イングランドの地方自治体は、2014年度の地方税(Council Tax)を平均して0.6%アップする予定だという。この地方税は住んでいる家のサイズによってかかる。イングランドの地方自治体を担当しているのはキャメロン政権のコミュニティ・地方政府省である。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの地方自治体は分権政府の管轄である。
この0.6%はかなり低いアップ率だと思われるかもしれない。しかしながら、これは非常に大きな政治的圧力の結果であり、実際には、いずれの地方自治体も苦しんでおり、それぞれの行政サービスの手法にも大きな変化を強いられている。
2010年5月に政権に就いた保守党と自民党の連立政権は大幅な財政削減に乗り出し、2011年度からの4年間で地方自治体への一般補助金を28%カットすることとした。その上、2015年度もさらに10%カットされる予定である。
地方自治体ごとに状況は異なり、政府の財政カットの影響は一律ではないが、いずれの地方自治体も大幅な支出削減を実施している。タイムズ紙(2014年3月3日)によると地方自治体は、今年さらに最大10万人のスタッフを減らし、2010年の政権発足以来50万人以上が職を失うことになるという。地方自治体のスタッフの数は2010年に290万人であったことを考えると、これはかなり大きな割合である。
なお、公共セクター全体の人員削減は、2010年から2018年度までに110万人に達すると見られている。教育とNHSでは予算が守られているので、それ以外の公共セクターで財政削減、人身削減が進められることになり、地方自治体もその例外ではない。教育とNHSの分野の公共サービス全体に占める割合は、1991年の42%から現在57%(570万人中)まで増加しており、さらに70%になる可能性があるという(IFSのレポート参照)。
以上のような状況の中、地方自治体にかかる財政的な圧力は非常に大きいものがある。しかし、地方自治体がそれぞれの財政の約2割を占める地方税のアップを積極的に進めないのには理由がある。中央政府には、地方自治体の地方税アップを強制的にやめさせる権限はないが、2つの手段でそれを防ぐ手立てを取っているためだ。
まず、地方税を凍結した場合には、地方税の1%ほどの補助金を支給することになっている。一方、2%以上地方税をアップさせる場合には、住民投票をしなければならないとしている。もし住民投票をすれば、否決される可能性が極めて高いため、地方自治体の中には、1.99%アップとしているところも少なくない。
地方自治体は、人員削減のほか、行政サービスの見直しなども積極的に進めてきたが、もう限界だという声もある。しかしながら、キャメロン政権のコミュニティ・地方政府大臣は、地方自治体のチーフ・エグゼクティブ(スタッフのトップ)の話を聞くべきではないと言う。むしろ、それぞれの自治体にアントレプレナー(起業家)となり、もっとビジネス感覚を使うべきだと主張しているようだ。
地方自治体の中にはこれまで無料であったサービスを有料化したり、有料であったものもその価格を大幅に上げる、住民サービスを大きく削減したり、慈善団体に任せるところも出てきている。また、地方自治体で所有する美術品を売ったところもある。クロイドンでは、陶磁器を1300万ポンド(22億1千万円:1ポンド=170円)で処分した。
エリック・ピクルズ大臣は公共支出の4分の1を占める地方自治体が財政削減の一翼を担うのは当然だと言い、地方自治体に50の支出削減のヒントを示した。地方自治体の苦しみはまだまだ続き、その影響を受ける住民もかなりいる。それでも地方自治体にビジネス感覚が生まれれば、マイナス面だけではないと言えるだろう。