アベノミクスの評価と今後

専門家たちの事前の予想に反し、2014年第3四半期の経済成長率が年率マイナス1.6%で、第2四半期の年率マイナス7.3%に続き、2期連続でマイナス成長となった。これは理論的に景気後退ということとなる。このため、アベノミクスの効果が議論されており、アベノミクスは失敗だという見解がある。しかし、そうではないという見方がある。

まず、アベノミクスはまだまだ有効だとするものは、今回の景気後退は、4月の消費税5%から8%へ上げたことの一時的なショックによるもので、単なるミニ・スランプにしか過ぎない。今冬から景気上昇に向かうとテレグラフ紙のAmbrose Evans-Pritchard.

一方、アベノミクスに効果がないわけではないが、時機を失したという見解がある。例えば、タイム誌のMichael Shuman20141114日)は、安倍首相は経済救済に必死だが、まだ必要なことを実施していないとする。アベノミクスの三本の矢、大胆な金融政策(第一)、機動的な財政政策(第二)、民間投資を喚起する成長戦略(第三)のうち、第一と第二の矢は実施したものの、第三の矢の経済の構造改革が遅すぎると指摘し、安倍首相にはそれができないかもしれないとする。安倍首相は、20146月、投資促進のための法人税減税、女性の登用、就業促進、農業改革などを打ち出した。しかし、重要な改革が停滞しており、その目玉となる経済特区や必要な労働市場改革は停滞し、TTPもそうだと指摘する。 

Fabius Maximusも厳しい見方をしている。まず、安倍首相の6月に発表した政策はほとんどの人が少なすぎると批判したとし、その前から安倍政権の支持率は下降していたと指摘する。そして今回のような景気後退は、政治力の必要な構造改革に取り組む力を削ぐという。また、アベノミクスのもたらす円安のために、実質賃金・年金が減り、家計所得が大きく減少していると指摘する。安倍首相は有権者の支持が無くなる前に選挙に打って出ようとしていると見るが、その構造改革能力を疑問視している。

結局、安倍首相のアベノミクスの試みには、この時点で二つの問題が指摘されるだろう。一つは、第三の矢の政策が出されるのが遅すぎ、しかもそれを実施するための政治的な意思が十分でなかったことだ。

それが12月の総選挙後改善されるとは考えにくい。つまり、自民党が2012年総選挙で地滑り的勝利を占めた際に比べると議席を減らすのは確実で、たとえ過半数を占めたところで大きく地歩を失ったという感覚は党内外に残り、安倍首相の力は大きく減退し、しかも経済の大幅な回復がない限り、安倍首相の後任に焦点が移ると思われるだろうからである。

投票権を引き下げると若者が選挙に関心を持つ?

日本では、選挙への投票権を20歳から18歳に引き下げることとなった。世界の多くの国が18歳を採用していることや、高齢者が増えており、世代間のバランスを取るため、さらには若い世代が政治に興味を持つきっかけとするなどの狙いがあるようだ。 

しかし、それが効果を生むのだろうか?それだけで若い世代が政治に関心を持つようになるのだろうか?日本の政治がより健全になるのだろうか? 

イギリスでは、1969年に18歳としたが、若年層の関心が必ずしも高いとは言えない。20155月に総選挙が予定されているが、その総選挙で初めて投票する現在17歳から21歳までの世代対象に行った世論調査では、投票するとした人は41%であった。全世代では60%、そして60歳を超える世代では4分の3の人が投票するとしている。年齢の高い層と比べると若年層の政治的な関心は低い。

これは、これまでの歴史的な傾向にも合致する。 

18歳から24歳の総選挙での投票率推移

総 選 挙 1970 1974 2 1974  10 1979 1983 1987 1992 1997 2001 2005 2010
投票率 64.9 70.2 62.5 62.5 63.9 66.6 67.3 54.1 40.4 38.2 51.8
全世代 72.0 78.8 72.8 76.0 72.7 75.3 77.7 71.4 59.4 61.3 65.0

出典:英国下院図書館資料SN/SG/1467 201373。(なお、2010年には自民党の党首クレッグによるクレッグブームで若い世代の投票率が伸びた。)

学校時代にきちんと市民権教育を施せば、投票率が高くなるだろうという見方があるが、ある研究報告書によると、英国の学校で市民権教育を実施したが、投票率向上への長期的な効果はなかったという。単に市民権教育を実施するだけでは不十分なようである。

そこで、選挙年齢を16歳まで下げる考えを持っている労働党の影の法相シディキ・カーンは、有権者となって最初の選挙を義務制にすることを検討している。投票年齢を下げるだけでは、若年層と年齢の上の層との投票率の差を広げるだけになるからだ。最初の選挙に投票するとその後継続して投票する傾向があることに注目した。

日本で投票年齢を下げるだけで若い世代の政治への関心が増すと考えるのは十分ではないように思われる。むしろ、もし最初の選挙に投票しなければ、その後も継続して投票しない可能性が出てくるのではないだろうか?

それでは最初の選挙を義務制にするのはどうだろうか?実は、この問題はイギリスの政党によって考え方が異なる。選挙への影響を考えるからだ。労働党が積極的なのは、若年層の支持が強いからである。

日本では、単に選挙年齢を引き下げるだけではなく、いかに若年層の政治への関心を高め、投票率を上げるかに取り組んでいかねばならないように思われる。もちろん制度的な点も検討していく必要があろうが、若い世代がより関心を持つような政治にしていくことが大切なことである。