英国政府の効率化と無駄削減(Coalition trying hard to cut waste)

内閣府担当大臣のフランシス・モードが、2011年3月から2012年3月までの間に、効率化と無駄削減で政府が55億ポンド(約6800億円)節約したと発表した(http://www.cabinetoffice.gov.uk/news/francis-maude-reveals-further-savings-beat-expectations)。

2010年に保守党と自民党が連立政権を組んで以来、保守党重鎮のモードが責任者となり、2010年5月から2011年3月には37億5千万ポンド(約4600億円)の節約を成し遂げた。今回の数字は、前年を大きく上回る。モードは、今後も徹底した質素倹約と生産性の向上を追求し、さらに節約の実を上げ、2015年には200億ポンド(約2兆4600億円)の節約を目指すと意気込んでいる。

この節約の内容は以下のようなものだ。

① 国家公務員の削減と絶対必要なスタッフ以外の雇用の管理で15億ポンド(約1800億円)。これは前年3億ポンド(約370億円)であった。2010年からスタッフの数は5万人以上減り、現在、第二次世界大戦後最低の42万8千人となっている。
② 政府全体のコンサルタント使用の凍結で10億ポンド(約1230億円)。コンサルタントの使用は、2010年以来85%減少したという。
③ 政府の物品・サービスの一括購入、効率化で5億ポンド(約620億円)。前年3.6億ポンド(約440億円)。
④ 広報・広告費は、必要不可欠なもの以外は凍結し、3.9億ポンド(約480億円)。前年は4億ポンド(約490億円)。
⑤ 政府のオフィスの効率利用、リースの契約見直し、打ち切りなどで2億ポンド(約130億円)。これは前年0.9億ポンド(約110億円)。

内閣府でこの責任者であった、元大手コンサルタント会社社長のイアン・ワトモアは今年1月から内閣府の事務次官も兼ねていたが、5月に突然辞職した。その理由は明らかになっていない。モードは、政治家でありながら非常に細かい点にまで口を出してくるマイクロマネジャーだと聞いたことがあるが、それが我慢できなくなった可能性はある。また、いくら無駄削減努力をしても、さらに多くを求めてくるのに嫌気がさした可能性はある。

なお、この発表には、マンチェスター・ビジネス・スクールのColin Talbot 教授などから、これは単なる財政カットであり、政府の主張する効率化ではないという見解もある(http://whitehallwatch.org/2012/08/09/lies-damned-lies-and-government-efficiency-savings-yet-again-this-is-starting-to-get-boring-4/)。人員削減にしても、空港の移民審査官など必要な人を減らしてしまい、混乱を招いたなど、試行錯誤的な要素はあるが、継続していると次第に焦点が合ってくる可能性が高いと思われる。前労働党政権時代の「放漫経営」で緩んだ政府の体質改善には時間がかかるだろう。

スティール卿の上院改革案(Lord Steel’s Lords’ Reform)

自民党の上院議員スティール卿が議員提出の上院改革案(House of Lords(Cessation of Membership) Bill)を出し、上院での審議を経、7月24日に第三読会を無修正で通過して下院に送られた。スティール卿は、最後の自由党党首で、社会民主党との統合後、社会自由民主党党首を自民党と改名するまで務めた人物である。この法案は、上院議員の引退、無出席、それに犯罪行為について定めようとするものである。これは、上院改革案でも、自民党党首クレッグ副首相の公選制を導入した上院改革とは基本的に異なる。

スティール卿の見解はこうだ(タイムズ紙8月8日への投稿を参照)。上院議員の数が多すぎる。高齢者が多い。世襲議員が未だにいる。議会に出席しない人でも上院議員として遇している(咋期には72人いたという)。また、かなり重い罪を犯した人でも議員として居座ることを許している。公選制を導入しようとする前にできることはかなりあるというのである。

そこでスティール卿は上記の上院改革案に付け加えて、以下のような点を付け加えるべきだという。

① 各議会会期終了時点での上院議員の定年を定める。現在825人ほどの上院議員がいるが、例えば、80歳とすれば、次期総選挙の予定されている2015年には、200人近い人が減り、もし75歳とすれば350人余り減る。なお、現在74歳のスティール卿は、この枠に入る。
② ブレア政権での上院改革で92人の世襲制貴族を残し、もしそのうちの誰かが上院を去れば、世襲貴族内での選挙を経て後継者が選ばれているが、この選挙をやめる。つまり、時間が経てば、世襲貴族はいなくなる。
③ 政党党首の上院議員候補者推薦をやめ、既存の上院議員任命委員会の役割を拡大する。

スティール卿の指摘したことはもっともなことである。多少の手直しで大きく改善すると思われる。しかし、政党のリーダーたちは上記の③を手放したくないのでことはそう簡単には進まない。