズ皇太子、そしてウィリアムとハリーらに歩かせるということとなる。また、国民のチャールズとカミラへの反感を鑑み、カミラの処遇に慎重になり、チャールズ皇太子の妻となるのに時間をかけた。

こういう問題があったため、チャールズ皇太子の長男ウィリアム王子の結婚には、本人の意思を重んじる方針に転換した。ウィリアム王子の大学の同級生キャサリン・ミドルトンとの関係が明らかになった際、キャサリンの母親はイギリスではそう高く評価されていないスチュワーデス出身であり、普通の家の出であるが受け入れようとした。また、キャサリンに目立ったキャリアはない。一時期、ウィリアムとキャサリンの関係が冷却したと言われ、女王が残念がったという話も伝えられ、女王がこの問題に気を使っていたことがわかる。

弟のハリー王子には、役立たずの印象があった。ハリーのどんちゃん騒ぎや女性関係はよくタブロイド紙をにぎわせたが、軍での経験の後、慈善活動に本格的に取り組みだしていた。母のダイアナ妃は慈善活動で有名だった。2016年にメガンに出会い、付き合い始め、メディアの心ない報道に面し、心を決めたようだ。

イギリスでは、ハリーとメガンの結婚式にあまり関心がないという世論調査があったが、BBCや他のメディアの報道を見ると、それ一色という状態である。むしろ、この結婚式で、大きな経済効果が期待されている。様々な文化の複合するイギリスによくマッチした非常にうまく演出された結婚式は、王室が変わったということをはっきりと示し、すでに国民の多くが評価している王室の存在を再確認したと言えるだろう。