イギリスの景気どうなる?

一般に景気後退の恐れは和らいだと見られている。

6月の国民投票でイギリスがEU離脱を選択すれば、イギリス経済には、すぐに大きなショックがあり、景気後退局面に入ると見られていた。しかし、それから3か月、イギリスの統計局(ONS)は、9月21日、イギリス経済への長期的な影響はまだわからないとしたものの、大きな影響は出ていないと発表した。

さらに7月の消費は0.4%アップした。消費支出は強いままで、失業は少なく、現在の4.9%は過去11年間で最低水準である。住宅価格は安定している。しかも国の借入は、1年前より少ない。

このような中、EU離脱投票はイギリスに非常に大きな悪影響を与えるとしていたIMFがその見解を大きく変え、イギリスの2016年の経済成長の見通しは1.8%でG7の中で最も高いだろうとした。なお、アメリカは1.6%、日本は0.5%の予測。IMFは、イギリスが離脱を選択すれば、インフレが上昇し、GDPが5.5%下降、株式市場は暴落、住宅価格は急降下すると予測していたが、それらが悲観的過ぎたことを認めたのである。

なお、IMFの2017年のイギリスの経済成長率は、経済が下降し、インフレが上がり、見通しが不安定なため、ビジネスが慎重となる、さらに通貨ポンドの価値が下がり、生活に響くということから1.1%としている。なお、アメリカの2017年予測は1.6%、日本は0.6%である。EU国民投票のキャンペーン中、離脱派がIMFの予測は外れるばかりだと主張し、IMFの警告はあまり効果がなかったが、IMFは面目を失ったかたちだ。

一方、EU国民投票以来、イギリスのポンドは大幅に下がっている。数日前、米ドルに対して1985年6月以来の最安値を記録したが、それがさらに下落。ポンドの購買力が大幅に弱まり、輸入品の価格が上昇する結果を招いている。インフレは、7月には前年と比べて0.6%、8月は同レベルの状態で安定しているが、来年は3%を超えるという見方もある。確かに輸出には有利で、製造業は好調だ。また、イギリスでの滞在費や買い物の価格が下がっているとして、海外からの旅行客は大きく増加している。特に、欧州、アメリカ、日本、中国などからで、特に中国からは昨年と比べて60%アップしていると言われる。

ただし、他のEU国などの外国人労働者で、本国に仕送りしている人たちは、仕送り額が大きく減り、イギリスで働く価値が薄れるという効果があると見られている。

なお、イギリスの株式が大きく上がっている。FTSE100は、10月5日には、2015年4月の記録7104に近い7074を記録した。今年2月から28%アップ、国民投票からは12%アップしている。ポンドが下がり、株が上がるという現象は、多国籍企業の本社がイギリスにある、もしくはイギリスで上場している場合、米ドルで稼いで、ポンドで利益を計上するため、ドルがポンドに対して強くなれば有利だということがその一つの理由とされている。さらに、メイ首相がイギリスのEU離脱に移民の制限を優先するとしたことから、単一市場を離れる憶測が高まり、イングランド銀行が既に0.25%の政策金利をさらに下げ、国債や預金利子からの収入が見込めないと考えられたことから、株式の方が望ましいとする動きがあるとされる。

ハモンド財相は、イギリス経済は復元力が強いが、今後2年以上、ローラーコースターのようなアップダウンが続くだろうとした。イギリス経済の行方は、今しばらく見守る必要があるように思われる。

EU離脱後の貿易関係

メイ首相が、EU離脱を定めたリスボン条約50条による、EUへの通知を来年3月末までに行うと発表した。この通知で2年間の離脱交渉期間が始まる。EU加盟国すべてが同意した時には、この交渉期間を延長できるが、その合意がなされても、それでイギリスとEUとの関係に決着がつくわけではない。

この離脱交渉では、離脱後のイギリスでのEU国人の取り扱い、また、他のEU国に住んでいるイギリス人の処遇等を含め、EUとイギリスの関係の清算に関する権利義務などの交渉が中心となる。

離脱後のイギリスとEUの関係の焦点はイギリスのEU単一市場へのアクセスと人の移動の自由の問題だが、離脱交渉中にある程度の話はできたとしても、イギリスがEUを離れた後でなければ合意はできない。この合意は、EUとEUに加盟していない国が行うべきものだからである。メイ首相はすでにノルウェー型などの既存のモデルではなく、イギリス独自の形とすることを表明しているが、それがどのようなものかはまだ明らになっていない。離脱派は、EU法の国内法に対する優越や、EUの裁判所の監督、それに負担金などに反対してきたが、これらを考えると、欧州経済地域(EEA)への加入は現実的ではない。いずれにしても詳細な交渉となり、2年では無理だと見られている。

しかもこれらの合意には、加盟国のトップが出席する欧州理事会で全員の同意と欧州議会の賛成が必要な上、加盟国議会と関連議会の36の議会の同意を得なければならない。もし、いずれかの当事者が反対すれば、それで進捗はストップする。すなわち、イギリスとEUの新しい関係が構築されるのは、離脱合意の後、かなり後のこととなる。それ以外の国との貿易合意も、例えばオーストラリアが関心を示したが、それはイギリスがEUから離脱した後だと明言したように、離脱後かなり時間がかかる。

そのため、離脱合意後、イギリスの貿易関係は基本的に世界貿易機関(WTO)のルールに従うこととなる可能性が高い。しかし、この道も「複雑な交渉」となる。いずれにしても、EU以外の国との貿易交渉は、EUがイギリスを含めた加盟国のために担当してきた。EU離脱後、イギリスは独自で徐々に築いていく必要がある。そのため、今後長期にわたり、不安定な貿易関係が存在する可能性が高い。

メイのBrexit

保守党の党大会が10月2日から始まった。7月に首相に就任したばかりのメイが党首として初めて参加する党大会である。直近の世論調査では、保守党支持率が39%で、党大会の終わったばかりの労働党に9ポイントの差をつけており、メイの首相としてのハネムーンは続いている。メイの首相としての能力への評価は高いが、その期待に応えられるかどうかが今後のカギとなる。特に、メイに期待される仕事で最も重要なBrexit、すなわち、いかにイギリスをEUから有権者の期待に沿うような形で離脱させられるかが課題となろう。

メイは、リスボン条約50条で定められたEU離脱のプロセスを開始する通告を来年3月末までに行うとし、この規定で定められた2年間の交渉の後、2019年の春にはEUを正式に離脱するという期待を高めた。また、イギリスがEU法の国内法への受け入れを定めた法(1972年欧州共同体法)を廃止すると発表したが、この法案を来年女王陛下の発表する政府の政策方針に入れ、イギリスが将来EUを離れる段階で発効させるようにする予定である。これらは、メイのBrexitへの取り組みに疑いを持っていた党内のEU離脱派を喜ばせる象徴的なものだ。

メイは、党大会初日の演説の中で、移民のコントロールを優先するとしながらも、できる限りEUの単一市場へのアクセスを図るとし、既存のモデル(ノルウェーやスイスなど)とは異なるイギリス独自のEUとの関係を築くとした。ただし、それがどのようなものかは未だにはっきりしていない。メージャー保守党政権で財相も務めた、ケン・クラークは、メイにはまだ具体的なアイデアはないとしたが、少なくとも、その詳細は、明らかにされていない。

これは、キャメロン前首相のEU国民投票実施の発表の際の状況にも似ているように感じる。2013年1月、キャメロンが2015年の総選挙後に自分が再び首相であれば、EUと交渉し、EUとの関係を改めた上で2017年までに、EUから離脱するか残留するかのEU国民投票を実施するとした。ところが、EUとの交渉は予想外に困難で、域内の人の自由移動にこだわるEUの壁を崩すことはできず、表面的なものに留まり、国民はEU離脱を選択することとなった。

メイは、具体的な交渉の詳細は今後とも発表しないとしたが、期待のコントロールは簡単ではない。特に、Brexit関係担当の3人の閣僚(ジョンソン外相、デービスBrexit相、フォックス国際貿易相)は、いずれもかなり癖の強い人たちである。

メイは、内相時代に重用したスタッフ2人を首席補佐官として自らの手元に置き、また内相時代に自らの部下だった閣外相(グリーン労働年金相、ブロークンショー北アイルランド相、ブラッドリー文化相)を閣僚に起用するなど、これまでの仕事上の経験と関係を重んじているようだ。

自らがキャメロン首相に抑えられた経験から、ジョンソン外相ら3人の閣僚を統御できると考えているのかもしれない。ただし、首相になる野心を持っており、失敗しないよう慎重だったメイとこの3人はかなり異なる。メイはBrexitを含む3つの内閣小委員会を自らが取り仕切り、すべてに目を配る体制を取っている。これは、既にコントロールフリークと攻撃されているが、そのような手法でBrexitの案がうまくまとめ切れるかどうか、それがメイの最初の課題だろう。そしてできるだけEUとの経済を含む関係を傷つけないような離脱そして将来の関係交渉となる。キャメロンの経験したようなEUの壁をメイが感じるのは間違いないだろうが、それにいかに対処するかでメイの真価が問われるだろう。いずれにしても、Brexitはまだスタートもしておらず、今回のメイの発表は、方向性の概要を示したに過ぎない。

コービンの労働党大会

リバプールで開かれた労働党の党大会には驚いた。無能と攻撃されていたコービンらの首脳部が予想外に有能な党大会運営ぶりを見せたからである。もちろん、すべてがコービンらの思惑通りに進んだわけではない。核武装のトライデントシステムの更新(既に下院で更新が採決されている)に関する問題で、影の国防相との政策のすり合わせが不十分だった。また、労働党の執行機関である全国執行委員会(NEC)への参加資格を巡って、NECとコービンらとの間に対立があり、コービン側の意見が通らなかったこともある。しかし、9月28日のコービンの党首演説はコービンのベストの演説だったとの評価があり、それは聴衆の反応でも示された。コービンにとって成功した党大会だったといえる。

この党大会は、厳しい党首選直後のため、特にメディアの注目を浴びた。党首選は、党員・サポーターらの支持する現職のコービン党首と、大半の労働党下院議員の支持する挑戦者オーウェン・スミス下院議員との戦いだった。コービンが党首では次の総選挙が戦えないと判断した労働党下院議員たちがコービン追い落としを謀ったのである。しかし、党大会の始まる9月25日の前日の24日に発表された党首選の結果は、1年前の党首選で党員・サポーターの圧倒的な支持を受けて初当選したコービンが、その支持を伸ばし、コービンへの謀反は失敗した。

この結果を受け、内乱状態の労働党をいかにまとめられるかに注目が集まった。反コービン派の下院議員たちは、党内がまとまることが大切だと言いながら、コービンへのけん制をはかる者が多い。これらの下院議員はコービンにはリーダーとしての能力がないと決めてかかっている。しかし、コービンの党首演説や、その前の9月26日の、コービンの党首選責任者を務めたマクダネル影の財相などの主要メンバーの演説は、よく考えられており、能力がないと言えるものではない。

マクダネルの考え方は、足枷のない国際化の中で、自由経済は醜い不平等をうんだとし、企業活動を自由にさせる時代ではなく、勤労者の権利や最低限の生活(真の生活賃金)を守るため、国が積極的に介入・協力して、公平な社会を築くというものである。そのため緊縮財政をやめるとし、以下のような施策を提言した。

  • 記録的に低い利子率を利用した5000億ポンド(65兆円)の短期的な積極的公共投資と新事業への投資
  • 収入への課税から資産への課税へ
  • 税逃れ摘発部門の国税局職員の倍増、そのような企業の公共サービス契約の禁止
  • 企業取得の際の賃金・年金の保証、
  • 企業所有権の変更や閉鎖の際の社員共同所有推進、
  • 業界別団体交渉の復活、
  • 最低賃金を2020年に時給10ポンド(1300円)以上とする。
  • 起業家国家の構築
  • スト制限を強化した2016年労働組合法の廃止

コービンは、

  • 地方自治体の借金制限を除き、住宅資産を担保に公共住宅建設のための借金を促進
  • NHSの民営化の流れを止め、真に国の事業とする
  • 幼児教育から成人教育までをつかさどる国民教育サービスを設置
  • 学生の生活扶助・助成金復活のため、法人税を1.5%までアップ
  • 国家投資銀行を設け、インフラ投資に貢献する
  • 人権侵害の問題のある国への武器販売の禁止
  • GDPの3%を研究開発に向ける

さらに、注目された移民の制限の問題では、移民のイギリス社会への貢献を強調し、移民の「数」の制限はせず、そのかわりに移民の公共サービスや賃金への悪影響を緩和する方策を訴えた。しかし、移民の問題が、6月23日に行われたEU国民投票でBrexitの結果を招いたと広く信じられており、それへの直接の対策を打ち出すべきだとする意見が労働党内にもある。ただし、移民の問題は、単に移民が増えているというだけではなく、移民がNHS、学校、公共住宅などの公共サービスに与える影響を肌身に感じているという要素がある。それへの対策に、移民インパクト基金を復活させるとした。かつてブラウン労働党政権が2008年に設置したが、キャメロン政権で2010年に廃止されたものである。さらにイングランド北部で離脱投票が多かったが、これらの地域で十分な投資がなされておらず、住民の不満が高まっていたことを指摘し、これらの地域をはじめ、全国至る所で投資をすることを訴えた。この点は、スコットランドのスタージョン首席大臣が、保守党政権の緊縮財政と離脱投票の関係を指摘している点に通じる。

一方、トライデントの問題については、コービンは個人的には更新反対だが、党としての政策は更新賛成のままである。ただし、多国間核軍縮は推進する立場だ。しかし、これは、核軍縮を訴える団体から強く批判された。また、NATOにはその集団主義、国際主義、弱者を助けるという考え方から引き続きメンバーに留まるという立場を明らかにしている。シェールガスのフラッキングの禁止も掲げた。

もちろんコービンやマクダネルは強硬左派で、その政策は左である。ただし、コービンが「21世紀の社会主義」と主張したように、平和な世界と公平なイギリスを築くため、現在の社会に適合するような政策を求めたものである。ミリバンド前党首の回りくどいともいえるような政策、特に緊縮財政をめぐるあいまいな立場とは異なり、はっきりと保守党と差別化したものである。

コービンの政策に対し、これらは単に「社会主義者の夢」だと批判し、コービン労働党は、その施策のために莫大な借り入れをし、イギリスの財政を破たんさせるだけだという見方もある。ただし、影の財相マクダネルはロンドンの地方自治体で財務のトップだった人物であり、ロンドン全体の地方自治体組織のトップを長く務め、運営の経験が豊富である。マクダネルは、今年3月、財政ルールを発表している。コービン労働党の批判者が、労働党が「無能」だと決めつけ、こきおろすのは、その政策にある程度メリットがあることを示唆しているように思われる。

ただし、コービンには克服すべき多くの課題がある。まずは、労働党内の調和をいかに図るかである。コービンに不信任を突きつけた党所属下院議員たちとの関係改善は急務である。さらに、保守党に世論調査で大きな差をつけられており、有権者の支持を引きつけ、コービンの党首、そして首相としての能力があると認めさせることは容易ではない。コービンは、その演説で、2017年に総選挙があることを想定して準備を進めるとした。コービンを支持するために加入した多くの党員、そしてコービンに投票するためにサポーターとなった多くの有権者がいる。これらの人たちの協力を得て、総選挙準備を進めるとしたが、その効果がどの程度あるかである。

また、コービンの演説は評価されたが、その移民政策などで、これまでの古い原則にしがみついているのは誤りだという見方がある。ただし、政策には、左から右へ、右から左へと揺れ動く傾向がある。総選挙は来年行われるかもしれないが、2020年までないかもしれない。2020年は3年半後で、Brexitの後になるだろう。その時には有権者の移民に関する考えは、全く変わっているかもしれない。例えば、NHSには、EU国民が5万人以上働いている。Brexitのために移民の数が自然に減ったり、必須の公共サービスで人手不足の事態になったり、また人口の増え続けるイギリスで住宅建設は必須だが、高く評価されるポーランド人の建設関係労働者がいなくなれば、これらの分野でも人手不足の問題が出てくるだろう。有権者の移民への不満も変わる可能性がある。

移民へのヘイト犯罪が増加している背景には、EU国民投票で離脱派が反移民政策を煽り過ぎたことがある。そのような問題も避けたコービンの移民政策は、イギリスでは妥当なものと思われるが、それを有権者が理解するかどうかは別の問題である。コービンは目先の問題で立場を変えるのではなく、自分の原則に徹した政策を取ろうとしている。それが実を結ぶかどうかは、政情がどう変わるか、コービンに運があるかどうかにかかっているように思われる。

道遠い自民党

自民党のファロン党首は、労働党の党首に再選されたコービンが野党第一党の党首として失敗した、労働党がその役割を果たさなければ、保守党のBrext政策に対し自民党が反対する用意があると主張した。

2010年総選挙で57議席を獲得した自民党(Liberal Democrats)は、選挙で過半数を獲得できなかったキャメロン率いる保守党との連立政権に参加し、当時の党首のクレッグは副首相に就任した。連立政権では、課税最低限度額の大幅アップや児童への無料昼食などを推進し、また、保守党の行き過ぎを止める役割を果たした。しかし、自民党が総選挙で約束した大学授業料アップ反対に背き、大学の授業料3倍増に同意。その次の2015年総選挙では、自民党の議席が半減するとの予測を大きく下回り、わずか8議席獲得したのみ。クレッグが党首を辞任し、ティム・ファロンがその後任となった。

それから1年。世論調査での支持率は6%ほどと停滞し、ファロンの知名度はほとんど上がっていない。世論調査によると、現在の支持者の85%は連立政権に参加したことに意義があったと感じている。また、2010年に自民党に投票したが、2015年には他の政党に投票した有権者の4分の3は、次の総選挙で自民党に投票することを検討するという。しかし、その7割は、自民党の目的をわかっていない。また、有権者の3分の2が、ファロンがどうしているか知らない。

6月23日の国民投票で、イギリスがEU離脱を決めた後、自民党に2万人近い人が入党し、今や7万8千人ほどになり、1990年代半ば以来最大レベルである。一時、2014年4月には、党員数が4万4千まで落ち込んだと言われるが、2015年総選挙直後、そしてEU国民投票後の増加で、現在のレベルまで回復した。また、コービンが党首に再選された後、1日で300人が参加し、党大会以来の1週間で1千人が加入したという。

自民党の党大会の締めくくりの演説で、ファロンは、Brexitについて、事実上の2度目の国民投票となる、EU離脱交渉の成果についての是非を問う国民投票を提起した。ただし、これには自民党が全体として賛成しているわけではない。例えば、ケーブル前ビジネス相は、そのような試みは有権者の意思をバカにしているという。また、ラム下院議員も反対している。ファロンは、自民党が親欧州政党であり、国民投票後の入党者の増加を勘案し、特に残留を求めた有権者の支持を求めようとしているが、既に国民の多くはBrexitを受け入れ、しかも恐れられていた経済ショックがまだ具体的に表れていない中では弱いかもしれない。しかし、ファロンは、他の政党と異なることを訴えて、注目を集める必要がある。

ファロンは、さらに、労働党のブレア元首相を称えた。ブレア政権はイラク戦争参戦の汚点がついているが、イラク問題などを除けば多くの称賛すべきものがあるとする。例えば、NHSへの投資、最低賃金制度の導入、労働者の権利の向上などである。ファロンは、ブレアを引き合いに、強硬左派のコービン率いる労働党の中道左派、さらには、右のメイ政権の中道右派を引き寄せようとしているようだ。既に傷ついたブレアの名前を出すことでその当初の目的を成し遂げられたか疑問に思えたが、それ以降、千人の入党者があったことから見るとある程度の効果はあったようだ。

それでもファロンの問題は、メイが右の立場から、少数特権階級ではなく「誰にもうまく働く国」というレトリックで中道まで惹きつけしようとしている一方、コービンが鉄道などの「国有化」、「社会正義」などで、強硬左派の立場をはっきりさせている中、自民党の立場が中道というだけで、はっきりしていないことにあるように思われる。

かつて自民党は、保守党ではなく、労働党でもないということで支持を受けていた時代があった。2010年の連立政権交渉で、連立政権に参画する代償として、下院の投票制度の改革(AV)の国民投票実施を保守党に約束させたが、その背景には、保守党や労働党の支持者が、それぞれの選挙区で支持政党が当選する可能性が乏しい場合、より当選可能性の高い自民党候補者に投票する傾向があったことがある。しかし、現在では、特に労働党の支持者が自民党候補者に当選する可能性がかなり少なくなった。自民党が保守党と手を組むことを警戒しているためである。

時代は変わった。2010年には、自民党と保守党との連立の可能性はほとんどないと思われたが、労働党のブラウンを嫌うクレッグが党首で、しかも2010年総選挙キャンペーンではクレッグブームが巻き起こり、クレッグの権威が高かったために実現した。イギリスに経済危機が襲うのではないかとする見通しが高まり、政治の安定が強く求められていた時でもあった。ケネディ元党首が、保守党との連立政権に反対したが、そのような声は少数派だった。自民党の党員は、キャメロン政権でクレッグらが成し遂げたことに今でも誇りを持っている。

ファロンはコービンの労働党を批判し、反メイ保守党政権の有権者の支持を集めようとしている。しかし、その回復への道はまだかなり遠い。

コービン現象

労働党の党首選で再選されたコービンの背後には支持者たちの強い支持がある。昨年の労働党党首選以降、労働党の党員数は急増し、50万人を超えた。コービンの党首選の選挙責任者を務めたマクダネル影の財相は、今や68万人の党員で、来年には100万人に達する可能性に言及している。

ブレア・ブラウン労働党政権時代、労働党の党員数が減った。2009年末には15万6千人まで低下。2010年には若干回復し、19万4千人となったが、ミリバンド党首の下、2014年まで19万人程度で推移した。

ミリバンドが2014年に党首選ルールを大きく変えたのは、自らが労働組合の応援で党首に選ばれた上、労働組合が選挙区で下院選候補者選考を操作しようとした疑いが出たこともあるが、党員数が停滞する現状を改善し、草の根の党基盤を拡大することが狙いだった。それまで党首を選ぶには、①党員、➁組合などの関連団体関係者、そして③下院・欧州議会議員の3つのカテゴリーで3分の1ずつの票を割り当てていたが、それを党首選有権者全員に1人1票を与え、その合計で当選者を決めることとし、①党員、➁関連団体サポーター、さらに、アメリカの大統領選予備選でしばしば行われている有権者の登録をもとに③「登録サポーター」の制度を導入した。なお、保守党は、いくつかの選挙区で候補者選出に党派を問わず投票させる公開予備選を実施したが、これもアメリカで一部行われている「公開予備選(Open Primary)」をもとにしたものである。ミリバンドの党首選改革は、コービンの出現で、想像もしていなかったような結果を生んだ。

コービンの主要な支持母体は、モメンタムと言われる団体である。この団体は、コービンが党首になってから生まれた。そのメンバーは1万8千人、それにサポーターが15万人いると言われるが、急激にメンバー・サポーターを増やしている。また、コービン支持者には若者が多いとされるが、それだけではなく、今回の党首選では、25歳から60歳の党員の3分の2近くがコービンに投票していると見られており、かなり広範囲の年齢層の支持を集めている。さらに女性の党員の3分の2近くの支持も集めている。このコービンへの支持は、現在の政治に飽き足らない人々の一種の社会運動にまでなっているという見方もある。

世論調査では、強硬左派のコービン率いる労働党への支持は、保守党をかなり下回っており、また、コービンを有能なリーダーとして認める有権者が少ない。ある世論調査によると、有権者のコービンへの信頼度は、これまで労働党が圧倒的に強いと考えられていた国民保健サービスNHSの分野でもメイ首相より下回ることがわかった。労働党下院議員たちとコービン、さらにこれらの下院議員とコービン支持の党員・サポーターの関係が十分機能していないため、コービンが有権者に大切な問題を対処できる能力があるとは信じられていない。そのため、労働党が総選挙で勝てると見る人はほとんどいない。

しかし、このコービン現象を警戒する声はある。メイ首相の率いる保守党は、その党員数が13万から15万と見られていた。最近、5万人ほど党員数が増えたというリポートがあったが、現在どの程度の党員数かはっきりしていない。保守党の問題は、その党員の大多数が引退した人たちであることである。2015年総選挙では若い世代のグループが接戦の選挙区をバスで回ったが、この活動にはいじめの疑惑があり、自殺者も出し、しかもこの活動の費用が選挙違反という疑いも出るなど、多くの問題があった。このような保守党の現状は、コービン現象で増大する労働党支持基盤と比べるとかなり大きな違いがある。

この中、67歳のコービンでは総選挙に勝てないだろうが、もしカリスマのある、多くの支持を得られるような人物がコービン後の党首となり、現在の強力な支持基盤を継承すれば、全く異なる状況となるという見方がある。コービン現象を現在の政治状況と切り離して考えることは危険だという警告であろう。

労働党党首に再選されたコービン

労働党の現党首ジェレミー・コービンが党首に再選され、その党内での立場を強めた。約64万人が有権者で投票率は78%。昨年の党首選で55万人余が有権者で76%が投票したのを上回る。コービンが61.8%を得票し、昨年の59.5%より大きな支持を受けた。これは、今回の党首選のいきさつを考えると、驚くべき結果と言える。

今回の党首選は、労働党の下院議員たちがコービンを党首の座から追い落とそうとして始まった。6月23日のEU国民投票でイギリスがEU離脱を選択した直後である。コービンが中途半端な残留運動をしたとして、コービンにはリーダーとしての能力がなく、選挙に勝てないと主張し、影の内閣の3分の2が辞職し、230人の労働党下院議員のうち172人がコービン不信任に賛成した。もともと、昨年、強硬左派のコービンが党首に選ばれたこと自体に不満があったが、世論調査で、野党が与党の保守党を上回るべきであるのに、かなり下回っている。そのため、労働党下院議員たちは党首を入れ替えようとした。ここまで多くの労働党下院議員が反コービンに回れば、コービンは辞任せざるを得ないだろうとの読みがあったのである。ところが、コービンは、多くの党員・サポーターたちからの負託があるとして辞任を拒否し、党首選が始まることとなった。

コービンは、昨年の党首選で立候補する際、必要な下院議員の推薦人を集めるのに苦労し、党首選には党内左派の声も必要だと他の立候補者を推す人にも推薦人になってもらったほどである。そのため、今回の党首選も、現党首に下院議員の推薦が必要かどうか大きな問題となった。結局、党規約への専門家の意見も聞いた後、労働党の全国執行委員会(NEC)で、現党首には必要ないと決定したが、さらに裁判所にも持ち込まれ、最終的に推薦人は必要ないこととなった。

党首選の有権者には3つのカテゴリーがある。党員、関連団体サポーター、そして登録サポーターである。有権者はすべて一人一票である。労働党の下院議員によるコービン攻撃が始まり、コービン危機の状態が生まれたため、労働党への加入者が急激に増えた。そのため、昨年とは異なり、この新規加入者への党首選投票権を認めないこととし、さらに登録サポーターへの登録料は昨年の3ポンド(400円)を25ポンド(3300円)に8倍増とし、登録期間はわずか48時間しか認めなかった。また、労働組合など労働党関連団体のサポーターになって投票しようとする人を防ぐため、この新規加入者にも投票権を認めないこととした。その上、有権者を厳しく篩にかけ、何万人もの人が投票を許されなかった。

このような状況の中で、コービンの対抗馬のオーウェン・スミスが大多数の下院議員、さらにハリーポッターの著者JKローリングらの支援を受ける中、コービンが昨年よりも得票率を伸ばしたのである。

党首選の結果の発表された後、党員がコービンとスミスにどのように投票したかの世論調査による分析が出された。これによると、2015年5月の総選挙より前に党員になった人の約3分の2がスミスに投票している。昨年の党首選中に党員になった人の4分の3がコービンに投票し、そしてコービンが党首に選ばれた後に党員となった人の8割以上がコービンに投票している。つまり、新しい党員ほど、コービン支持者が多い。

今回の党首選には、今年1月12日より後に加入した党員は投票できなかった。これらの党員にはさらに25ポンドを支払い、登録サポーターとなって投票した人がかなりいる。それでも、もしこれらの党員も投票を許されていれば、コービンの得票率はさらに高かっただろう。コービン支持は、今回の党首選で現れた結果より強いのは明らかである。

総選挙は来春?

労働党のコービン党首が、9月24日に結果の発表される党首選で再選されれば、来春に総選挙があることを前提に準備を進めることにしたと報道された。そして、保守党のメイ首相が総選挙を実施したい場合、総選挙に賛成することとしたという。

2011年議会任期固定法で、下院の議席総数650の3分の2の賛成があった際には、総選挙が実施できることになっている。434人の下院議員の賛成で可能だ。保守党と労働党の議員を合わせると、560議席ほどあり、もし両党が賛成すれば実施できる。

保守党下院議員には、総選挙を歓迎する議員が多いだろう。世論調査で保守党が優位に立っており、労働党の内乱、自民党の停滞で保守党が勝てると見られているからだ。また、650議席から600議席に議席を減らし、選挙区のサイズを均等にする区割り作業が進んでおり、もしこれが実現すると2020年に想定される総選挙で選挙区を失う、もしくは不利になる議員たちは、この早い総選挙を特に好意的に見るだろう。

コービンは、総選挙が早期にあるとして、分裂した労働党をまとめ、政策を煮詰め、その組織固めを図ろうとするだろう。一方、労働党でコービン党首に反対する下院議員たちは、増加するコービン支持者たちからの圧力から逃れ、コービンを引きずり落とす良い機会とみるだろう。

メイは、総選挙は2020年まであるべきでないと発言している。メイにはイギリスをEUから離脱させる交渉を進めるという困難な仕事がある。移民のコントロールを最優先するという立場でありながら、EUの単一市場へのアクセスを重視し、特にイギリスの金融サービスのEU市場へのアクセス(一般にバスポーティング権と呼ばれる)を維持したい考えだ。しかし、メイの率いる保守党内には、イギリスはEUからきれいに別れるべきだと主張する、いわゆる強硬Brexit派が100人ほどいると言われ、メイの柔軟な交渉姿勢に批判的だ。この強硬派、柔軟派の対立に決着をつけ、国民からこの交渉への負託を受ける必要があるだろうということから、メイは総選挙に迫られるだろうという見方がある。自民党の党首だったアッシュダウン卿もそう見ている

さらにメイの「グラマースクール」構想には、強い反対がある。この学校は、11歳で子供の能力をテストし、優秀だと思われる子供を選別教育する制度である。キャメロン前首相の下での2015年総選挙マニフェストには含まれていないことから、反対を押し切って実施するには、メイが総選挙で国民の負託を受ける必要があるだろうと見られる。なお、イギリスには、マニフェストで約束したことには、上院が反対しないという慣例がある。すなわち、下院でマジョリティ(「保守党の議員数」マイナス「それ以外の政党の議員の総数」)を増し、しかも保守党が過半数を大きく下回る上院に反対させないためには、現在の政局下では総選挙を実施するのがベストだという考え方である。

自民党は、総選挙を「第2の国民投票」として捉え、メイ率いる保守党が敗れればBrexitを覆すことができると訴えるだろう。UKIPも来年5月の総選挙を想定して準備するとしている。今後の政局は、来春の総選挙を巡って動くことになりそうだ。

2018年にスコットランド独立住民投票?

2014年のスコットランド独立住民投票で独立賛成側を率いた、当時のスコットランド首席大臣サモンドは、現在、ウェストミンスターの下院議員である。住民投票で独立反対多数の結果を受けて首席大臣並びにスコットランド国民党(SNP)党首を辞任し、その後任にスタージョン現首席大臣が就任した。

そのサモンドが、2018年秋に第2の独立住民投票があるだろうと示唆した。経験豊富で、よく「タヌキ」のように描かれるサモンドにはそれなりの計算があるのかもしれない。2017年初めにリスボン条約50条に基づいてイギリスがEUに離脱通告をすると見られており、それから2年の離脱交渉が始まる。すなわち、2019年初めまでにスコットランドが独立を決めれば、スコットランドはイギリスのEU離脱時に何らかの形でEUに留まれるとの考えである。もしそういうことになれば、EU側は、柔軟に対応できる可能性があると見ているようだ。

6月23日のEU国民投票で、イギリス全体としてはEU離脱を選択したが、スコットランドの住民の62%は残留に投票した。住民投票直後の3つの世論調査で、独立賛成支持が反対側を上回ったが、それ以降の5つの世論調査では、いずれも5から7ポイントの差で独立反対が優勢である。その中で最も新しいものは、9月5日から11日に実施されたIpsos Moriのもので、独立賛成45%、反対50%、そして未定5%である。さらに、9月9日から15日までに実施されたPanelbaseのものでも反対が優勢だが、ここ数年の間に独立住民投票を実施するのに反対の人が、賛成の人の2倍以上ある。

2014年の住民投票を1世代(20年)に1度の住民投票と主張したが、わずか4年後にもう1回行っても大丈夫だろうか。メイ政権が、キャメロン政権のようにそのような住民投票を正式に認めるかどうか不明だが、スコットランド議会が、住民投票を発議することは可能だ。全129議席のうち、SNPが63議席、そして前回も独立住民投票で賛成を支持した緑の党が6議席ある。労働党議会議員の中にも賛成する議員が出るかもしれない。

ただし、独立反対派の保守党、労働党、自民党などは、北海油田からの税収がほとんどゼロとなった状態ではスコットランド財政が成り立たないとして強力な反対運動を起こすのは間違いない。特に2014年の住民投票で反対が賛成を上回った55歳以上の層をターゲットに、独立した後のスコットランドでは、年金も保証できないと主張するだろう。

問題は、独立反対の強い中で、敢えて勝ち目のない独立住民投票を実施すれば、SNPの信用を大きく傷つける可能性があることだ。スタージョン首席大臣は、第2の住民投票実施には、特別な場合を除き、独立支持が60%必要としてきた。イギリスがスコットランドの住民の意思とは異なり、EUを離れることは確かに非常に大きな変化と言えるだろう。しかし、勝ち目のない独立住民投票は、多くの労力と費用を招くばかりか無謀な政権というレッテルを貼られかねない。

スコットランド議会の過半数を制した2011年の議会議員選挙、そして2014年の独立住民投票でも投票日直前になって、SNPそして独立賛成支持が急増し、予想外の展開となった。しかし、2016年の議会議員選挙では、予想を裏切り、過半数を獲得できなかった。2011年、2014年のような事態が2018年にも起きると考えることは、柳の下のドジョウを狙うようなものと言えるかもしれない。

なお、上記のPanelbaseの世論調査では、2014年に独立賛成に投票した人の38%、独立反対に投票した人の41%がイギリスのEU離脱に賛成している。確かに、2014年に独立反対に投票したが、それ以降独立賛成に変わった人の半分以上が、EU内に留まりたいことを考えの変わった理由としているが、逆の人、すなわち、EUを離れたいために、2014年に独立賛成に投票したが、今では独立反対に変わった人も少なからずいる。スタージョン首席大臣は、スコットランド住民の意思に反してイギリスがEUを離れる、そのためにスコットランドはEUに留まるべきだと主張してきた。そしてEUの単一市場に留まることを最優先としている。しかし、単一市場の維持が最も重要だとする有権者と、移民のコントロールが最も重要だとする有権者の割合が同じであり、有権者の見方は、多岐に分かれている。スコットランド住民のスコットランド独立とイギリスのEU離脱問題の考え方は、スタージョン式の単純化したものとは異なる。

コービンの信念

労働党の党首選最後の候補者討論・質疑応答会が9月18日に行われた。ジューイッシュ・ニュースというイギリスのユダヤ系新聞が主催したものである。

コービンは党首となる前にパレスチナのハマスやヘズボラを「友人」と呼んだことがあり、また、労働党内の反ユダヤ主義の調査を実施し、対応策を発表したものの、この問題に十分対応できていないという批判がある。そのため、労働党を支持するユダヤ人のグループからのコービン支持はわずか4%で、その92%は党首選の対抗馬スミスを支持している。そのため、この討論会でも、反ユダヤ主義の質問が繰り返しなされた。なお、反ユダヤ主義とは、ユダヤ人への人種差別である。

党首選の他の討論会では、主催者が聴衆のコービン支持、スミス支持のバランスを取るよう細心の注意を払っている。それにもかかわらず、例えば、9月14日のスカイニュースの主催した討論会では世論調査会社が慎重に聴衆を選んでいるにもかかわらず、スミスへのヤジが飛び、コービンへの拍手が大きく、コービン優勢がはっきりと窺われた。

しかし、今回の討論会では、聴衆の反応は、スミス優勢だった。コービンは、いかなる人種差別も否定している。イスラエルのパレスチナ人の取り扱いを批判しているが、それはユダヤ人に対するものではない。これは、左の人物によくある反米主義、反植民地主義で、イスラエルは西側の新植民地主義の象徴のように考えられているとする見方もある。ただし、多くのユダヤ人は、イスラエルへの批判は、ユダヤ人批判だと見なし、感じている。かつて労働党は、ユダヤ人の強い支持を受けていたが、今ではユダヤ人の多くの支持を失った。コービン党首の労働党は、わずか8.5%の支持となっていると言われる。

コービンのメディア報道にはバイアスがある。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の学者が2015年9月1日から11月1日までの新聞を分析した結果、コービンは不公平に扱われているとした。ロンドン大学バークベックと、ロンドン大学ゴールドスミスのメディア改革連合の学者の行った、労働党影の内閣の大量辞任から2016年7月6日までの10日間のオンライン・テレビ報道分析では、民放のITVが公平な報道を行っているとされたのに対し、公共放送BBCのテレビニュースでは、コービンに批判的な報道が擁護的な報道の2倍近いことを指摘している。コービン自身メディアを批判しているが、コービン支持者の多くは、エスタブリッシュメントがコービンを引きずり落とそうとしていると捉え、メディア報道にかかわらず、コービン支持は増加する一方である。

コービンにはリーダーシップがないとする見方が強いが、1983年から下院議員を務めるコービンが、過去30年余りの間、その重要な判断が正しかった、判断が正しいことはリーダーにとって重要な特性だとする指摘がある。コービンは党首に就任するまで、労働党のリーダーたちに厄介者扱いされていた。党首脳部の指示に従わず、自分の信念を曲げなかったからである。

世論調査の労働党の支持率は保守党よりかなり低く、また、コービンへの評価も低い。それでもコービンの信念に共感している人が多く、コービン労働党は党員数が急増し、それまでの2倍の50万余となり、今では、欧州一の党員数の政党となったと言われる。

9月21日正午に党首選の投票は締め切られ、投票の結果は、9月24日に発表される。昨年9月の開票では、4人の立候補者のうち、コービンは最初の開票で全体の59.5%を獲得し、当選した。2人の立った今回の党首選では、コービン選対責任者のマクダネル影の財相が、前回の支持を下回る可能性を示唆した。6月23日のEU国民投票後、コービンが労働党下院議員たちから辞任圧力を受ける中、わずか1週間ほどで13万人が党員となったが、これらの新党員を含め、過去半年余りの加入者は投票が許されなかった。それでも、多くは、コービンに前回を上回る支持が集まると見ている。いずれにしても、党首に再選されるのは確実で、今回の迫られて行われた党首選でコービンの立場が弱まるどころか、さらに強まったと思われる。