秋の党大会で次期総選挙に備える政党

例年の党大会シーズンが始まっている。自民党(9月23〜26日)、保守党(10月1〜4日)、労働党(10月8〜11日)など。来年に総選挙が予想される中、それぞれの主要政策の立場を固めていくのに重要な時だと言える。

政権政党の保守党は、世論調査で労働党に15〜20ポイントの差をつけられており、スナク首相がその劣勢を挽回するのに躍起だ。その政策の中心の一つは、有権者の一部が負担になりすぎると感じている環境問題政策の緩和だ。これは、7月の下院補欠選挙のジョンソン元首相の選挙区で、予想に反して保守党の候補者が勝ったことがある。ロンドン市長選は来年春に行われるが、労働党の現職市長が、ロンドンの自動車の排出ガス対策で、一定の排出ガスレベルに満たない自動車に対する課徴金(1日12.5ポンド:約2200円)を課す地域を8月に拡大することにしていた(既に実施されている)。ロンドン郊外にある、ジョンソン元首相の選挙区の補欠選挙で、保守党が窮余の策として、その政策(Ulez:Ultra Low Emission Zone:超低エミッションゾーン)に反対するキャンペーンを打ち出し、その結果、議席を維持した。そこにかすかな希望を見出したスナク首相が、環境戦略の緩和を「長期的な」視野に基づくものとして打ち出したが、実際には、短期的な政権浮揚策だとして党の内外から批判を浴びている。スナク政権は手詰まりの状況だと言える。

自民党は、これまでの数々の補欠選挙で大きな得票差を覆して保守党を破っており、保守党議席を奪うのに躍起だ。そのため、2019年の総選挙までEU残留の立場であったが、EU再加入はさておき、今のところはEUとの関係を改善するという立場を打ち出した。これは、保守党議席を獲得するためには前の総選挙で保守党に投票した有権者に自民党に投票してもらう必要があるからである。これには世論調査の権威カーティス教授からの批判もあるが、当面は育児やNHSなどの政策を中心としている。

一方、次期総選挙で勝つと見られている労働党は、政権に備えてスタッフを拡充するのに力を入れている。この9月からは元事務次官のスー・グレイが、スターマー党首の首席補佐官として働き始めた。保守党は、グレイの就任を防ぐ、または、長期間就任させないようにしようとしたが、失敗した。労働党は、グレイ以外にも、数々の元国家公務員を労働党スタッフに採用している。影の内閣にも手を入れ、影の財相レイチェル・リーブ(元イングランド銀行勤務)のナンバー2に、下院のビジネス・貿易委員会の委員長だったダレン・ジョーンズを任命した。ジョーンズ(36歳)は優れた政治家(BBCの日曜朝の政治番組に出演)で、将来の労働党党首候補者の1人となるのは間違いないと思われる。

2010年以来の緊縮財政がもたらしたもの

今秋の新学年が始まる間際になって、ある学校の天井に使われたコンクリートが落下した。このコンクリートは多くの学校で使われており(病院や英国議会の建物を含め非常に広範囲に使われている)、児童生徒に危険をもたらす可能性があることから、イングランドの学校を担当するスナク政権の教育相の指示で多くの学校で施設が全面的または部分的に使えなくなった。このコンクリートの問題は、かなり前から指摘されていたが、これまでその対策改善への予算は大幅削減されていたのである。最近起きている多くの問題は、刑務所脱獄、地方自治体の財政危機、NHSの問題などを含め、保守党が政権についた2010年以来行っている緊縮財政の結果もたらされたものといえる。

2010年総選挙では、1997年以来政権に就いていた労働党が敗れ、最も多くの議席を獲得した保守党と第3党の自民党で連立政権を作り、5年間政権を担った。2010年総選挙の労働党の大きな敗因は、2007から8年の世界金融危機である。当時のブラウン労働党政権が銀行のとりつけ騒ぎなどを抑えるために数々の銀行の支援に踏み切り、国有化など一連の政策をとった。英国政府は今でも、NatWest銀行(かつてのRoyal Bank of Scotland)の38.6%の株式を持っている。

保守党は、労働党政権の経済財政政策を攻撃し、政権に就いてから緊縮財政を打ち出した。しかし、保守党の政策がそううまくいったわけではなく、保守党のオズボーン財相が、2012年のロンドンパラリンピックのメダル授与式に出席した際、観衆からブーイングを受けたほどだった。しかしながら、2015年の総選挙では、大方の予想に反し、保守党が過半数を占めた。その一方、それまでの5年間連立政権を組んだ自民党は、壊滅的な敗北を喫し、57議席から8議席となる。保守党が単独で政権を担うことができたために、キャメロン首相が思っていなかった、公約したEU離脱の国民投票を実施せざるを得なくなり、また国民投票で離脱という結果となるとは思っていなかったキャメロンは、即座に首相を辞任することとなる。

保守党は、2015年総選挙のキャンペーンで、財政赤字は労働党前政権のせいだと主張した。2010年総選挙で労働党が敗れた際、労働党のリーアム・バーン財務副大臣が、次期政権の財務副大臣宛てに「お金はない、幸運を祈る」というメッセージを残した。ジョークのつもりだったのだろうが、保守党は、このメッセージをたびたび取り上げて労働党の経済財政政策を攻撃した。バーンは、2015年の総選挙後、そのメッセージを残したことを、毎日非常に恥ずかしく思っていると言ったが、保守党政治家は2023年の現在でもそれを持ち出して労働党を攻撃する。なお、国の借金は一般の人やビジネスの借金とは大きく異なる。英国政府の借金は、今やGDP額に達しているが、日本政府の借金は国のGDPの2倍を超えている。

2010年総選挙でキャメロン保守党が訴えた政策の一つは、小さな政府で、政府の支出を極力減らし、減税を行うことが保守党のイデオロギーでもある。労働党政権で財政運営を誤ったためにお金がないという主張は、保守党の都合にもあっていた。しかし、労働党政権は13年も前のことである。緊縮財政を継続し、十分な投資を怠ってきたことが、現在の状況を招いていると言える。