警察の採用改善案(Police Recruitment Change Plan)

今日、公共サービスのほとんどすべてが変わらねばならない時代である。それは警察の世界でも同じで、政府の発表した採用改善案は、警察にも変化を強いる一つの手段だ。

警察は2010年から2015年の間に実質20%の財政カットを求められており、それに対応するよう動いている。警察官・スタッフの数の大幅削減、警察の地区駐在所などの移動、廃止さらには、警察の仕事をできるだけ外注するなど多様な動きがある。

その中で、警察官の採用方法の変更も発表された。この変更は、警察の人種的多様化を進め、多くの異なった能力・技術を警察に導入することを念頭に置かれている。

具体的には、以下の三つの制度の導入である。

①大学卒業者や警察内部の優秀な人たち80名程度の特急昇進制度
これまで、警察官は採用されると、巡査レベルで2年間過ごすことになっていた。これは、ロンドン警視庁など大卒採用制度のあるところでも同様であった。この制度を変えて、採用後3年で警部(Inspector)に昇進する仕組みとする。この制度の導入で、それぞれの警察管区のトップである本部長クラス(Chief Constable)に到達するのにこれまで25年間程度かかっていたのを10年から15年で可能にしたい考えだ。

②警察管区トップへ外国人の任命を可能とする
警察官には英国籍を持つ者しかなれないことになっていたが、これを変更し、本部長に外国人を任命できるようにする。しかし、その対象者は、英国警察の伝統である「住民の合意」による警察の考え方に基づいた警察制度を持つオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカに限られる。

③特に能力のあると判断された人たちを警視レベルに採用する制度
軍や諜報機関、さらにはそれ以外の分野で特に優秀とされる人を採用し、15か月のトレーニングの後に警視(Superintendent)とする仕組み。

多くの不祥事が起きている警察内部の文化を変えることは必要だろう。しかし警察の幹部に経験の乏しい人が就くということになれば、かえって逆効果になる可能性もあるように思われる。特に危機的な状況に対応するにはかなりの経験が必要だろうからだ。

お役所仕事?(A Tick Box Mentality Misses a Point)

ケインズ経済学で有名な英国人ジョン・メイナード・ケインズはかつて英国の国家公務員だったことがある。1906年に英国のインド省に入省したが、その国家公務員試験の結果を受け取って、ケインズは怒った。友人への手紙で、ケインズの受けた試験の中で最悪のものは、ケインズが最もしっかりした知識のある数学と経済学だったと怒りを打ち明けた。

ケインズの伝記を書いたスキデルスキー卿(英国上院議員でウォリック大学政治経済学名誉教授)は、そのケインズの話を思い出して、自分を慰めたことがあるという。

スキデルスキー卿はもともとロシア人の家系で、50代になってからロシア語の勉強を始めた。そして2003年にAレベル(大学入学レベル)のロシア語の試験を受けた。6科目の試験があり、その科目の一つは、所定のテーマについてのものだった。スキデルスキー卿は、そのテーマについて徹底的に準備し、他の科目はともかく、このテーマについての試験は大丈夫と自信を持って臨んだ。その試験に出たのは、課題文学書に登場した人の人物像とロシアの失業についてであった。スキデルスキー卿は、政治経済学者として大学でも教え、ロシア人とも数限りないほどの議論をしており、ハイパーインフレや法の支配の欠如などについて書いたと言う。ところが、他の科目はよくできていたが、この科目は、90点満点中わずか26点しか獲得できなかった。「知識不足、テーマの理解不足、そして首尾一貫した主張ができていない」との評価だったそうだ。

おそらく、おざなりの知識しかない人にとって、ほんとうの専門家の見解を理解するのは難しいモノなのだろう。