低下する王制支持

エリザベス女王の在位70年を記念した各種のイベントが2022年6月初めに予定されている。1953年6月2日に王位に就いた96歳の女王への支持は強い。しかし、王制への支持は、低下してきている英国全体では58%が支持しているものの、スコットランドで王制を維持していくことに賛成する人は45%である。また、英国の若者(18から24歳)の支持は40%で、エスニックマイノリティーの人たちは、37%である。女王の在位60年時の世論調査では、69%が王制を支持していた。スコットランドでは50%だった。ムードは変わってきている。

一方、2022年3月にカリブ海諸国を訪れたウィリアム王子(チャールズ皇太子の長男で、皇太子の次の王位継承者)は、かつてのコロニアリズムから来る反感に直面した。時代は変わる。そして王制への支持も変化する。

自分に都合の悪い法律を作らせないことができるイギリスの女王

イギリスの君主である女王には「大権」がある。この大権は外交をはじめ広範囲にわたっている。現在では、イギリスの君主は基本的に首相の助言を受けて行動するようになっており、女王がこの大権を自由に使えるわけではない。ただし、このような大権に関連して女王に都合の悪い法律を作らせないよう、王室がスコットランド分権政府に働きかけ、法律を変えさせていたことがわかった。

環境問題は世界的に大きな問題で、イギリスでも積極的に取り組まれている。スコットランド(分権)政府が、グリーンエネルギーに関連して熱を送るためのパイプラインを敷くための法律を制定したが、その中には、パイプライン用の土地を強制的に購入できる条項がある。(なお、日本では公的な目的のための土地収用の力は弱いが、イギリスでは、公的な収用の力は強い。)

この法律案では、議会で正式に合意される前に、女王の権力や個人的利害、王室の収入などに関する場合だとして、女王の同意(Crown Consent)が求められた。(法律を裁可する形式的なRoyal Assentとは異なる)。ここで、王室側から女王の土地は強制収用の対象から除くよう要求され、スコットランド政府がそれを呑んだ。女王は、スコットランドに広大な土地を所有しているため、この制度の対象から除かれるようにしたというわけである。スコットランド議会が設けられてから、このように王室があらかじめ法律案を審査した例は67事例あるという。

王室は、特に1997年のダイアナ妃の悲劇的な死以降、国民にいかに見られるかに大きな注意を払っている。そのため王室が極端な行動に出る可能性は少ない。それでも、不文憲法で、古い、よく知られていないしきたりや制度が残る制度は、現代にはふさわしくないといえる。