英国の予算発表

リシ・スナック(Rishi Sunak)財相が、今後3年間の予算発表を2021年10月27日に行った。この予算発表の前には、財政緊縮に向かいたい財相と、多くの政策課題に対応するために予算を拡大させたかったジョンソン首相との軋轢が報道された。

英国では、コロナパンデミック対策で、休業補償などを含め既に多くの財政支出を行っており、その上、国民保健サービス(NHS)の医療体制など多くの公共サービスを強化する必要があった。2010年から続く保守党政権で緊縮財政をとってきたため、各省庁で公共サービスの問題が山積していたのである。

その結果、この予算では、大幅な公共支出の増加と増税となった。経済全体に対する公共支出の割合は1979年のサッチャー保守党政権の誕生の頃の高いレベルとなり、また、税は、第二次世界大戦後の復興期の1950年初め以降最高レベルとなった。そして保守党は、2019年の総選挙で掲げた保守党のマニフェストの公約を2つ破ることとなる。破ったのは、①「国民保険税(National Insurance)を上げない」を破って上げたこと、②「年金は3つの数字(物価上昇率、賃金上昇率、2.5%)のうちの最も高い数字に基づいて上げる」としていたが、これを今回は停止し、物価上昇率の3.1%とした(後述)。

一方、供給不足、人手不足、燃料高騰などのため、インフレが起きていることから、国民生活対策として、①最低賃金を来年4月から時給8.91ポンドから9.5ポンド(1,470円:£1=155円)にする、②ユニバーサルクレジットと呼ばれる生活扶助を受けている人たちは、働くとその賃金に対して受ける扶助金が一定の割合で差し引かれるが、その割合を減額した。一見、国民の世帯当たりの所得がかなり増加するようだが、2022年には4%余りのインフレが予測されており、国民生活がパンデミック前より悪い状態は、2023年後半まで続き、その後も2020年代半ばまで平均1.3%程度の増加にとどまると見られている。

スナック財相は、ジョンソン後の保守党党首(そして首相)の座を狙っている。保守党の中の小さな政府・減税支持勢力を味方につけるため、次期総選挙(5年任期で、2024年までに行う必要がある)の前に減税する意向を示した。その思惑どおりになるかどうか注目される。

[国民年金のトリプルロック(Triple Rock]について]

これは、2010年の総選挙で政権を担った保守党と自民党の連立政権で始まった。翌年の国民年金は、3つの数字、①9月の物価上昇率(CPI)、②7月の平均賃金上昇率、そして③最低保証の2.5%のうち最も高い数字を使って計算することとなっている。2022年4月からの年金計算は今回だけ②を除き、①と③だけを使い、3.1%の上昇率とした。なお、7月の平均賃金上昇率は8.3%だったが、パンデミックの影響で、歪んだ数字と判断されたからである。なお、これまでの年金上昇率は以下のとおり。

適用日

物価上昇率

平均賃金上昇率

最低保証

採用数字

6 April 2012

5.2%

2.7%

2.5%

物価上昇率

6 April 2013

2.2%

1.5%

2.5%

最低保証

6 April 2014

2.7%

1.2%

2.5%

物価上昇率

6 April 2015

1.2%

0.6%

2.5%

最低保証

6 April 2016

-0.1%

2.9%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2017

1%

2.4%

2.5%

最低保証

6 April 2018

3%

2.3%

2.5%

物価上昇率

6 April 2019

2.4%

2.6%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2020

1.7%

3.9%

2.5%

賃金上昇率

6 April 2021

0.5%

-1%

2.5%

最低保証

6 April 2022

3.1%

n/a

2.5%

物価上昇率

アフガニスタンからの犬猫救出にジョンソン首相夫人が関与?

アメリカとイスラム教過激派組織のタリバンは、アメリカ軍が8月31日までにアフガニスタンを撤退することにと合意していた。ところが、アメリカ軍の支援していたアフガニスタン政府軍が、タリバンの侵攻にほとんど対抗することなく、次々に撤退したため、タリバンが予想以上に早く、8月15日に首都カブールに入った。そのため、アメリカをはじめとする西側諸国の軍人、外交関係者、その国民、並びにそれらの活動に関与したアフガン人たちやその家族を安全に国外に送り出そうと、大わらわで救出作戦が展開されることとなった。

英国政府も、他の国と同様、そのような事態に十分に準備ができておらず、期限内の撤退終了までに、英国に移る権利のあるアフガン人千人ほど(実数はさらに多いといわれる)をアフガニスタンに残したままとなった。それでも合わせて1万5千人を英国へ送ったといわれるが、政府の対応に批判が集まった。その中でも、特に、混乱の中、動物愛護の慈善団体が170匹ほどの犬と猫を飛行機で英国へ送ったことに大きな批判がある。アフガン人の命より犬猫の命の方が大切なのかというのである。

ワレス国防相は、もともと犬猫を優先して救出することはできないとしていたが、突然、その考えを変え、その慈善団体の用意した飛行機で動物を英国に送ることを援助したのである。慈善団体の責任者が、ワレス国防相のスペシャルアドバイザーの電話に脅迫するようなメッセージを残したことが明らかになっているが、それ以外に、ジョンソン夫人が(ジョンソン首相を通じて)国防相に圧力をかけたのではないかという疑いがある。首相官邸はそれを否定しているが、ジョンソン首相の夫人キャリーは、動物愛護活動家として知られている。この経過は、アメリカの雑誌、ニューズウィークのウェブサイトでも詳細に報告された。

ジョンソン夫人のジョンソン内閣に対する影響力の大きさはよく知られている。しかし、このような問題でジョンソン夫人の関与が報じられるのは、ジョンソン首相にとって良いことではないように思われる。