スコットランド独立に関するTV討論

918日、スコットランド独立に関するスコットランド住民による投票がある。あと6週間ほどとなった。そして85日に独立賛成側のアレックス・サモンド首席大臣(スコットランド国民党)と反対側のアリスター・ダーリング前財相(労働党)のテレビ討論が行われた。

まず、2人の背景は以下のとおりである。スコットランド議会で過半数の議席を占めるスコットランド国民党(SNP)は、スコットランドの独立を唱えて設立された政党であり、サモンドはその党首である。

2011年スコットランド議会議員選挙129議席の内訳

政党

選挙区

比例区

議席合計

議席数 得票率 議席数 得票率
SNP 53 45.4 16 44.0 69
労働党 15 31.7 22 26.3 37
保守党 3 13.9 12 12.4 15
自民党 2 7.9 3 5.2 5
スコットランド緑の党 2 4.4 2
無所属 0 0.6 1 1.1 1

一方、スコットランドで最もウェストミンスターの下院の議席の多いのは労働党であり、主要3政党はいずれもスコットランドの独立に反対している。 

2010年総選挙のスコットランドの59議席の内訳

政党 議席数 得票率
労働党 41 42.0
自民党 11 18.9
SNP 6 19.9
保守党 1 16.7

つまり、賛成側のSNPと反対側の労働党の代表者がそれぞれの立場を代表してTV討論に出た。

2010年のイギリス全体の総選挙の際に主要3政党の党首討論が行われた。キャメロン(保守党)、ブラウン(労働党)、クレッグ(自民党)のTV討論は3回行われ、その中でも1回目が最もインパクトが大きかった。クレッグは特に目立つことを発言したわけではないが、フレッシュな印象を与え、討論直具の世論調査で圧倒的な支持を得た。史上初めての総選挙時の党首討論であったために注目度も高かった。第2回目、3回目には視聴者の数も減り、クレッグ以外の党首も戦略を見直し、話し方を変えたため、差がなくなった。 

スコットランドの独立に関するTV討論では、今のところ次の予定ははっきりしていないが、もし行われてもそのインパクトははるかに少ないと思われる。 

今回のTV討論は、スコットランドの民放のSTVが行った。BBCSTVにイギリス全体でもBBC経由で映像を流すことを申し入れたが、断られたと言われる。そのため、スコットランド以外ではこの討論を見るためにインターネットに頼る必要があったが、グリッチがあり、何度も映像が止まった。視聴者が多すぎたためと言われる。これにはSTVも放映中から謝罪していた。

さて、この討論は午後8時から10時近くまで2時間近く行われた。討論直後の世論調査では、独立反対側のダーリングが賛成派のサモンドを5644で破った。この世論調査ではサンプル数が512と少なく、必ずしも決定的なものとは言えないが、ここでいくつか感じたことに触れておきたい。

二人の議論は反対派のダーリングが、不確かな点が多すぎる、サモンドは独立しても十分にやっていける、スコットランドと同規模または小さな国を見てみよ、という基調で展開した。

ダーリングの攻撃はスコットランド独立後の通貨の問題に象徴される。イギリス政府側は、現在の通貨ポンドを使わせない立場だ。一方、サモンドはポンドを使う意向だ。

ただし、もし住民投票で独立反対派が多数を占めれば、イギリス政府の状況は完全に変わると思われる。歴史的に関係が強い隣国を敵に回すのは得策ではないからだ。これはEUの加盟問題もそうだろう。イギリス政府の通貨の立場は、単に交渉のオープニング・ガンビットに過ぎないと思われるからである。

もしスコットランドが独立することになれば、イギリスの資産の分割や対外関係などすべてにわたって詳細な交渉が必要となる。その交渉の中で例えば、短期間の移行措置としてスコットランドがポンドを使うことを認めるということも可能だろう。むしろそのような措置は必要不可欠ではないだろうか。それが、例えば数年延びたところで大きな問題となるとは思えない。

この問題に関連して、キャメロンがサモンドと討論しなかった利点の一つはここにあると思われる。ダーリングは通貨の問題を執拗についたが、キャメロンにはそのようなことはできなかっただろうからだ。キャメロンはイギリス全体の首相として一方的な発言をすることは難しいからである。

ファイナンシャルタイムズ紙のコメンテーターは、このTV討論を「熟練の弁護士と一流の政治家」の対決だったと評したが、弁護士で派手さのないダーリングは、サモンドに負けなかったことでその役割を果たしたと言える。サモンドはこの討論で劣勢の独立賛成運動に火をつけたかったが、それに失敗した。

 

スコットランド独立の損得勘定の浅はかさ

スコットランド政府は、スコットランドが独立すれば一人当たり千ポンド(173千円)得をするという。ウェストミンスター政府は、イギリスに留まれば1400ポンド(242千円)得をするという。その差は2400ポンドある。どちらが正しいのだろうか?

結論は、どちらともいえないである。

スコットランドが独立すると、その借金の利子が0.5から1%高くなるだろうとする見方がある。もしかすると、短期的にスコットランドは苦しむかもしれないが、長期的にはどうなるかわからない。スコットランド政府のサモンド首席大臣は、もともと石油のエコノミストで、しかも非常に優れた政治家だという評価があるが、独立スコットランドを大きく発展させるかもしれない。その反対に、うまくいかないかもしれない。

それはそうだろう。ウェストミンスターのイギリス政府でも、キャメロン政権は、その政策が正しいのでイギリスは財政削減を成し遂げた上、G7でトップの経済成長を成し遂げていると誇り、もしこれが労働党政権だとイギリスは苦しんでいると主張する。

IMFも少し前まで、イギリスはその財政経済政策を変える必要があると報告していたが、今ではその見解を変えた。

そういう中、スコットランドの弁護士会が独立賛成側も反対側もはっきりしていない点がいくつもあると指摘した。例えば、独立賛成が多数であった場合、スコットランドはEUのメンバーにすぐになれるのか?その場合にはイギリス政府が協力するのかどうか?独立スコットランドの通貨をどうするのか?イギリス政府はじめ主要3党はポンドを共有しないとしているが、スコットランド側は、口先だけだといっている。独立反対が多数であった場合、スコットランドへの権限移譲をさらに進めると主要三党が約束しているが、その内容ははっきりしていない。

確かに、この918日の住民投票の結果次第で賛成側、反対側の両方がその立場を変える可能性がある。

今回の独立住民投票は、かなりのあいまいさを残したまま行われることとなるだろう。とどのつまりは、スコットランドに住んでいる人たちが本当に自分たちのアイデンティティを独立という形で確立したいかどうかということになる。それは目先の損得勘定の問題ではないだろう。