ハリー王子とメガン妃

ハリー王子の回顧録「スペア」が2023年1月10日に発売された。ノンフィクションだが、初日にもっと売れたのは、2007年のフィクションのハリーポッターぐらいだという。この回顧録では、ハリー王子と父の国王チャールズ3世、兄の皇太子ウィリアムら英国王室関係者との関係をさらけ出したと強い非難を受ける反面、普段見えない王室の内情が見えると興味を持つ人も多い。一方、ハリー王子の初体験や麻薬をめぐる告白なども含まれ、奇妙な本だという見方もある。ピューリッツァー賞受賞者がこの本のゴーストライターである。

この本の発売前の、2022年12月初め、Netflixで「ハリーとメガン」6回のエピソードが放映された。そして2023年1月上旬にはスペインで本が誤って売り出されるというハプニングがあった。また発売直前には、本のプロモーション目的で、英国とアメリカのジャーナリストのハリー王子とのインタビューが放映された。そのため、ハリー王子とメガン妃の話題が連日のようにニュースで報道された。

ハリー王子はエセックス公爵で、英国の国王チャールズ3世と、1997年に交通事故死したダイアナ妃の次男である。「スペア」という回顧録の題名は、皇太子にもしものことがあった時の替わりのスペアという意味である。ダイアナ妃が亡くなった時、ハリー王子は12歳だった。そのトラウマが長く尾を引くことになる。メガン妃はエセックス公爵妃である。2人は2018年に結婚し、3歳の男の子と1歳の女の子の子供がいる。

メガン妃は、アメリカの人気テレビ番組SUITSスーツなどで活躍したアメリカ人女優。白人の父親と黒人の母親との間に生まれ、離婚歴がある。これらが、ハリー王子とメガン妃の結婚が英国で議論をよぶことになった大きな原因になっている。また、アメリカ人は思ったことをずけずけ言う傾向があるとされるが、メガン妃とウィリアム皇太子夫人ケイト(キャサリーン)妃との関係がうまくいかなかったこともあり、2人は結果的に英国に留まることをあきらめ、2020年、英国王室の公務を離れ、アメリカに移住することとなった

この議論に輪をかけたのが、英国のタブロイド紙である。英国王室は、タブロイド紙を敵に回したくないと考え、争いを避けている。ところが、特にメガン妃が、タブロイド紙の標的になった。2人の結婚前にメガン妃の父をけしかけ、メガン妃の父への手紙を公表したサンデーメイルとそのオンライン版の出版社を、メガン妃はプライバシーの侵害、個人情報の不正使用、著作権の侵害だとして裁判に訴え、最終的に勝つ。

ハリー王子とメガン妃は、2020年、Daily Mail, The Sun, Daily Mirror, and Daily Express、それにそれらの日曜版を含む、タブロイド紙とは付き合わないと宣言している。また、ハリー王子は、現在、英国でタブロイド紙相手の訴訟に関わっている。英国のタブロイド紙を改革するためだと明言している。

一方、これらのタブロイド紙のハリー王子に対する攻撃は並大抵のものではない。そのため、1月9日に発表されたYouGovの世論調査では、ハリー王子に批判的な割合が64%と大きく増加、肯定的な割合は26%だった。一方、若い世代(18歳から24歳)では、半々とされる。

ただし、英国で行われたこのような世論調査はハリー王子に当てはまらない面がある。アメリカでは、ハリー王子は、スーパースターである。知名度は世代を超えて90%以上であり、肯定的に見る人が多い

一方、ウィリアム皇太子とケイト妃は、2022年末のアメリカ訪問でブーイングを受けた。また、2022年3月のカリブ海諸国訪問は、本来、英連邦を強化するのが目的であったが、逆に植民地時代を思い出させるような出来事が続き、目的は達成できなかったようだ。

英国の人口は6700万人ほどで、世界的にはそう大きな国ではない。今後20年、30年先には、アジアやアフリカの人口が爆発的に増える見通しで、新しい時代の世界に通用する人物が求められる。英国王室が、事実上、ハリー王子とメガン妃をアメリカに追いやったことは残念だ。

エリザベス女王の遺したもの

英国のエリザベス女王が9月8日に96歳で亡くなった。その70年を超す治世は、ウィンストン・チャーチルから現在のリズ・トラスまで15人の首相の期間にわたる。亡くなる2日前には、トラスを首相に任命した。通常、ロンドンのバッキンガム宮殿で行われる、前首相の辞任受領と新首相の任命を、女王が動きづらいということで、スコットランドのバルモア城で行ったが、杖をつきながらも笑顔でトラスと握手した姿が忘れられない

多くの国民から尊敬され、親しまれてきた女王である。ダイアナ妃の1997年の交通事故死で国民の強い批判を浴びたが、その行動は、王室の維持存続を第一義に置きながらも、国民への奉仕を優先しておこなってきた。エリザベス女王の伝統は英国皇室のモデルとなるだろう。

その女王の存在が、英国の3人の女性首相を生んだとする見方がある。サッチャー、メイ、そして現在のトラスと3人の女性首相は、女王がいたので受け入れられやすかったというのである。

翻って日本を見ると、女性の社会進出は徐々に前進しながらも、世界的には非常に遅れている。ジェンダー・ギャップ指数では、日本は世界119位であり、政治分野では世界139位で、世界の最下位圏にある。政治分野では、サウジアラビアの132位を下回っている。この日本の女性の現状と日本の皇室の継承の考え方には強い関連があるように思える。女性が日本をリードしていくことを問題なく受け入れられる環境づくりが重要ではないか。