選挙提携の難しさ(Electoral Alliance Not Easy)

一党で十分な支持が得られない場合、複数の政党が協力して選挙に臨めば、それぞれの支持率を合計した数字に近い支持率が得られるのではないかと考えがちだ。しかし、必ずしもそうとは言えない。

英国保守党の中にも、右の英国独立党(UKIP)が保守党の票を奪っているため、両党が選挙で提携すべきだという見解がある。

来年行われる欧州議会議員選挙は地区別の比例代表制であり、前回の欧州議会議員選挙で保守党に続き第二位の得票をしたUKIPは、次回最も多くの得票をするのではないかと見られている。UKIPの勢いを考えれば、再来年の下院議員選挙で保守党は票をUKIPに奪われ、大きな打撃を受けるのではないかというのである。

UKIPは下院議員選挙のほとんどの選挙区で候補者を立てる予定だが、独自の候補者を完全小選挙区制の選挙区で当選させる力はないと考えられている。そこで保守党がUKIPと選挙提携をして幾つかの選挙区をUKIPに渡して応援し、かわりにそれ以外の選挙区でUKIPに保守党候補者を応援させれば保守党への影響を最小限にできるのではないかというのである。

9月25日から26日に行われたYouGov/Sunの世論調査では、政党支持率が保守党33%、労働党40%、自民党9%、UKIP11%であった。もし保守党とUKIPの支持がそのまま合算されば、44%と労働党を上回る。UKIPの支持がそのまま移行しなくても労働党と互角程度の支持率になるのではないかという計算だ。

この世論調査で、もし保守党とUKIPが上記のような選挙提携すればどのように投票するかの調査も行っている。

わからない、もしくは棄権すると答えた人を除くと、保守党への支持は35%と2%アップする。一方、労働党への支持は45%と5%アップ、自民党への支持は11%と2%アップする。

この選挙提携があれば、UKIP支持者のうち56%はそのまま投票するが、あとの44%は他へ動くという(UK Polling Report)。つまり、UKIPを支持しているのは、現在の政府や保守党に不満を持っているからであり、それらの人たちが単純にそのような選挙提携を認めるわけではない。

興味深いのは、保守党支持者の4分の1が、もし保守党がUKIPと提携すれば、保守党には投票しないという点だ。保守党支持でも、右寄りの政策を嫌う人たちは、保守党の代わりに労働党や自民党に投票する人が、それぞれ5%、4%いる。

つまり、政党間の選挙提携は、ある程度支持率を増やすと言えるが、同時にその提携に不満を持つ人たちを生み、他の政党らに追いやり(棄権も含む)、その結果、プラスにならない場合があるということである。

下院議員選挙の投票権(Who is Eligible to Vote at a General Election?)

定期国会法の結果、次期総選挙は、2015年5月7日(木曜日)の予定だ。まだ、1年8か月ほど先の話だが、主要政党の間では、既に様々な選挙前の駆け引きが始まっている。

その選挙に誰が投票できるかは、多くの外国人にとっては、なかなか理解しづらい点である。もちろん日本人には投票権はない。しかし、英国人でない人でも多くの人が投票権を持っている。英国人でも誰に投票権があるか知らない人が多い。

選挙を担当する選挙委員会(Electoral Commission)が、誰に投票権があるか明らかにしている。それは以下のようなものだ。

①投票する届け出をしている。
②18歳以上
③英国民、英連邦国の投票資格のある国民、アイルランド国民
④投票資格を失う事由がない

英連邦の加盟国には、インド、カナダ、さらには南アフリカやタンザニアなど50余りある。さらにキプロスやマルタの国民にも投票権がある。例え英連邦から母国が追放されても、その投票権は維持される。

一方、上院議員には下院の選挙への投票権がない。

現在の規定は、1918年の人民代表法から変更されていない。そのために、大英帝国時代からの国王の臣民が今もその当時に与えられた権利を維持しているのである。

このことを問題にする人たちがいる。移民を監視している団体Migration Watch UKによると、2011年の国勢調査で、英連邦の国民で投票権のある人は、96万人いたという。それが2015年までには100万人を超える見込みだ。

つまり、英国に強いつながりを持たない人たちが、選挙の結果に影響を与える可能性が高いと主張しているのである。

先の労働党政権下で、2007年に有権者を絞ることを検討したそうだ。しかし、何の動きもなかった。これは、特に黒人や少数民族の人たちには、労働党に投票する傾向が強いからだと言う(タイムズ紙)。

英連邦の国では、インド系や黒人の人たちが圧倒的に多い。しかもこれらの出身の人たちの多くが、労働党に投票するのは確かに事実である(参照 5.人権構成の変化と政治)。

ただし、これを党利党略のみで判断したと考えるのは、早計かもしれない。英国は英連邦をまとめることで国際的な政治的影響力を保つ一つの手段としているからである。