イギリスの官僚も楽ではない(続)

政治の狭間で、官僚が苦しむことはよくある。「イギリスの官僚も楽ではない」で取り上げた、内務省の第二事務次官は、下院の内務委員会に呼ばれて質問に答えず、その結果、答弁が「満足のいくものではない」とされ、委員長から下がり、当日の仕事終了時間までに答弁を提出するよう指示された。

ところが、当日の仕事終了時間までに答弁を提出せず、この官僚は、再び内務委員会に呼ばれることとなった。しかし、テリーザ・メイ内相が、それを拒否した。その結果、委員長は、もしメイ内相が質問に答えなければ、メイ内相本人に委員会に出席してもらうとし、その手紙を首相、財相、それに委員会委員長の連絡会議委員長にコピーして送った。

メイ内相は、その手紙への返事で、とうとう委員会の質問に答えた。

メイ内相の手紙によると、国境セキュリティに関する不慮の事態に対する予算の配分は、前回の委員会の後で行われたようである。第二事務次官が返答できなかったのはこのためのようだ。ISISなどのイスラム教過激派テロリストなどの入国問題が大きくなっている時に、国境警備局の予算が削減されているとの内部からの告発を受けての質問だったようだが、政治的な動きの渦中で、天下に「無能ぶり」を示した官僚には立つ瀬がない。

イギリスの官僚も楽ではない

内務省の第二事務次官オリバー・ロビンスが4月12日、下院の内務委員会に呼ばれた(この様子は以下のリンク。なお、この部分の映像は16.12.18から開始)。ロビンスは、内務省の移民に関する部門を管轄しており、それに関するものである。ところが、委員長からの質問にはっきりと答えなかった。

委員長の質問の中心は、以前、内務省の国境警備局(Border Force)の局長が、新会計年度の始まる4月までにはその局の予算がはっきりすると答えたのに関するものである。そこで国境警備局長の直属の上司であるロビンスに、局長が予算額を理解しているかと尋ねたのである。委員長が、同じ質問を9回繰り返したが、ロビンスははっきりと答えなかった。

その結果、委員長が、ロビンスの答えは満足の行くものではないとし、その日の仕事が終わる時間までにその答えを委員会にEメールで送るよう指示した。それから他の質問に移ったが、これらの回答も不十分で、結局、質問が始まりわずか20分余りで、これまでの答えは不十分だと委員会から下がるよう指示された。委員長は、重ねて、その日の仕事終了時間までに回答するよう求めたが、ロビンスはその指示に従わなかった。その結果、ロビンスは、4月20日に再び委員会に召喚されることとなった。

これには政治的な問題が背景にある。キャメロン政権は財政削減に力を入れているが、内務省もその圧力の例外ではない。その結果、増加する移民に対応する部門も経費削減に直面している。しかし、国民には、移民の問題で欧州連合(EU)からの離脱を求める人がかなりおり、しかもフランスやベルギーでのテロリストアタックの後、ISIS(「イスラム国」)などのイスラム教過激派テロリスト入国を防ぐための国境管理が大きな課題となっている。そのため、移民関係の予算に言及するのは避けたいという状況があるように思われる。

いすれにしても、ロビンスが現在のポストに就任して半年ほどであるが、ロビンスは政治に翻弄されているようだ。内務委員会の委員長は、この職を過去9年間務めているベテランの弁護士である。よほどの準備が必要なのは明らかだ。しかし、現在40歳で、これまで首相と国家安全保障委員会の国家セキュリティ副アドバイザーを務めるなど、陽の当たる場所にいた人物が、回答が満足のいくものでないとされるのは、大きなショックであろう。メディアは、これを「委員会から放り出された」と報道した。昇進が早すぎたのだろうが、官僚も楽ではない。