選挙に与えるコロナワクチン接種の効果

2021年5月6日木曜日に行われた英国の各種選挙には、コロナワクチン接種の効果がはっきりとあらわれた。

英国は、先進国の中で最もコロナワクチン接種の効果が出ている国の一つである。英国の人口は日本の半分ほどだが、成人の67%が1回目の接種を受けており、2回目の接種も受けている人の割合は3人に1人(日本と異なり、英国では1回目と2回目の間を大きく開けている)。そして、5月9日の当日の結果発表によると、検査数が100万件を超えるのに対し(日本は最も新しい数字は5月6日の5万4793件)、陽性数が1770件(日本は6493件)、そしてコロナ感染後28日以内に亡くなった人の数は2(日本は64件、日本のコロナ死亡の基準は異なる)だった。英国では、ロックダウンの緩和が始まっており、明るいムードが漂っている。

なお、英国(連合王国United Kingdom)は、4つの単位、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドで構成される。全体を管轄する英国政府はイングランドにあるが、地方分権が進んでおり、対外関係や軍隊など国としての対応の必要な部門を除くもの、例えばNHS(国民保健サービス)は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド分権政府の下にある。なお、イングランドのNHSは中央政府の管轄下であり、ジョンソン政権の保健相は、イングランドのNHSを担当している。

このうち、5月6日の各種選挙に関係したのは、イングランド、スコットランドそしてウェールズだった。コロナ後の明るい光が見えてきたムードの中で、有権者は、それぞれの担当政権を報いる行動に出たようだ。イングランドでは、ジョンソン保守党政権が、ウェールズでは労働党政権が、そしてスコットランドでは地方政党SNP(スコットランド国民党)政権がこのムードの受益者だった。イングランドでは、保守党が予想を上回って多くの地方議会で勝ち、同時に行われた下院の補欠選挙では労働党の牙城を大差で奪った。ウェールズでは、労働党が予想を裏切って健闘し、これまでのウェールズ議会選挙で最高に並ぶ60議席中30議席を勝ち取った。スコットランドでは、SNPが全129議席のうち64議席を獲得した。

3種3様の結果だが、イングランド、ウェールズ、そしてスコットランドの結果は、有権者が、コロナウィルス対策で効果を収めているそれぞれの政権を支持した表れといえる。

2021年5月6日の各種選挙でジョンソン政権の将来が見えるか?

英国では、選挙は木曜日に行われる。この2021年5月6日には、様々なレベルの各種選挙が行われる。ボリス・ジョンソン首相の個人的な問題もあり、ジョンソン首相率いる保守党がどの程度の結果を収めるか、2019年12月の総選挙で大敗した労働党が回復の兆しを見せるかなど、成り行きに注目が集まっているが、将来の見える選挙とは言えないだろう。その中で、最大の焦点は、スコットランド議会選挙である。

ジョンソン首相の問題

ボリス・ジョンソン首相は、もともとイギリスのような比較的民度の高い国では、苦しむ性質の政治家である。それでも、それほど悪い人物ではないと思われており、誰とでも気さくに話ができる人物だ。老若男女を問わず、ジョンソン首相をボリス、ボリスと呼び、大衆的な人気がある。その一方、生活や仕事の取り組み方はだらしがない。自分の子供の数を答えない(Wikipediaは「少なくとも6人」としている(2021年5月4日閲覧))。首相の年収(約£157,000、日本円で2400万円ほど)では生活できないとされ、ダウニング街の住居の改修費用の上限を超えるおカネを保守党献金者に支払ってもらっていた疑惑(現在、選挙管理委員会や議会の委員会などが調査中)で苦しい立場だ。最も新しい話では、婚約者との間に生まれた子供の乳母を雇うおカネや自分のフィットネストレイナーを雇うおカネを保守党献金者にねだったとされる。もともとタイムズ紙の記者だったが、記事を捏造して首になったなど、正しいこととそうでないこととの垣根が低い人物ではある。

これらの疑惑と、キャメロン前首相のロビーイング疑惑なども重なり、保守党への不信がどの程度現れるか注目される。

ハートルプール下院議員補欠選挙

ハートルプールは、これまで長く労働党の議席だったが、今回は、保守党が圧倒的に強いと見られている。2019年12月の総選挙では労働党が勝ったが、それはEU離脱支持有権者が多数を占めるこの選挙区で、イギリス独立党(UKIP)の候補者がEU離脱派の票を割ったためである。UKIPはその後リフォーム党と名前を変え、今回も候補者を立てているが、UKIPの看板だったファラージュ党首が引退し、新しい党首の下では知名度が不足している。そのため、保守党が勝ったとしても、それは当然だと思われる。その一方、労働党とスタマー党首にとっては、険しい道が続くことを意味している。

スコットランド独立問題

スコットランド議会選挙で、スコットランド国民党(SNP)が過半数を占めるかどうか注目される。SNPがスコットランド議会で過半数を占めれば、ジョンソン首相が反対しても、スコットランド独立国民投票の実施をくいとめることは難しいだろう。ジョンソン首相はスコットランドでは人気がなく、今回の選挙でも一度もスコットランドを訪問していない。

なお、英国の世論調査の権威、カーティス教授は、全129議席のうち、SNPが62議席、緑の党が10議席獲得すると分析している。前SNP党首・首席大臣だったサモンド率いるアルバ党が数議席獲得したとしても独立国民投票の点では、サモンドの力を借りずともスコットランド議会の過半数は占められることとなる。