キャメロン首相はかつて自分の政権はブレア労働党政権を引き継ぐものだとしばしば発言した。ミリバンド率いる労働党は、左寄りのブラウン労働党政権の継承だとして区別化しようとしたものだ。
ブレア労働党政権は、プロビジネスの立場を取りながらも、福祉、社会平等などの目的と共存する道、すなわち「第三の道」を探った政権だった。「第三の道」は具体的な理念としてまとまったものとならなかったが、キャメロン首相は、ミリバンドの労働党はプロビジネスではないとの見方を明らかにしたものだ。
タイムズ紙のマシュー・パリス(元保守党下院議員)は、そのコラム(11月8日)で、労働党は時代遅れで、必要なくなった政党だと主張した。しかしキャメロン政権がブレア政権の「ニュー・レイバー(New Labour)」アプローチを目指していたのなら、ブレア政権とキャメロン政権は重なる点が多く、キャメロン保守党の存在する中、「ニュー・レイバー」は今の時代に必要なくなったと言えるだろう。
パリスのあげた理由の一つは、労働党はその政治資金の多くを労働組合に頼っていることだ。21世紀には時代遅れだという。しかし、保守党はその政治資金の多くをビジネスマンに頼っており、その党員の平均年齢は65歳プラスだと言われる。両党ともに時代遅れとなっている点があると言える。
ミリバンド労働党は、キャメロン保守党と異なる考え方を持っている。これは悪いこととは言えない。例えば、ミリバンドが、エネルギー市場で競争原理がきちんと働いていないとして、光熱費を20か月凍結して改善策を実施すると発表した時、キャメロン政権は、それは計画経済的な考えだとしてミリバンドを非難した。しかし、直ちにその代案の検討に入り、エネルギー会社を監視するOfgemに調査を促すとともに、エネルギー会社に圧力をかけ、さらにグリーン政策の緩和を打ち出して、光熱費の削減に努めた。このように、考え方の違う政党が存在することには意味がある。
有権者の既成政治への反発が、小政党のイギリス独立党UKIP、スコットランド国民党SNP、緑の党などへの支持増加につながっているが、現在の主要政党の支持減少は、政治が将来への希望を提示するものではなく、極めて小さな領域の問題で子供が取っ組み合いをするというような印象を与えていることにある。イギリス政治はこの点で、もっと大人になる必要があるように思われる。
ブレア・ブラウン政権の失敗、そして現在も労働党がその責任を問われ続けているのは、その放漫的な財政運営である。鉄の財相と呼ばれたブラウンがしっかりとその財政を見ていたはずなのに大きく軌道を外れ、2007年からの金融ショックにうまく対応できなかった。この原因の一つは、福祉、社会平等の高い目標を達成しようとしたことにあるように思われる。これは労働党の弱さに直接つながっている。労働党は伝統的にこれらの問題に厳しい立場を取れず、問題の解決にお金をつぎ込む傾向があった。あのブラウンもその例にもれなかった。
ミリバンドは、次期総選挙に向け、投資は別だとしながらも、財政均衡と政府債務削減のために財政緊縮予算を実施すると約束している。財政的な制約から伝統的な労働党の政策からある程度離れる必要がある。本当に困難なのは、どこまで労働党が従来の単純な「弱い者の味方」的な政策からタフラブ(強硬だが慈愛のある)政策に転換できるかである。
労働党は、すでに、市場の競争原理がきちんと働いていない場合や、ビジネスが向こう見ずな運営をしている場合には、政府が強く干渉する立場を取っており、EUの国民投票を実施しないことを含め、保守党とはかなり違う立場をとっている。ミリバンドは、政治資金で労働組合との関係を見直し、党首選で党員の影響力を増し、労働組合の影響力を削ぐなどの改革策を実施し、労働党を新しい時代にふさわしい政党へと脱皮させる努力をしている。課題は大きいが、パリスの言うように労働党の存在価値がなくなったとは言えないように思われる。