党員の減少する保守党の将来(What Tory’s Future Holds?)

保守党の党員数が大幅に減っているようだ。保守党は1950年代には300万ほどの党員がいた。それが徐々に減り、1980年代に100万人を割った。それが今や10万人程度になったのではないかと見られている

保守党は、現在の党員数を発表していない。キャメロンが党首になった2005年には25万8千ほどであったのが、2010年までに17万台となり、現在では、キャメロンが党首となった時の半分以下になっているようだ。そのため、体面上発表できないようだ。

この急速な減少の理由には、英国独立党(UKIP)への支持の移行とキャメロン保守党の政策への反感、例えば、同性結婚の推進などが言われている。

自民党も2010年に保守党との連立政権に参加して以来、党員数が34%減った。2011年末の4万9千人が2012年末には4万2千5百人になっている。これは、明らかに保守党と連立政権を組んだことへの反感が大きな原因となっている。

一方、労働党は、20万人弱程度の状態で推移している。それでも1950年代に100万を超える党員数があった時と比べるとかなり少なくなっている。

党員の減少は、それぞれの政党の活動に大きな影響を及ぼす。選挙時の個別訪問や、リーフレット配り、候補者選定への参加、それに党費や政党支部への献金など、すべての党活動に影響を与える。つまり自分たちの信ずる目的のために貢献し、見返りを求めない活動家の数が減ることになる。また、党員数が減れば、かつては公費助成がなくても政党活動が可能であったのが、困難となる。

特に大きな問題は、選挙の候補者を選ぶ人たちが必ずしも社会を反映する考え方を持っているとは限らないことや、有権者との関係が希薄になることである。

保守党の現職下院議員の選挙区でも党員数が150を下回るところもあるようだ。保守党は、2015年総選挙への対応として、オバマ米大統領の2012年再選選挙でインターネット選挙を推進したジム・メッシーナを雇ったが、党員が少なくなる中、ソーシャル・メディアを使って浮動票を獲得しようという意図がうかがえる。

一方、主要政党の党員の減少は、社会の変化の反映とも言える。1951年の総選挙では、82.6%の投票率で保守党と労働党の二党で96.8%の得票をした。それが2010年には、投票率は65.1%に減り、両党で65.1%の得票率となっている。一般の有権者の政治離れが言われて久しいが、UKIPへの支持の増加は、既存政党への不満の表れと考えられている。

つまり、社会の変化に対応して政治も変わっていく必要がある。これには、下院議長のジョン・バーカウも危機感を持っている。ニュージーランドでの演説で、議会の根本的な改革が必要だ、有権者と再びつながる必要がある、そして政府の議会へのコントロールが強すぎるため、それをある程度放棄すべきだとの見解を述べたが、政府の保守党メンバーからこれは議長の権限を越えていると批判された。

保守党の下院議員ダグラス・カースウェル(Douglas Carswell)は、インターネットを有効に使って自分の選挙区で党員の数を2倍にした。カースウェルは、登録支持者やインターネットメンバーの制度を設けて、保守党の主な役職や選挙候補者の選定に関わらせたり、政策に影響を与えたりすることができるようにすべきだと主張している。

いずれにしても、これからの政治がインターネットと深く関係のある形で変化していくのは間違いなく、既成政党がiDemocracyにいかに素早く対応していけるかが生き残りのカギとなりそうだ。

保守党候補者となるコスト(The Costs to Become a Tory Candidate)

キャメロン首相率いる保守党の下院議員選挙の候補者となるにはどれくらいお金がかかるのだろうか?なお、英国議会は二院制だが、上院は公選ではない。

英国では、選挙で使える費用は低く抑えられている(参照2010年総選挙候補者別支出まとめ)。本稿で言う「保守党候補者となるコスト」とは、候補者となり、そして候補者として活動していく上で必要だと思われる個人の費用をさす。

保守党支持者の有力ウェブサイトであるConservativeHomeが保守党候補者有志を対象に実施した2006年の調査がある。どのようなものにコストがかかるのだろうか。

①候補者となり、候補者として活動していくコスト。

・保守党のアセスメントに出席する費用、それに伴う交通費と宿泊費。このアセスメントにパスして保守党本部の推薦候補者リストに載ることとなる。

・候補者としてのトレーニング費用。

・党大会などの大会参加費、交通費、宿泊費、さらに、補欠選挙があれば、その応援に駆り出されるが、その費用。

②選挙区を見つけるコスト

・候補者の空きのある選挙区を探し、調査する必要がある。それにはその選挙区への訪問も含み、交通費や宿泊費が必要となる場合がある。しかもそのような訪問は複数選挙区にわたる場合が多く、中には十余りの選挙区を訪問する人もいる。

・選考委員会出席。申し込むと、まずは書類選考があり、それで選ばれると選考委員会に出席してスピーチをしたり、質疑応答、面接を受けたりすることになる。それは何段階にも分かれており、残れば残るほど出席回数が増える。その度ごとに交通費や宿泊費が必要となる場合が多い。

・専門家によるトレーニングを受ける人もいる。演説の仕方、質疑応答への答え方などのトレーニングだが、かなり高いと言われる。

③候補者となってからのコスト

・住居費。もし地元に住んでいれば最小限で済むだろうが、英国では、自分の出身地で出馬することは地元の地方議会議員出身でなければ、そう多くはない。候補者となれば地元に住むことが期待される。場合によっては、それまでの自宅と選挙区での自宅と二つ持つ必要があり、かなりの出費となる。

・政党支部のイベント参加や、それに伴うラッフル(くじ)への費用。数が多く、かなりの額となる。

・電話代。候補者となった後は、2~3倍になると言われる。

・雑費。文房具、切手、コピー、慈善団体への寄付、その他。

④以上を実行するうえで、失う収入。

・昇進の機会を失う。

・ボーナスを失う。

・仕事を失う。時には候補者であることと会社などの勤務が両立しなくなる。

2006年時点では、選挙区の候補者となった人の平均コストは、④の失う収入も含めて£41,550(623万円:£1=150円)であった。今日ではそれより上がっているものと思われる。この調査結果は、当時多くのマスコミに報道されたが、BBCの報道では、「法外なコスト」だとされている。

ただ、日本の選挙と比較すると、保守党の下院議員選挙候補者はかなりつつましいように思われる。保守党でも選挙に立候補する人の大半は、ごく普通の人である。会社員などとして仕事を持ちながら、その制約の中で立候補していく。民主政治の在り方としてはより望ましい姿のように思われる。