英国の格付の政治(Politics on the UK’s Credit Rating)

 

格付け会社の一つムーディーズが、国の格付の最高水準であるAaaの英国のアウトルック(見通し)をネガティブ(弱含み)としたことから、マスコミが大きく取り上げ、財務相と影の財務相の政治的な論争が始まった。

格付とは、国がその債務を履行できなくなる可能性の評価である。ここでのネガティブ(弱含み)とは、今後12か月から18か月の間に現在のAaaの格付けを失う可能性が3分の1あるということである。

問題は、オズボーン財相はこれまで政府の行っている財政緊縮策は、このAaaの格付を維持することがその主な目的だと主張してきたことだ。この格付を維持することは、英国への投資を促し、政府の借金の利子を低く保つことができるからである。英国は、欧州で最も大きな債務を持つ国の一つである。

オズボーン財相は、財政緊縮以外に英国の取るべき道はないと主張しているのに対し、労働党のボールズ影の財相は、緊縮策は自滅的な道で、経済成長こそが政府債務を減らす唯一の方法だと言う。つまり、需要を増やし、雇用を維持する経済成長を促すために借金をすべきだと言うのである。オズボーン財相の当初の計画では、2015年までに財政を均衡させる予定であったが、失業増加と経済の停滞のために、既に2017年までに先延ばししている。この最大の原因は、英国の最大の市場である、ユーロ圏の問題だ。これは、ユーロ圏外の英国の経済、そして政治に大きな影響を与えている。

ムーディーズは、英国が財政緊縮策を緩めることには警告を発している。そのため、所得課税最低限を、連立政権の合意文書に含めた、年に1万ポンド(120万円)まで上げることは、かなり先のことになりそうだ。課税最低限は現在の7475ポンド(90万円)から8105ポンド(97万円)に4月から上がることが既に決まっている。保守党と連立政権を構成する自民党は、目標は1万ポンドにとどまらず、1万2千ポンドまで引き上げるべきだと主張している。

若者の失業対策 (The UK way of dealing with Youth unemployment)

16歳から24歳のニートが116万人となったと昨年11月に発表された。ニートとは、英国では学校にも行っていない、仕事もしていない、トレーニングも受けていない人のことを言う。これは、この年代層の5人に1人にあたる。たいへんな数だ。

日本では、新卒を好む傾向があるが、英国では、即戦力を求めて経験者を好む傾向がある。このために、学校を出たばかりの若者が職にありつけない事態が生じている。

これを放置しておけば将来に禍根を残すと、政府は対策を取ることにした。これは、ユース・コントラクトという制度で、若者に仕事に就くきっかけを与えようとするものであり、この4月に始まる。今後3年間に1200億円を投入し、41万人の働く場を作り出そうとしている。

この制度では、基本的に、企業がこれらの若者に機会を与えれば、政府から一定の助成金が支給される。この中で中心となるのは、18歳から24歳の若者を6か月間雇用すれば一人当たり27万円の助成金がでるもので、3年間で16万人の働く場をつくるのが目的だ。

これ以外に、週16から29時間のパートタイムの仕事に14万円の助成金が出るもの、見習い者として雇用する者には18万円の助成金がでるもの、さらに25万人に8週間までの職場でのトレーニングを与えようとするものなどがある。特に貧困など難しい家庭出身のニートは、ニートであることが継続化しやすい傾向にあることから、16歳と17歳の若者を対象にして2万5千人の働く場所作りに60億円を使う予定だ。

ただし、今回の制度で、どの程度効果が上がるかははっきりしていない。助成金の額が企業の関心を呼ぶほどのものかどうか疑問だという声もある。

このような制度は、かつてサッチャー保守党政権時代の1983年にも実施されたことがあり、また、前ブラウン労働党政権でも2009年に似たような制度が導入された。

1983年のユース・トレーニング・スキームでは、1983年価格で今回の制度と同等の10億ポンドを費やして実施したが、その評価は以下を参照のこと。今回の制度は、このスキームで問題となったことに対応している。
http://www.princeton.edu/~ota/disk1/1995/9559/9559.PDF

また、BBCの関連のウェブサイトは以下を参照。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-17010683?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
http://www.bbc.co.uk/news/uk-15896650