自民党の生活費危機対策

イギリスの経済はG7で最も成長しているが、賃金上昇は停滞している。むしろ物価の上昇を考えれば、マイナスとなっている。 

この中、自民党は来年5月に予定されている総選挙のマニフェストで、それを考慮に入れた政策を打ち出す構えだ。

自民党は2010年の総選挙で、所得に税のかかり始まる、課税最低限度額を1万ポンド(170万円)に上げると約束した。これは既に達成したが、次の総選挙のマニフェストでは、これを12,500ポンド(213万円)にするという。そしてそれを達成した後、国民保険(National Insurance)の労働者負担を下げたいという。

この国民保険は、実は所得税とそう大きく異なるものではない。積立のように将来のために使われるというものではなく、現在、このお金の大半は老齢年金の支払いに回っている。国民保険は、雇用者と被雇用者の両方が支払っているが、現在、所得が8千ポンド(136万円)以上の人が支払っており、ほとんどの人は所得の12%支払っている。

自民党が国民保険に注目している理由の一つは、所得税の課税最低限度額を上げても、既に所得税を支払っていない低所得者の人たちに恩恵がないことである。 

確かにこれはわかりやすい政策だろう。しかし、これは消極的な政策と言えるのではないか?これをマニフェストの目玉とし、「減税政党」のイメージを与えたいのはわかるが、同時に、もっと積極的に賃金が上がる政策を打ち出すことが必要に思える。

労働党のネガティブ・キャンペーン

労働党が2週間後に控えた欧州議会議員選挙のために公共放送BBCの政党選挙放送枠で公開した自民党のクレッグ副首相と保守党のキャメロン首相らを攻撃するパロディビデオはショッキングだった。ネガティブ・キャンペーンである。これからの1年間、このようなダーティー戦術が頻繁に使われるようになるだろう。どこまで行くのだろうか。

このビデオは白黒だが、きちんとした俳優が使われており、かなりの費用をかけていることは明らかである。アメリカでは対立する候補者や政党のイメージを悪くする攻撃宣伝が使われているが、ミリバンド労働党党首が新しく雇った、オバマ選対にいたデービッド・アクセルロッドの影響は否定できないだろう。

自民党はこのビデオに対抗してミリバンド労働党党首を攻撃するビデオをすぐに公開したが、そのクオリティは労働党のものとは比較にならない。保守党には対抗するようなものを作る資金力があるが、自民党にはそれが乏しいと思われる。

労働党のビデオでは、キャメロン首相を一般の人々のことを考えない高慢な上流階級の人物として描いているが、焦点が当たっているのはクレッグである。信念のない、自分のことしか考えず、すぐに服従させられる人物としている。1957年に出た「The Incredible Shrinking Man」という映画をもとに作られており、「The Un-Credible Shrinking Man」と題されている。3分余りのビデオであるが、閣議に出席したクレッグ副首相が、自分の約束や原則を守らず、キャメロン首相に従うたびにその体が縮んで行く。

クレッグは、2010年の総選挙で大学の学費の無料化を約束したが、キャメロン政権の副首相に就き、学費を3倍にすることを認めた。この事実は、自民党の連立政権参加の条件だった下院の選挙制度修正の賛否を問う2011年国民投票(AV制度の導入)で、反対派に使われた。修正案は大差で否決された。クレッグは個人的に大きな痛手を負い、それ以降立ち直れていない。

明らかに労働党はこのクレッグへの悪い記憶とキャメロン政権での好ましくない政策実施に果たした自民党の役割を有権者に思い出させようとしているようだ。容赦がない。522日の欧州議会議員選挙と同時に地方議会選挙も行われるが、欧州議会議員選では、自民党は前回2009年の11議席から23議席へと惨敗すると見られている。また、地方議会議員選でも多くの議席を失うだろう。自民党は総選挙で重要な役割を果たす地方議員を連立政権参加以来大きく失っているが、それがさらに輪をかけて悪化する状況だ。

1年後の来年57日予定の次期総選挙で労働党の標的にしている自民党の議席は14あると言われる。これらの議席を獲得するためにさらにクレッグへの個人攻撃は続くだろう。また、かなり議席を減らす見込みの自民党は党首交代を迫られる可能性が強い。もし、どの政党も過半数を得ることのないハングパーリアメント(宙づり議会)となり、労働党が自民党と連立政権を組まざるを得ないこととなっても新しい党首と協力してやっていけるというシナリオを描いているように思われる。