もう喜劇的ともいえるジョンソン首相の誕生日祝いパーティの弁明

ジョンソン首相は、2020年6月19日に56歳の誕生日を迎えた。当時、コロナの感染拡大対策で、特殊な場合を除き、法律で、一緒に住む家族以外、屋内では会わない、屋外では最大6人までが十分な間隔を保って会うこととされていた。また、歌を歌うことはコロナウィルスを拡散する可能性があることから抑制されていた。なお、パブ、レストランや散髪・美容院などは閉じられていた時である。

この日、ジョンソン首相は、ロンドン近郊の小学校を訪れ、そこで誕生日のケーキをプレゼントされた。そして、午後には首相官邸に戻り、閣議室に入った。そこには、軽食と英国の国旗ユニオンジャックのケーキが用意されており、当時まだ婚約者であったカリーの先導の下、ハッピーバースデートゥユーの歌が歌われ、出席者にはケーキがふるまわれたという。

この事実を2022年1月24日に報道したのは、英国のテレビ局ITVである。ITVによると、これには30人程度までの数の人が出席したという。出席者には、首相官邸のスタッフ以外の人もいた。さらにその日の夕方、ジョンソン首相らは、首相のアパートで家族や友人らとの会を持ったという。

首相の報道官は、ジョンソン首相が閣議室での会にいたのは、10分足らずだったとした。また、夕方の会は、首相官邸の庭で、家族が出席してバーベキューをしたそうだ。1月25日には閣僚らが、この誕生祝いはパーティではない、また、出席者の数は、30人ではなく、10人に近い数であったなどと主張した。いずれにしても、国民のほとんどが、法律と政府の指示を守っていた時に、首相官邸では、それらに違反していた疑いがあり、その弁明はあいまいで喜劇的ともいえるようなものだ。

スー・グレイのパーティゲート調査は、すでにこの誕生祝いの情報も入手していると報道されており、グレイの調査結果は、今週中に発表される予定であった。ところが、1月25日、突然、ロンドン警視庁が取り調べに入ると発表した。当初の「調査範囲」によると、パーティゲートの関係で刑事犯罪の可能性があると認められる時には、グレイの調査は休止し、ロンドン警視庁が取り調べに入るとされている。そのため、グレイの調査結果の発表は、少なくとも数週間遅れると見られている。

ロンドン警視庁の取り調べについて、様々な議論がある。ジョンソン首相にとっては、圧力が非常に高まっていただけに、一息つけるという見方がある。グレイが自分の調査のもたらす影響の大きさをはかりかねて、ロンドン警視庁に役割を振ったという見方もある。一方、グレイの調査に関連して、関係者が証拠隠滅を図った疑いがあるともいわれている。コロナ関係の法律はもともと罰金刑であるが、その罰金刑を免れるために、証拠隠滅を図れば、それは刑事犯罪で、はるかに深刻なものとなる。ただし、ジョンソン首相の場合、罰金刑の問題ではない。有権者がパーティゲートの行方を、関心を持って見ており、その地位がかかっている。

パーティゲートの調査

内閣府の第二事務次官スー・グレイが、コロナ規制で集まりが厳しく規制されている中、首相官邸などで行われた集まりについての調査を進めており、その結果は1月末までに発表される予定だ。当初この調査の範囲には、特定の日に首相官邸と教育省で行われた集まりが挙げられていたが、次々に規制違反の疑いのある集まりが報道され、その範囲は拡大した。今ではこの一連の集まりは「パーティゲート(米国のウォーターゲートにちなんだ表現)」と一般に称されている。真夜中過ぎまでミュージックつきで行われていたものもあるようだ。なお、ここでいう規制違反には、コロナ拡大対策のために特に立法したものと必ずしも法的効力のないガイダンスなど様々なレベルのものがある。

ジョンソン首相は、この調査の結果が出るまで、自分や首相官邸のスタッフらがコロナ規制に違反する行動をしたかどうかの判断は待ってほしいと主張してきている。保守党内では、ジョンソン首相(保守党党首)への不信任の動きがあるが、グレイの調査の結果が出るまで判断を控えている保守党下院議員も多いようだ。

グレイの調査に対して、国家公務員の調査は当てにならないという見方もある。グレイの調査は、利害関係者の関与しない調査ではない。また、チームで行っているものの、基本的には一人の国家公務員の調査である。ただし、グレイがかつて行った同様の調査で大臣が更迭されたこともあり、グレイは普通の国家公務員ではないと恐れられている面もある。

この調査の結果がどのようなものとなるかについては、懐疑的なものが多い。特に、この「調査の範囲」の末尾にある「結果(findings)」は、すべての調査資料が公表されるのではなく、その概要に留まるのではないかと見られており、警戒する向きがある。また、この調査を命じたのは、ジョンソン首相であり、首相にこの報告書を提出することとなる。しかも自分も含めた閣僚の行動の可否を判断するのは首相であるため、グレイのできることには限界があるとする見方もある。

いずれにしても、ジョンソン首相の現在抱える問題は、「パーティゲート」だけではない。ジョンソン政権の他の政治倫理の問題もある。保守党下院議員を統制するために、選挙区への補助金をカットするぞとか、信用を失わせるような情報をばらまくなどと脅す、いわゆる脅迫の手段を使っていた疑いがある。この脅迫は、ジョンソン首相を保守党党首・首相にふさわしくないと公言している下院議員に対して特に強く行われているようだ。さらに、イスラム教徒の準大臣を更迭するのに、保守党院内幹事長が、イスラム教徒では他の大臣が不快だという理由も挙げていたという疑いが出てきている。イスラム教徒への差別問題である。ジョンソン首相のリーダーとしての人物を疑う話が、次から次に出てきている状況だ。

グレイの調査では、該当日の首相官邸の出入りのタイムカードを調べている、首相のアパートでの集まりも調べているなど、非常に細かな調査が行われているといわれている。結果がどのようなものとなるか注目される。ただし、どのような結果となろうとも、世論調査では、既に保守党並びにジョンソン首相への支持は急落しており、それを挽回できる可能性は極めて乏しいといえる。