なぜアロン・バンクスが注目されているのか?

大金持ちでイギリス独立党(UKIP)の支援者だったアロン・バンクスに焦点があたっている。なぜこの人物が問題なのだろうか?

それは、2016年のイギリスがEUを離脱すべきかどうかの国民投票に関する問題についてバンクスの関与である。バンクスがEU離脱キャンペーンに違法な形で資金支援したのではないかという点と、そのお金がどこから出たか、自分のお金か、EUの混乱と弱体化を狙うロシアからのものか、もしくはロシアの協力を得て稼いだお金から出たのかの点である。

2016年のEU国民投票の結果は、離脱賛成51.9%対、離脱反対48.1%の僅差で、離脱賛成の結果となった。その結果、国民投票を実施した保守党のキャメロン首相は首相を辞任し、後任のメイ首相が来年3月のイギリスのEU離脱に向けて、現在EU側と交渉を行っている。

バンクスは、保険分野で成功し、1億ポンド(150億円)以上の資産があると見られている。その妻はロシア出身であり、バンクスがロシアを訪れること自体、何ら不思議なことではない。しかし、2016年のEU国民投票の前後、バンクスがロシアの外交官らをはじめ、ロシア関係者に何度もあっていることがわかった

1.違法な資金援助

バンクスは、UKIPのファラージュ元党首らの離脱キャンペーン団体「離脱EU(Leave. EU)」を設けたが、それ以外の離脱キャンペーン各種団体を含め、その資金援助総額は900万ポンド(13億5千万円)にも及ぶと見られている。「離脱EU」の支出報告には、既に選挙委員会から違反があったとして、7万ポンド(1千万円)の罰金の支払いを命じられている。これにバンクスらは法廷で争う構えだ。選挙委員会は、この団体のチーフエグゼクティブを警察に告発し、警察が調査を進めている。

2.お金の出どころの問題

バンクスが自らの資金を自ら出していれば、そのこと自体に問題はないが、ロシアからの資金が流れ込んだり、ロシアから利便の提供を受けたりしていれば、問題である。

バンクスは、下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会から「偽ニュース」や個人データの悪用について証人として出席するよう何度も求められていた。これは、バンクスのケンブリッジアナリティカというデータ分析会社との関係を中心にし、アメリカ大統領選挙やここでのEU国民投票への影響について調査するものである。バンクスは、ファラージュUKIP元党首と一緒にトランプ大統領とも会っている。バンクスは委員会の召喚を無視する構えだった。しかし、内務委員会への出席などを求める声も出てきており、新しい状況下で出席を承諾した。

なお、バンクスへの調査がどのようなことになっても、それで国民投票の結果が無効になるわけではない。イギリスは、EUを来年2019年3月29日に離脱することに変わりはない。

主なブレクシット日程

2018年

  • 6月12日 イギリス下院で、上院で修正されたEU離脱法案審議・採決
    保守党の下院議員がこの採決でどのような投票をするかが注目される
  • 6 月28-9日 EUサミット
    このサミットまでにイギリスがEUとの貿易関係とアイルランドの国境問題についての方策を提案することになっていた。しかし、待ち望まれている政府のブレクシット白書は、このサミットの後で発表されることとなった。
  • 10月17-8日 EUサミット
    本来、このサミットで、イギリスのEU離脱条約案と将来の貿易関係についての政治宣言をまとめ上げ、イギリス議会、そして欧州議会の審議・批准に回すはずだった。しかし、現在の状況では、6月サミットで片づけられておくべきものをこのサミットで処理せざるを得ない状況だ。
  • 10月下旬
    政府は、イギリス議会にEU離脱条約案の投票を約束している。賛成多数の場合、移行期間法案も採決される。そして欧州議会に送られる。
  • 11月・12月
    10月サミットでイギリス側とEU側が合意に達しなかった場合、臨時サミットが開かれる可能性がある。12月13-4日に開催予定の EUサミットがほとんど最後の機会となる。

2019年                                                

もし、イギリス議会と欧州議会が離脱条約を承認し、批准すれば、

  • 3月21-2日 EUサミット
    イギリスがメンバーとして出席する最後のEUサミット
  • 3月29日イギリス時間の午後11時 イギリスが正式にEU離脱

2020年

もし、予定通りにいけば、

  • 12月31日 移行期間が終了。

立場を変えた労働党

メイ政権は、イギリスのEU離脱後、EUとどのような関係を持つかで、閣内そして党内の意思を統一するのに懸命だ。最近のメイ首相の約束は、守られることを期待できない。2019年3月のイギリスのEU離脱後に設けられた移行期間は2020年12月に終わり、2021年初めから自由にEU外の国と貿易条約を結べると約束していたが、今やそれは2022年になるようだ。アイルランドの国境問題の解決のためには、1年間の「最後の防護壁(Backstop)」案に頼るのもやむをえないと判断したようである。ただし、この案は貿易面のみの方策であり、それがEU側に受け入れられるかどうかは別の問題である。

離脱相が6月6日に言った言葉がある。話がまとまらねば、イギリスは苦しむがEU側も苦しむ、EU側の態度は自らの足を自ら銃で撃つようなものだと言ったのは、EU側がもっと柔らかいと思っていたのを示すのは明らかだ。それは期待外れに終わっている。メイ首相の期待していたような状況になっていないことが、現在のメイ首相の苦しみにつながっている。

一方、労働党がイギリスのEU離脱後のEUとの経済・貿易関係に関し、EU単一市場へのアクセスを求めるという立場に変わった。ただし、これで労働党内がまとまるかどうかは別の問題であり、どこまでメイ首相を脅かせるかには疑問がある。

下院通過後、上院に送られたEU離脱法案に政府の意思に反して15の修正が加えられた。メイ首相率いる保守党は上院では少数で、メイ首相の意に反してかなりソフトな離脱を目指すよう修正された。修正された法案が再び下院に返ってきたが、メイ首相らは、この法案の審議と採決を6月12日(火曜日)1日に絞った。

下院では、保守党は北アイルランドの民主統一党(DUP)の閣外協力を受けて過半数を持つが、保守党内のソフトな離脱を目指す下院議員たちが修正に賛成する可能性があり、メイ首相らが野党労働党の離脱支持議員の支持を受けても、修正の幾つかが下院でも通る可能性がある。そこでメイ首相が保守党内のソフトな離脱支持者に受け入れられるような妥協をするのではないかという見方があったが、今回の方策もその一部をなすのだろう。

一方、労働党内のソフトな離脱を支持する議員たちが、欧州経済地域(EEA)に残るという上院での修正に、党が全体として賛成するべきだと主張している。EEAは、EUメンバーでないノルウェーがその代表的な例である。EUの単一市場にアクセスが許されるが、アクセス料を支払い、EUの規制やルールに従い、しかもモノ、資本、サービス、人の移動の自由を認める必要がある。

労働党のコービン党首は、人の移動の自由には一定の制限が必要だと考えている。例えば、イギリス国内の特定の地域に流通拠点を設け、地元の人口をも上回るような数の外国人が来れば、地元の公共サービスに大きな影響を与える。そのようなことが起きないようコントロールする必要があるという。また、EUは、競争を維持するために、政府の投資に制限を設けており、労働党の主要政策の鉄道の国有化などができないことになる。これらの理由から、労働党は、EUの規制やルールをそのまま受け入れられないという立場である。そのため、EEAに入るつもりはない。

労働党の新しい立場は、保守党のソフトな離脱支持者の支持を集められるかもしれないという読みがあるのだろう。残された時間は少なくなってきているが、6月12日は必ずしも天王山とならず、勝負はもう少し先になるように思われる。

女性の政治進出にカギとなるメディア

世界中で女性の政治進出が拡大している。かつて政治は男の世界という見方が強かったが、今ではその壁は破られ、女性が政治のトップに就く例は世界中で広がっている。欧州でもドイツのマルケル首相やイギリスのメイ首相をはじめ数多い。さらにニュージーランドの女性現職首相は妊娠中でマタニティーリーブ(出産休暇)を取る予定である。女性の政治進出への壁はさらに破られている。

日本にも女性首相の可能性はあるが、これまで実現していない。その大きな理由の一つは、政治に進む女性が少ないことだろう。日本の衆議院の女性議員の割合は、調査された世界193か国の中で158位だった。先進国(OECD加盟35か国)最低である。2018年5月、男女候補者均等法という女性の政治進出を促進する法律が成立したが、これには拘束力がなく、効果は疑問視されている。

ある研究によると、内閣の大臣の女性の割合を上げるのに最も効果のあるのは、トップ政治家の約束だという。選挙の前にこの約束がなされると、トップ政治家にそれを守らなければならないという精神的な圧力がかかる上、周辺や支持者もそれを達成できるように動くからだという。そして女性の割合が一定のレベル以下に下がらなくなるというのだ。研究者たちは、この一定のレベルを「コンクリートの床(Concrete Floor)」と呼んでいる。これは、女性らの昇進を妨げる障害としてよく使われる「ガラス天井(Glass Ceiling)」、すなわち、何もないように見えるが、実際には存在する、あるレベル以上昇進できなくする慣行や考え方を指すのに対比したものだ。

女性の大臣の数が増えることは、女性の政治進出に大きな影響を与えるだろう。ドイツなどでは閣僚の男女比はほぼ半々となっている。上から変えることが重要だ。そのためにはメディアの役割が極めて大きいと思われる。特に選挙前、トップ政治家に女性大臣の割合目標や、それに議員割合目標などをはっきりさせてもらうことに大きな役割を果たせるのではないか。

イギリスの下院議員の選挙で、保守党や労働党は候補者選定にしばしば女性のみの候補者リストを使う。この6月の補欠選挙でも、労働党は労働党の非常に強い選挙区の候補者を選ぶのに、女性の少数民族出身者のみのリストを使い、選挙区党員の投票で選んだ。こういう形で、女性の少数民族出身者の政界進出を促進している。

労働党内には、女性になった人を女性のみのリストに入れるのはどうかという議論がある。正式に女性となった人たちだけではなく、労働党は、自分が女性だという人をすべて含むこととしたが、それは不当だとして数百人の女性党員が労働党を離党したと言われる。

イギリスには、保守党党首のメイ首相の他、多くの優れた女性の政治リーダーがいる。スコットランド国民党(SNP)の党首でスコットランドの首席大臣二コラ・スタージョンやスコットランド保守党のルース・デービッドソン党首、北アイルランドの主要2政党の党首、それに労働党では、コービン現党首の次の党首には女性のエミリー・ソーンベリー影の外相かアンジェラ・レイナー影の教育相が有力視されている。

ただし、トップが女性だからといって、必ずしも女性の政治進出が進むというわけではない。例えばサッチャー政権には、女性閣僚がほとんどいなかった。20人ほどの閣僚のうち、ほとんどの期間1人だった。労働党のブレアは女性だけの候補者リストを初めて使ったが、政権に就いた後、女性閣僚の数を大きく増やす。その後のブラウンは女性閣僚の数を一時8人にまで伸ばした。キャメロン連立政権では、連立相手の自民党の都合もあり少なかったが、その後のキャメロン保守党政権で増やし、メイ保守党政権と女性閣僚の数はかなり多いまま推移している。

メイ首相は、サッチャーが1979年にイギリスの首相となった時、イギリス最初の女性首相になれなかったと機嫌が悪かったという。サッチャーは1975年に保守党の党首に選ばれていたから、次の首相になる可能性はかなりあると思われていたはずだ。しかし、この話は、1979年の総選挙でメイが保守党の敗北を考えていたことを示唆している。

結局、女性が首相などのトップ政治家になったからといって必ずしも女性の政治進出が進むわけではなく、むしろ、男性・女性にかかわらずトップ政治家が、女性の政治的役割、進出にどのような約束をしたかがカギになるようだ。そしてそのような約束を促すメディアの役割は重要だと思われる。

イギリスが合意なしにEUを離脱すれば?

2018年6月3日のサンデータイムズ紙が、イギリスがEUを合意なしで離脱した場合に何が起きるかについて想定した漏えい文書を報道した。これは、メイ内閣の閣僚間の会合向けに用意された文章のようだ

それによると3つのシナリオがあるという。影響の少ない場合、中程度の場合、そして大きい場合である。中程度の場合でも、1日目からドーバー港では通関手続きができない状態となり、数日でイングランド東南部のコーンウォールやスコットランドのスーパーでは食料がなくなり、2週間で病院の薬品がなくなるという。

実際、合意ができなければそのことはあらかじめわかっているであろうし、このような事態になるかどうか疑問がある。イギリス政府は、そのような場合には、関税やチェックを一時的に停止してモノの輸入を優先したり、場合によってはチャーター便で薬品を輸送したりするなどの方法もとれるという。

それでも、パニック買いでよく見られるように、少しの不安が大きな結果を招く可能性は常にあり、慎重な準備が必要だ。ブレクシット交渉の結果や内容に関わらず、EUも大人げないことはできず、人道的な観点からもある程度の援助は期待できるように思えるが、これまで合意なしに離脱する場合の準備が遅れているのは明らかである。

ただし、バーニエEU交渉代表が指摘したように、イギリスは交渉の立場を今なおはっきりしていない。特に、アイルランドの国境問題の解決と将来の貿易経済関係のシステムについてである。アイルランド共和国の副首相兼外相が、イギリスはあと2週間で案を出す必要があると警告しているにもかかわらず、メイ首相は、内閣内と、その率いる保守党内での強硬離脱派とソフトな離脱派の対立を未だに解決していない。

EU離脱法案は、下院を通過した後、保守党が少数勢力しかない上院で審議されて15か所修正された。これらの修正はソフトなEU離脱を狙い、メイ首相の手を縛るものであり、メイ政権には受け入れられない。しかし、保守党のソフト離脱派らがこれらの修正に賛成し、下院でも可決される可能性がある。そのため、下院の審議を安易に始められない状態だ。しかも、ヒースロー空港の拡張を進める採決もあり、これにも大臣をはじめ、保守党内の反乱があることが予想され、その結果には予断を許さないものがある。

サン紙が、首相官邸にはパニックの雰囲気が出てきているとコメントしたが、メイ政権はBブレクシット交渉で打つ手が乏しくなってきており、追い詰められてきているようだ。

北アイルランドのDUPはどうなる?

2017年1月に北アイルランド内閣が倒れた。その直接の原因は、RHI(Renewable Heating Initiative)と呼ばれる再生可能エネルギー利用に関する政策で北アイルランド政府が大きな欠損を出すことがわかったことだ。その政策は、民主統一党(DUP)現党首のアーリン・フォスターが、担当の企業相だった時に導入した。そこで、シンフェイン党が首席大臣だったフォスターにこの問題の調査中、首席大臣の地位から一時離れることを求めた。しかし、フォスターがそれを拒否したため、シンフェイン党の副首席大臣が辞任する。ユニオニスト側(DUPらイギリスとの関係を維持する立場)とナショナリスト側(シンフェインらアイルランド共和国との統一をめざす立場)の共同統治の仕組みのため、いずれかが欠けると内閣と議会が維持できないのである。

それ以来、北アイルランドの行政は、内閣と議会なしのまま、公務員によって運営されている。政治的な決定ができないため、ウェストミンスター議会が北アイルランド相の勧告に従い、必要最小限、代わりに決定する形となっている。本来、このような場合には、中央政府の北アイルランド相が直接統治する形を取ることになっているが、メイ首相はそこまで踏み切れないままだ。

RHI問題は、退任判事を委員長とした公式調査が進んでいるが、そこではDUPに都合の悪い事実が明らかになってきている。一方、北アイルランド内閣と議会の復活を求めるメイ政権の努力にもかかわらず、その機運は盛り上がっていない。現在の問題は、シンフェイン党がアイルランド語の公式制度化を求めているのに対し、DUPがそれに反対していることだ。それが、最大の障害となっている。いずれの側の支持者もこの問題に対する態度を硬化させており、この問題の決着がつく状況にはない。

一方、DUPは2017年6月の総選挙以来、脚光を浴びている。北アイルランドで10議席を獲得したDUPが、過半数を割ったメイ保守党政権を閣外協力で支えているからである。DUPはメイ政権から10億ポンド(1500億円)の追加の政府支出を勝ち取った。そしてDUPの極端な体質や政策が取り上げられる機会が多くなっている。

その一つの例が、DUPの妊娠中絶反対である。隣のアイルランド共和国の国民投票で、妊娠中絶が認められることになった。しかし、北アイルランドでは当面変わらないだろう。DUPのほとんどの幹部は妊娠中絶に反対している、原理主義的なプロテスタントのアルスター自由長老派教会のメンバーであり、DUPのメンバーの3割はこの教会の信者だといわれる。DUPは妊娠中絶がアイルランド共和国で認められても、それは北アイルランドには関係ないという。これには批判が強い。

2018年2月の世論調査によると、DUPへの支持率が下がり、シンフェイン党の支持率は上がっており、その支持率の差は小さくなってきている。特にDUPに心配だと思われるのは、18歳から44歳の支持率でシンフェイン党が大きくリードしていることだ。シンフェイン党の38.7%に対し、DUPは29.2%である。

シンフェイン党はカトリックの政党だが、カトリック教会がIRAとシンフェインを強く批判してきたことから、カトリック教会に従わず、自ら決める傾向がある。また、国民の多くはカトリック教会の役割は、日本のように結婚と葬式の際には宗教的に振る舞うが、それ以外はあまり気にしないという状態になってきている。シンフェイン党はアイルランド共和国での妊娠中絶の合法化に賛成し、北アイルランドでも合法化の運動を始めているが、上記のように若い人たちの支持をナショナリスト、ユニオニストに関わらず集めてきている。

イギリスがEUを離脱するブレクシットでは、DUPはEU離脱に賛成してきているが、イギリス本土とのつながりを重んじ、北アイルランドがイギリス本土と異なって扱われることに反対している。その一方、北アイルランドとアイルランド共和国との国境に建築物やチェックポイントなどができることには反対だ。

EU側は柔軟で、北アイルランドとイギリス本国の間のアイリッシュ海を貿易上の国境とし、北アイルランドとアイルランド共和国の陸上国境をそのままとすることを受け入れる用意があるが、これにはメイ政権も反対している。メイ首相はDUPの言うことに従わざるを得ない立場にある。もしイギリスがEUと将来のきちんとした関係の合意なしに離脱することになった場合には、北アイルランドの政治経済的なコストが増加するばかりか、そのようなお粗末なブレクシット交渉をしたメイ政権を支えた上、アイルランド共和国との国境にチェックポイントができることになり、北アイルランド住民とビジネスに多大な不便をかけることになる。北アイルランドでは離脱に反対の声が大きく増加している

カトリック教会の枷にこだわらないシンフェイン党は、アイルランド共和国と北アイルランドの両方で新しい世代の女性をトップに押し立てている。新しい感覚で北アイルランド政治の中心となっていくように思われる。DUPは明らかに時代遅れの政党である。北アイルランドはイギリスでも特殊な地域であるが、時代遅れのDUPが北アイルランドで最大政党の地位を占める時間はそう長くないのではないか。

 

北アイルランドの新たな脅威

北アイルランド内閣と議会は停止している。しかし、北アイルランドの政治は停滞していない。政治を取り巻く環境は大きく変化している。その一つは、北アイルランドのテロリズムの復活である。

1998年のグッドフライデー(ベルファスト)合意で、それまでの30年ほどの血で血を洗う抗争を終えることとなった。アイルランド島内のイギリス北アイルランドと南のアイルランド共和国を統一させようとする勢力(ナショナリスト、その過激派はリパブリカンと呼ばれる)とそれに反対する勢力(ユニオニスト、その過激派はロイヤリストと呼ばれる)の争いだった。

1998年合意の半年前、リパブリカンの団体、暫定IRA(PIRA)のメンバーが集まり武器放棄を決めた際、それに反発して去ったメンバーがいた。それ以降、異なるテロ組織、真IRA(Real IRA)がテロ活動を行ってきたが、今やそれと他の団体が一緒になった新団体、新IRA(New IRA)と呼ばれるグループが立ち上げられ、2012年の創設以来、40件ほどのテロ活動を行ってきたと見られている。この間、テロで刑務官2人と警察官2人が死亡している。なお、1998年の前、30年ほどで、302人の警察官と24人の刑務官がテロで殺害されたと言われる。

この新IRAはかつての暫定IRAと比べ、はるかに小さな組織だ。しかし、ブレクシットを利用してその活動、勢力の拡大を狙っていると見られる。イギリスのEU離脱後、イギリスとEUとの「国境」となる、北アイルランドとアイルランド共和国の国境にチェックポイントができる可能性が高まっており、これを標的にしようとしている。住民にアイルランドは今もなお分断されていると再認識させるためだ。

EUとイギリスは、貿易に関する影響を減らし、そのようなテロの可能性を減らすべく、1998年の合意を守り、新しい構造物も作らないし、チェックポイントも設けないとしている。しかし、それはかなり難しい状態となっている。イギリスがEU側に提案している2案(関税パートナーシップ案とMax-Fac案)は、メイ首相の保守党内で批判があるほか、EU側が、それらは実行できるものではなく、また、受け入れられるものでもないという。この状態に危機感を持っている北アイルランド警察は、新IRAなどの脅威に対応するための治安テロ対策に警官を増員する必要を訴えている。警官が狙われる可能性も高く、この状況は緊迫してきている。

イギリス側が上記の2案の立場を取るのは、メイ首相が、イギリスのEU離脱後、イギリス本土と北アイルランドで同じ経済・貿易システムを維持したいと考えていることにある。EU側は、北アイルランドとイギリス本国の間の北海を貿易上の国境として、北アイルランドはEUの単一市場と貿易同盟に残り、アイルランド共和国の国境の通行を現状のまま自由通行とする用意があるが、これにはメイ政権が反対している。メイ政権を閣外協力で支えている、北アイルランドの民主統一党(DUP)が反対しているからだ。DUPはイギリス本土とのつながりを重んじ、北アイルランドがイギリス本土と異なって扱われることに反対している。その一方、北アイルランドとアイルランド共和国との国境に建築物やチェックポイントができることに反対している。

DUPがこれらの立場を変えることは、党の基本原則に関わることであり、難しい。また、メイ首相は、北アイルランドを別に扱うのは、イギリスの統一を損なうと明言している。そのため、結果的に、北アイルランドとアイルランド共和国の国境にチェックポイントなどが設けられるようなこととなると、テロ活動が活発化する可能性がある。

ブレクシット交渉への高まる不安

メイ政権のブレクジットに関する発言は次第に変化してきたが、イギリスのEU離脱交渉では、現在、以下のような点を重んじてきている。

  • EUの単一市場と関税同盟を離脱する
  • EUとの経済貿易関係にできるだけ摩擦のないようにする
  • 他の国と独自に貿易関係を結ぶことができるようにする
  • EUとイギリスとの地上国境となるアイルランドの国境には検問などのチェックポイントを設けない

これらを同時に解決するのは極めて困難だ。確かにEUを離脱しても、EUの単一市場や関税同盟に残り、EUと摩擦のない関係を維持することは可能だ。しかし、それでは、EU外の国と独自に貿易関係を結ぶことはできない。メイ首相は、その政権を維持しながら、この交渉をまとめるために様々な要求を満足させる方策を考え出そうとしている。大きな問題は時間がなくなっていることだ。10ヶ月後には、イギリスはEUを離脱するのである。

そのため、ビジネスも公共セクターも10か月後をにらんで動き始めている。イギリス経済は、既に投資を控える動きなどから成長が鈍化しており、過去12ヶ月、アメリカが2.2%、ユーロ圏が2.5%成長したのに対し、イギリスは1.2%だった。5月末、欧州のトップ50企業の代表がメイ首相に事実上EUの関税同盟に残るよう訴え、また、イギリスのバークレイズ銀行は、国内の投資への貸し出しに関する条件を厳しくしている

その一方、北アイルランド警察に関しては、その警察官の組織が、現在の警官数では、国境を警備しかねると訴えた現在の警官数は6621人だが、かつては、警官13500人と軍人26000人で国境と治安を守っていた。しかし、北アイルランドでは、反政府過激分子が新しく設けられる可能性の高まっている検問所などを攻撃する可能性は否定できないとして、財政削減で計画されている警察署閉鎖を中止し、警官を増強するよう訴えた。

このような動きはさらに強まっていくだろう。

強硬離脱派の元財相の本音

フランスに住む元財相ナイジェル・ローソンがフランスに在住権を申請した。ローソンは、2016年のEU国民投票の際、EU離脱派の中心的な運動組織であったVote Leaveの会長も務めた人物である。イギリスは現在、EUのメンバーであり、その国民には、フランスに住む権利が自動的に与えられる。しかし、10か月後の2019年3月29日、イギリスがEUを離脱すれば状況は変わる。ローソンは、その準備をしているのである。

イギリスはEUと、その離脱と離脱後の関係について交渉している。イギリス第一党の保守党と第二党の労働党は、下院の9割近くの議席を占めているが、2016年の国民投票の結果を尊重し、EUを離脱する意思を明確にしている。今の状況では、交渉がどうなろうとも来年3月にEUを離脱する見込みだ。

離脱そのものの交渉では、離脱に必要だと思われる項目の4分の3が既に合意されている。特にイギリスのEU離脱後の「EUに住むイギリス人」と「イギリスに住むEU国人」をどう扱うかは、双方にとって極めて重要であり、いずれにしても最終合意がなされると思われる。しかし、アイルランド国境問題の解決が遅れており、イギリスとEUの将来の関係、特に経済貿易関係の急速な合意は極めて難しい状況だ。イギリスのメイ首相率いる保守党では、党内の強硬離脱派とソフトな離脱を求める人たちの対立が深まっている。

強硬離脱派は、イギリスがその政策を自ら決め、自由に他の国と貿易関係を結ぶことができるようにすべきだとして、EU単一市場と貿易同盟を離れることを求めている。ソフト離脱派は、EUの枠組みの規制を受け入れても、最も緊密な経済関係があり、最大の貿易相手であるEUとの関係を重んじ、最低限、貿易同盟の関係を維持すべきだとする。

ローソンの分析では、「EUに住むイギリス人」と「イギリスに住むEU国人」の問題はイギリスのEU離脱までに解決されるだろうが、貿易の問題は決着がつかないだろうとする。そして離脱後、熱していた頭が落ち着いた後、この問題の解決が図られるのではないというのである。

また、イギリスが離脱後成功するかどうかは、イギリスの施策によるとする。優れた政策が巧みに実施されればうまくいくが、そうでなければ難しいというのだ。

ローソンの分析は真をついているように思われる。イギリスでは、メイ首相率いる保守党は過半数を割っており、北アイルランドの極端な政党の民主統一党(DUP)に支えられている。弱く、しかも運営能力の乏しいメイ政権下では、明るい見通しは立てにくいだろう。

現在行われているブレクシット交渉

イギリスはEUを2019年3月29日に離脱する。それでも現在の関係は2020年末までの「移行期間」が終了するまで維持される予定だ。その後、新しい関係に入ることとなる。すなわち、現在行われているイギリスとEUとの交渉は大きく分けて以下の3つの部分がある。

  • イギリスがEUを離脱するための交渉
  • 移行期間とその内容についての交渉
  • 移行期間終了後の関係についての「政治的な原則合意」の交渉

アイルランドの国境の問題を始め幾つかの大きな問題があるが、イギリスがEUを離脱するための交渉は大きく進展している。これまで40年以上メンバーであった国際組織EUから離脱するにあたり、その権利義務の清算をするものであり、特に大きな課題とされていた清算金については、基本的に合意された。この交渉はイギリス離脱の後片付けをするためのもので、その結果は、イギリスとEUの離脱条約の締結ということとなる。この条約の発効のことを考えると、イギリスとEUがかなり早く合意し、イギリス議会と欧州議会の承認を受ける必要がある。

移行期間についての交渉は既に基本的に合意している。この交渉は、その間のイギリスとEUの権利義務を定めるものである。ただし、この移行期間は、現在の関係から将来の関係へ移るためにそれぞれの環境を将来の関係に合うよう変えていくためのものである。すなわち、もし想定される将来の関係が望ましいものでなければ、この移行期間を設けることそのものが意味のないものとなる。そのため、移行期間が最終的に合意される前に、将来の関係をどうするかの基本的な考え方が合意されておく必要がある。

すなわち、将来の関係の原則が決まらなければ、移行期間が決まらず、離脱合意の詳細が決まらないということになる。EU側は、この点をはっきりと主張してきている。特にEUメンバーであるアイルランドとイギリスの北アイルランドの国境の問題が解決しなければ、それ以外の合意もないとしている。

大きな残された問題には、アイルランド国境の問題と欧州司法裁判所の位置づけの問題がある。現在、イギリスは欧州司法裁判所の決定に従わなければならない。それでは国の主権が損なわれるとして、強硬離脱派はこれを大きな離脱を求める理由としている。そのため、イギリスのEU離脱後のイギリスとEUとの紛争を最終的にどう解決するかで今もなお揉めている

イギリスのメイ政権は、保守党内の強硬離脱派とソフトな離脱を求めるグループの対立を抱え、これらの問題の解決に苦しんでいる。もし、アイルランド国境の問題が解決できなければ、上の3つの交渉のすべてが崩れる可能性がある。かつてメイ首相は「悪い合意より合意がない方が良い」と主張したことがあるが、イギリス政府は合意がない場合の準備をほとんど全く進めていないことが明らかになった。メイ首相には、合意なしの離脱の選択肢は事実上ない。