保守党党首選の可能性?

6月のEUサミットで、ブレクシットの概要が決まるはずだった。ところが、このサミットでは移民の扱いが中心課題となり、ブレクシットはその他の話題の一つに過ぎなかった。その理由の一つには、保守党の中だけではなく、メイ政権の中でもブレクシットに関する考え方がまとまっていないことがある。それをまとめるのは、7月6日(金)に首相別邸で予定されている閣僚の集まりとされている。2016年6月のEU国民投票から2年たち、来年3月にはEUを離脱するというのに、未だに政府の立場が決まっておらず、追い詰められた状態になっていること自体、危機的な状態である。

ところが、問題はそれだけにとどまらない。有力閣僚のゴブ環境相が、首相別邸の会議で提出される予定の文書が気にいらず、破り捨てたと報道された。この文書は、ブレクシットに関する内閣小委員会の中のワーキンググループの報告書で、内閣の中の意見の相違をまとめるための重要なものである。すなわち、7月6日の会議の、少なくとも基礎になる文書にケチがついたことで、この会議そのものの意義が疑われる事態になってきた。

ゴブ環境相は、2016年のEU国民投票で離脱派キャンペーンの有力者の一人だった。ゴブ環境相の動きは、メイ下ろしの一環である可能性がある。強硬離脱派の中の他の有力リーダーであるジェイコブ・リース=モグは「原理主義的」であり、ジョンソン外相は、その軽率な言動に問題がある。もしメイが退くこととなった場合、リース=モグかジョンソンが後任の保守党党首、首相となって、EU側と交渉する立場となることには、保守党内からも、EU側からも理解されることが難しいだろう。その一方、ゴブの能力を高く評価する声があり、しかもプラグマティックな人物だ。保守党内をまとめ、EUに対峙するには、恐らく、これらの人物の中では最もふさわしいだろう。

そのようなことを反映しているのだろう、ブックメーカーの賭けでは、ゴブは次期保守党党首候補の筆頭となっている。ゴブに首相となる野心があることはよく知られており、現在の火中の栗を拾う覚悟はあるように思われる。むしろ今を逃せば、2016年の党首選でミソをつけたゴブのチャンスはなくなるかもしれない。7月6日の会議がどうなるかで、保守党の党首が交代する可能性が出てくる。

ブレクシットの行方

EU離脱法案をついに上下両院が承認した。メイ政権が崩壊する可能性があったが、保守党内のソフトな離脱を求める勢力の反乱を妥協で何とか抑えきった。しかし、メイ首相が主張するようなスムーズな離脱ができると見る人は多くない。メイ首相がEU離脱法案の問題を乗り切ったのは、メイ政権が極度に弱体化しており、政権が崩壊して総選挙や党首選挙などの混乱を避けたいなどという保守党下院議員の身内の事情による。メイ首相が強硬離脱派とソフトな離脱派のはざまで苦しんでいる構図が変わったわけではない。メイ首相の弱い立場を利用しようとする防衛相らをはじめとする勢力もある

なお、世論調査では保守党が労働党を数ポイントリードしているが、保守党の世論調査でのポジションは、2017年総選挙前の世論調査より大幅に悪化している。

また、世論調査でメイ首相が、ブレクシットの交渉をうまくしていると見ている人は少なく、3分の2の有権者はメイの交渉はまずいと見ている。このような状態にしたメイ首相の責任が問われるのは確かだ。メイ首相は、セキュリティなどの面からEU側が折れてくると考えていた節があるが、欧州版GPSガリレオ衛星システムや欧州逮捕状の問題などでイギリスがEU枠外におかれることがはっきりした。今やメイ首相の状況は切羽詰まっており、メイ首相は、EU側の助けを求めなければならないような状況におかれていると言える。

この中、強硬離脱派は、メイ首相に、EUと合意しないまま離脱する準備も進めるよう要求した。EUやアイルランドも合意なしのイギリス離脱の準備を進めておりエアバスやBMWなどの大手企業も合意なしの場合の警告を発している。しかし、メイ首相の性格を考えると、合意なしでEU離脱をするとは考えにくく、そのためメイ首相の苦悩はさらに深まることが予想される。