労働党新党首コービンの「首相への質問」

毎週水曜日、正午から「首相への質問(Prime Minister’s Question Time)」が半時間行われる。野党第一党で、正式な「対立政党」の労働党の党首は、首相に6つの質問が許される。 

この5月の総選挙まで党首を務めたエド・ミリバンドの質問には、保守党のキャメロン首相が、まともに答えず、お互いの貶しあいに終始することが多かった。しかし、労働党の新しい党首のジェレミー・コービンは、それを変え、きちんとした「大人の質疑応答にしたい」と表明し、それにキャメロン首相も応じた。

9月に労働党の党首に選ばれたコービンは、これまでに4回質問している。コービンは、1983年の初当選以来、30年以上を経たベテラン下院議員だが、これまで政府の役職にも、野党の影の内閣の役職にも就いたことがなかった。そのため、当初、この「首相への質問」でキャメロン首相に軽くあしらわれるのではないかと危惧する声があった。

1回目の質問(9月16日)は、9月12日に労働党の党首に選ばれてからわずか数日しかたっていなかったが、コービンは無難に乗り切った。この際、事前に質問を募り、Eメールで返ってきた4万の質問の中から、6つを選択し、それぞれの質問者のファーストネーム、つまり、マリーなど、姓名の名前を付けて質問したのである。これは新鮮な印象を与えた。コービンの質問後、あれは私の質問だったという人が現れ、でっち上げた質問ではないことがわかり、「正直」なコービンを印象付けたと言える。

確かに新たな試みではあったが、評価は、そう高くはなかった。質問は、住宅問題、政府の福祉助成(タックスクレジットと呼ばれ、生活費を補うもの)、メンタルヘルスの問題に関したものだった。首相の答えに対して、コービンは簡単なコメントを付け加えたが、散漫な印象を与えたように思われる。

2回目(10月14日)は、党大会シーズンのために下院が休会されていたため、1か月近く間が空いた後の質問であった。コービンの手法は、1回目の延長であった。タックスクレジット、住宅、乳がんの問題を扱った。

3回目(10月21日)は、コービンの真剣さはわかるが、質問がやや低調で、キャメロン首相の議論が勝っているような印象を受けた。質問の内容は、再びタックスクレジット、イギリスの製鉄産業の苦境、そして障碍者への不当取扱いの疑いで、国連がイギリスを調査していることに関したものだった。

そして4回目(10月28日)には、その2日前の月曜日に、上院でオズボーン財相のタックスクレジット削減が否決されたために、そのままでは、来年4月からの実施ができなくなったという事態を受けての質問をした。4回目で、コービンが質問に慣れてきたということがあり、しかも上院の反対で、政府側が苦境に陥ったという状況を効果的に使う質問だった。コービンは、6回の質問を、すべてタックスクレジットの問題に使い、「誰も暮らしが悪くならないと保証できるか」に絞った。首相は、守勢に回り、顔をしかめた。結局、キャメロン首相は、その質問に答えずに終わった。

首相への質問は、その時々の政治状況を反映する。コービンにとって、タイミングよく、この政治状況が起きた。しかも、保守党側のヤジの大きい時、意図的に沈黙したのは効果を上げたように思われる。しかし、首相への質問をコービンがどの程度活用できるかは、次回以降の出来栄えによるだろう。次回の首相への質問が楽しみである。

 

長寿社会で根本的な変化を迫られる政治

長寿社会を迎え、政治は根本から変わっていかねばならない。社会も教育も大きな変化を迫られている中、政治が、これからありうる社会像を示し、それへのはっきりとした方向性、対応した政策を打ち出していく必要が出てきている。しかし、政治は、後手に回っている。

人々の平均余命はたいへんな勢いで伸びている。医学の進歩と生活水準の向上、そして身体も、腰や膝、臓器も含めて、不調になった部位を入れ替えることができるようになった。しかもこれらの研究は、加速度的に進んでいる。

イギリスの統計局の発表では、1980-82年と比べると、2011-13年には、出生時の平均余命が、1日当たり、男性で6.3時間、女性で4.6時間伸びている。また、平均余命にかなり影響していると思われる喫煙がかなり減っている。1974年には、60歳以上の喫煙率が、男性で44%、女性で26%だったが、2012年にはそれぞれ13%と12%となった。

コペンハーゲン大学のルディ・ウェステンドープ教授によると、我々の平均余命は、毎日6時間延びているという。心臓血管の病気で亡くなる人が減っており、しかも認知症になる可能性も、イギリスの大規模調査によると、過去20年で30%減っているそうだ。大幅に寿命が伸びており、現在の子供たちは135歳まで生きる可能性があるが、それへの心の準備ができていないと指摘する。65歳で定年退職、年金を受給して死を待つといった考え方は、19世紀的な妥協の産物の残滓で、親の世代の生き方が参考にならない時代だと言う。

未来学者のロヒット・タルウォーが私立学校長の会で講演した話は、教育の場で特に重要だろう。タルウォーは、これからの子どもたちは、120歳まで生き、100歳まで働く可能性があるという。長生きする薬剤や医療の進歩で、毎年5か月寿命が伸びており、現在11歳の子供は120歳まで生きる可能性があり、100歳まで働くうち、10の職種で、40の仕事に就くのではないかという。

もし、100歳まで働くとすると、労働年齢が、20歳前後から100歳まで80年にも及ぶ。また、ロボットや自動化が伝統的な仕事に取って替わるため、イギリスでは、仕事が今後10年から20年で、30~80%減る可能性があるという。つまり、産業構造が大きく変化する中、このような変化に対応できる人を育てる教育に変えていかなければならないというのである。

時代は急激に変化している。これらの予測がどこまで本当になるかは不明だが、人々が、これまでよりはるかに長く生きる時代となり、はるかに高い年齢まで、本人の意思もしくは必要で働く時代になってきている。これまでの固定した考え方では、とても対応できない。

イギリスでも高齢者で働く人がいる。1914年生まれの男性は、76歳でDIYショップのB&Qで働き始め、20年間働いた。B&Qには高齢で働く人は、他にもいる。また、公共放送BBCの人気ラジオ番組「アーチャー家(The Archers)」でペギー・ウーリーを演じている人は、1919年生まれで96歳だが、現在も現役である。こういう例が益々増えていくだろう。

イギリス政府は、年金の受給年齢を段階的に68歳まで上げ、年齢を理由にして退職させたり、差別することができないようにした。しかし、人々が120歳や135歳まで生き、100歳まで働き続ける時代には、根本的に異なるアプローチが必要になっていると思われる。