不文憲法に付け入ったジョンソン

イギリスの不文憲法は、日本の成文憲法と異なり、状況の変化によって変わっていけるのでよいという見方があった。しかし、ボリス・ジョンソン首相は、イギリスがEUからの離脱問題を抱え、大きな決断を迫られているこの時期に、イギリス憲法の中核をなす女王を使って、9月中旬から10月中旬まで議会を閉会するという挙に出た。議会がジョンソンの動きを妨げることができないようにするのが狙いである。女王は首相の助言に逆らえない。ジョンソンのやったことは、ほとんど独裁的な行為である。自分の目的のため、不文憲法に付け入り、これまでイギリスが誇りにしてきた民主的な意思決定過程を踏みにじるものだ。

イギリスは国民主権の日本と異なり、議会主権の国である。その議会の口を封じようとするのは独裁的としか言いようがない。確かに不文憲法がそれを可能にしたわけだが、その基本原則を踏みにじるような行為は、罰されねばならない。

ジョンソンを罰することができるのは国民だ。早晩行われる総選挙でそれができるかどうかがイギリスの民主主義がどの程度のものかをはかるバロメーターとなろう。

上院の役割

イギリス議会の上院が、政府の提出したブレクジット法案に修正を加え、もし下院がメイ政権のEUとの離脱合意(もしくは合意なし)に満足しなければ、議会がメイ政権にEUと再交渉させることができるようにした投票結果)。この修正案は下院に再び帰ってきて、さらに審議されるが、そのまま残る可能性が高い。

メイ政権の案では、EUとの交渉結果は議会に諮るが、その合意(もしくは合意なし)を全体として受け入れるか、もしくは受け入れない(すなわち合意なしで離脱)の二者択一としていた。

メイ政権はEUの単一市場も関税同盟も離脱するとしている。しかし、メイ率いる保守党の中には、EUとの関税同盟に残るべきだという考えの下院議員もおり、メイ政権の最終的な交渉結果に反対する保守党下院議員がかなり出ると見られている。そのため、メイ政権の最終的な交渉結果が下院で覆される可能性がある。

強硬離脱派の国際貿易相は、この上院の動きに、選挙で選ばれていない上院が国民の意思(EU離脱の国民投票の結果)に反していると攻撃した。

ただし、選挙で選ばれていない上院を残そうとしてきたのは、保守党である。2010年から2015年まで続いた、キャメロン首相率いる保守党と自民党の連立政権では、連立政権合意に基づいて自民党が上院のほとんどを選挙で選ぶ制度に改革しようとしたが、保守党が反対したためにできなかった。そのようなことを棚に上げて、上院が国民の意思に反するなどと主張するのは、まったくのご都合主義だと言わざるをえない。

むしろメイは、ブレクジットに関し、できるだけ議会の関与を避けようとしてきた。国民の意思云々という主張は、議会からの横やりを防ぐための一つの言い訳である。最高裁判所が明言したように、2016年のEU国民投票の結果は、あくまでも「諮問的」なものだ。

イギリスは日本の国民主権と異なり、議会主権の国である。そのような国で、議会の意思をきちんと尊重せずに、政権が自分たちの判断だけでEU離脱を進めるのはおかしい。これはメイの仕事のやり方を反映していると言えるだろう。保守党内に小さな反乱があれば下院の判断が変わる状況では、上院の意思はこれまで以上に重要だと言える。