スコットランド独立住民投票の可能性

2017年6月8日に総選挙(完全小選挙区制)が行われることが、下院の投票で正式に決まった。下院の総議席650の3分の2を大きく上回る522票の賛成を得たのである。

この総選挙の一つの注目点は、前回2015年の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNP(スコットランド国民党)が、その勢力を維持・増加させて2回目のスコットランド独立住民投票に結び付けられるかどうかであろう。

スコットランド議会は、2017年3月28日、独立住民投票を実施することに賛成し、スコットランド分権政府にイギリスのメイ政権と時期をめぐる交渉を始めることを承認した。しかし、メイ政権は「今は、そのような時ではない」とし、Brexitが完了するまでそのような住民投票を認めないことを明らかにした。

1回目の独立住民投票は、2014年9月に行われた。当時のイギリス中央政府のキャメロン首相とスコットランド分権政府のサモンド首席大臣が、エディンバラ合意に調印し、1998年スコットランド法30条に基づく命令で独立住民投票を実施した。すなわち、この住民投票の結果には、法的な拘束力があることを明確にして実施したのである。この住民投票は、独立反対が55%、賛成が45%で、反対派が勝利した。

スコットランドのスタージョン首席大臣は、第1回目のような形で、1998年スコットランド法30条命令による住民投票を求めている。しかし、これがなくても、独立に関する住民投票ができないわけではない。

独立住民投票の可能性が高まってきた時、多くは、そのような住民投票を実施するには、このスコットランド法30条に基づく命令がなければならないと考えた。しかし、UCLのロバート・ヘーゼル教授によれば、その命令なしでも「スコットランドの独立交渉をイギリス政府と行うのに賛成か」といった諮問的な住民投票を行うことは可能で、著名な法律家たちが、それは事実上同じ効果があるとしていると言う。ただし、そのような独立住民投票の実施には、異議が出るのは間違いなく、最高裁の判断が出るまでに数か月かかるだろうとした。

つまり、スコットランドのスタージョン首席大臣は、世論に独立賛成の機運が盛り上がって来れば、メイ首相の承認なしに、そのような住民投票を実施することができるというのである。

スコットランドの世論は、今のところ独立反対の方が強いが、メイ首相にとっては、スコットランドの独立機運が盛り上がらないようにする必要があろう。この総選挙でスコットランドの情勢がどうなるか見ものである。

突然の総選挙

2017年4月18日、メイ首相が、首相官邸前で演説し、6月8日に総選挙を実施する考えを明らかにした。翌日の4月19日、下院で総選挙の実施を提案し、総議席数の3分の2の賛成を得られれば、その通り実施する方針だ。最大野党の労働党のコービン党首は、その提案を歓迎した。下院で3分の2が得られるのは間違いない状況であり、6月8日に総選挙が行われる見通しとなった。

2011年固定議会法では、任期途中での解散総選挙は、下院総議席の3分の2の賛成、もしくは政権が下院で不信任され、代わりの政権が生まれない時と限定されている。今回は、このうち、3分の2の賛成で実施される。

各種の世論調査で労働党の支持率は27%程度、メイ首相率いる保守党は42%程度であり、15から20%程度の差がある。労働党は、その惨敗した1983年総選挙並み、もしくはそれよりも悪い状況にあると見られている。しかし、メイ政権の政策に反対する労働党が、総選挙の実施に反対することはできなかった。

メイ首相は、この総選挙はBrexitの交渉のためと主張する。下院で保守党は、他の政党の総議席数を実質上17上回るだけで、保守党の中でも意見の分かれるBrexitを進めるためには、総選挙が必要だとする。この状況の中、もし労働党が総選挙の実施に反対すれば、労働党は特に右寄りのプレスから袋叩きにあう可能性もあった。

メイはこれまで総選挙は固定議会法通り2020年5月に実施するとし、それ以前の実施は否定してきた。このUターンの原因は、メイのこれまでの計算違いにあるように思われる。本格的なBrexit交渉が始まる前に、メイがこの選挙で保守党の議席数を増すとともに、総選挙後5年間の時間稼ぎをしようとしたのは明らかである。

具体的には以下の点がこの総選挙の背景としてあげられよう。

  • Brexitの交渉が予期していた以上に長引く可能性が高いこと。メイはこれまでEU離脱の通知から、定められた2年の交渉期間(2017å¹´3月から2019å¹´3月)内に、離脱後の関係も含めて交渉できるとしてきた。しかし、通知後のEU側の反応から、それは極めて難しいことがはっきりとしてきた。予定では、Brexitをうまく成し遂げ、その後の総選挙で保守党が勝利を収めるという計算だったが、今のままでは、2020å¹´5月までに今後の関係も含めた交渉を終えることは困難だ。

  • スコットランドの住民投票が行われる見通しが強いこと。スコットランド議会は既に住民投票の実施に賛成しており、メイ政権と実施時期について協議する決議に賛成した。しかし、メイ政権は、今はその時期ではないと無期延期の構えだ。しかし、SNP(スコットランド国民党)政権は、メイ政権の承認を受けなくても、スコットランドの判断で住民投票が実施できると考えている。さらに2021å¹´5月に予定される次期スコットランド議会議員選挙で前回2016年のように予想外に議席を減らす可能性があり、また2020年にはイギリス下院の総選挙が実施される(今回の総選挙発表でこの可能性はなくなった)ことも考慮すれば、それより前、すなわちSNPが既に求めている2018年から2019年に実施に向かうかもしれず、イギリスのBrexit交渉に差し支える可能性がある。

  • 国内面で、選別的なグラマースクールの拡充問題がある。メイはこれを自分の主要政策として推進しているが、保守党内に強い反対がある。教員組合が、その政策の合法性をめぐって司法審査に訴える構えを示しているが、この政策を確実に実施させるには、法制定が必要だろうと見られているが、現状では困難だ。それをスムーズに進めるには、保守党の議席数を増やし、しかもマニフェストに入れ、保守党下院議員ばかりではなく、上院にもマニフェスト公約として反対できなくさせる必要がある。

ただし、保守党が総選挙で勝つ可能性は高いが、それほど大きく議席を増やせないかもしれない。なお、今回の総選挙は、2015年総選挙時の650議席のままで行われる。予定されていた2020年総選挙には議席を600とし、選挙区のサイズを均等化することで準備が進められていたが、この案は2018年に正式に出されることとなっていた。

スコットランドでは、割り当てられた59議席のうち、2015年にはSNPが56議席を獲得したが、それにはあまり大きな変化はないだろう。北アイルランドに割り当てられた18議席はいずれも地方政党の議席であり、大きな変化はない。

一方、労働党は、非常に強い選挙区を多く抱えており、例えば、次点との差が大きく、最も安全な選挙区トップ20のうち17の選挙区は労働党だ。世論調査で支持率が低くてもそう大きく議席が減らないだろうと見られている。

さらに自民党は、前回の2015年総選挙では7.9%の得票率で8議席だった。23%を獲得した2010年から48議席減らした。しかし、2016年12月のリッチモンド補欠選挙で、昨年のロンドン市長選で保守党候補だった現職(メイ政権のヒースロー空港第3滑走路決定に反対して議員辞職して再立候補)を破り、自民党下院議員数を9に伸ばした。自民党は、今回のような総選挙を想定して、入念な準備を進めてきたといわれる。前回総選挙で自民党は保守党に多くの議席を奪われたが、今回は、保守党のBrexit政策に真っ向から反対する自民党の議席数が増すだろう。

今回の総選挙の結果が、ハングパーラメント(宙づり議会)となる、すなわち過半数を占める政党がない可能性は2割といわれる。労働党が勝つ可能性はほとんどなく、保守党が過半数を獲得すると見るのは8割だ。ただし、昨年のアメリカ大統領選挙や、現在進行中のフランス大統領選挙で見られるように予想外の状況が生まれる可能性はゼロではない。