北アイルランドの国勢調査から(Some Interesting Facts from National Census Northern Ireland)

北アイルランドの人口
近年の経済成長も反映し、人口がかなり増えている。
2001年から2011年の10年間で7.5%増加し、181万人となった。特にダンガノン(Dungannon)という1万6千人の町は、ベルファストから約65キロ離れているが、人口が21%も増えた。

・どのパスポートを持っているか?
英国の一部であるので、英国パスポートと考えがちだが、実態は必ずしもそうではない。
①英国パスポート 59%
②アイルランドパスポート 21%
③パスポートなし 19%

・セントラルヒーティングのない世帯
経済的に豊かとなり、しかも福祉が充実してきたせいだと思われるが、セントラルヒーティングのない世帯がかなり減った。2001年には4.9%であったが、2011年には0.5%となった。

・自分を何人だと思うか?
自分を複数の「国籍」があると考える人がかなりいる。
①英国人 40%
②アイルランド人 25%
③北アイルランド人 21%
④英国+北アイルランド人 6.2%
⑤アイルランド+北アイルランド人 1.1%
⑥英国+アイルランド+北アイルランド人 1%
⑦英国+アイルランド人 0.7%
⑧その他 5%

以上をまとめると、自分を英国人と見る人は48%、29%が北アイルランド人、そして28%がアイルランド人とみている。

北アイルランドの将来(The Future of Northern Ireland)

北アイルランドの問題はよくユニオニストとナショナリストの対立であると言われる。一般にユニオニストとは、北アイルランドは英国の一部として維持されるべきだという立場であり、ナショナリストとは、北アイルランドを南のアイルランド共和国と統一すべきだという立場である。

この二つの立場は、プロテスタントとカトリックの宗教の対立から生まれたもので、北アイルランドでは、多数を占めてきたプロテスタントがカトリックを迫害してきた歴史がある。もともとアイルランドは全島がカトリックだった。17世紀以降プロテスタントが入植し、20世紀に入って北アイルランドを支配したが、全島をアイルランド共和国として統一すべきだという考え方がカトリックに強くあった。

プロテスタントはユニオニストでカトリックはナショナリストという傾向はあるが、プロテスタントやカトリックとして育てられても、自らどの宗派に属すると考えない人もかなり増えてきている。また、ユニオニストもしくはナショナリストである度合いの強弱も多様であり、一様に分別することは難しくなっている。

2010年のNorthern Ireland Life and Times 調査によると、カトリック教徒で、北アイルランドを英国の一部として維持されることを望む人が52%いることがわかった。そしてカトリックの33%しか南のアイルランドとの統一を望んでいない。調査全体ではアイルランドとの統一を望んだ人はわずか16%で、全体の73%が英国の一部であることを望んでいる。
http://www.ark.ac.uk/nilt/2010/Political_Attitudes/index.html
(なお、2011年にはこの調査は行われなかった。)

1998年の同じ調査では、カトリックで、英国の一部であることを望んだのは19%で、2005年には25%であったことから見ると大きく増加している。

この原因は、もちろん2007年から政治が安定したことが背景にあるが、ユーロ危機でアイルランド共和国が英国の援助を受けたことと、北アイルランドの経済的な安定ではないかと見られている。

北アイルランドは英国で最も中央政府からの補助金の多い地域で、2011年に北アイルランド議会で演説したキャメロン首相は、北アイルランドはイングランドよりも一人あたりの公共支出額が25%多いと発言した。
http://www.number10.gov.uk/news/address-to-northern-Ireland-assembly/

つまり、もし、北アイルランドが南のアイルランド共和国と統一すると経済的に不利だというわけである。これにはカトリックにとって北アイルランドの居心地がよくなっていることが基本的な要因としてある。

ユニオニスト側にとっては、プロテスタントの人口が年々減り、人口に占める割合がかなり急速に減っていることを考えれば、以上の状況は好ましいことと言える。北アイルランドの政治は既に政権の共同運営の制度となっており、ユニオニスト側とナショナリスト側の両方のコンセンサスで進められている。つまり、カトリック/ナショナリストに公平で居心地のいい地域づくりを進めることが将来の北アイルランドの英国の一部としての地位を確かにし、プロテスタント/ユニオニストの将来をより確かなものとするからである。