ジョンソン首相の問題は首相夫人のせい?

ジョンソン首相の夫人キャリー・ジョンソンに焦点が当たっている。ジョンソン首相の苦しい立場を招いたのは、キャリーのせいだとする見方があるからだ。

ジョンソン首相の率いる与党保守党の支持率は大きく下がっている。ジョンソン首相の評価もマイナス40%を超えるなど異常な事態だ。過去2年ほどの間に、新型コロナ拡大防止のため、家庭、家族を含めた集まりなど厳しい行動制限が設けられていた中、その制限を無視したかのように首相官邸などで集まりが催されていたことが発覚したためだ。これは、パーティゲートと呼ばれているが、それが発覚した昨年末以来、世論調査の保守党の支持率は野党第一党の労働党を下回っている。当初、保守党が労働党を10%近く下回っていた。その差はしばらく減少した。しかし、パーティゲートの調査を依頼されたスー・グレイの概要報告が、政府のリーダーシップの欠如を指摘した上、ジョンソン首相の参加した集まりも警察が捜査していることが明らかになって以来、それが再び10%に近い数字になっている。なお、グレイの報告が単に概要報告となったのは、現在ロンドン警視庁が首相官邸などの集まりの新型コロナ規制違反疑いの捜査を行っており、詳細を報告しないようグレイに要請したためである。警察の捜査終了後に全体が公表される予定である。

また、パーティゲートに関連して、保守党下院議員らのジョンソン首相への不信任の動きがある。保守党のジョン・メージャー元首相とテリーザ・メイ前首相がジョンソン首相を厳しく批判したが、ジョンソン首相は退くべきだと公言した保守党下院議員はかなりいる。党首不信任投票実施には、保守党下院議員の15%、54人が党首選挙を管轄する1922委員会会長に不信任投票を求める手紙を書く必要がある。ただし、もし不信任投票が実施されても、党首を辞めさせるには、過半数の保守党下院議員(現在360人のため、181人となる)が不信任に賛成する必要があるが、もしそれに至らない場合、再度の不信任投票は1年間実施できない。多くの保守党下院議員は、警察のパーティゲート捜査とグレイの最終報告書の行方を待って、ジョンソン首相を不信任するかどうかを決める構えである。

ジョンソン首相が苦境に陥るとともに、キャリーへの風当たりが非常に強くなった。ジョンソン首相の数々の問題にキャリーが関わっていたと考えられているためだ。例えば、ダウニングストリートの首相の住居の改修費用問題(金の壁紙1巻840ポンド⦅約12万6000円⦆が使われた、さらにパーティゲート(幾つかのパーティにキャリーも参加、それには首相の住居のパーティも含まれる)、また、昨年8月のアフガニスタン撤退時に、犬猫の救出を人の救出よりも優先したという疑いである。

しかし、キャリーへの批判は女性蔑視的だとする見方も強い。キャリー・アントワネット(フランスのマリー・アントワネットを模して)とかマクベス夫人だとか呼ぶ向きもあるからだ。保守党副幹事長だったアッシュクロフト卿のキャリーを中心に扱った著書「首相夫人(First Lady)」は2022年3月末に出版される予定だが、その内容をデイリーメールとサンデーメールが報道した。そこでは、キャリーがジョンソン首相の携帯電話を使って、官邸スタッフに指示を出した、重要な政治的判断に介入した、また、官邸などのスタッフの雇用や解雇に関わったとする。

キャリーは、それらの疑いを否定しているが、ウェストミンスター(日本の霞が関にあたる)では、キャリーはジョンソン首相に大きな影響力があると見られている。ジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニック・カミングスを首相官邸から追い出したのは、キャリーの仕業で、2020年11月13日にカミングスが首相官邸を去った時、官邸内の首相の住居でパーティを開いたと言われる。このパーティはABBAの音楽を使ったため、ABBAパーティとも呼ばれる。なお、このパーティは、警察の調査の対象になっている。カミングスの力が大きすぎ、キャリーは自分の意思が通らなかったのが気に入らなかったと見られている。確かにカミングスにとっては、キャリーは取るに足らないような存在だったのだろう。キャリーは保守党本部の広報部長にまでなったが、その能力に疑問が出て、その職を辞めさせられたとの話がある。

一方、カミングスは、首相官邸とウェストミンスターで非常に恐れられていた人物だった。2016年のEU離脱国民投票の離脱派のキャンペーン責任者で、離脱勝利に非常に大きな役割を果たし、さらに2019年総選挙でジョンソン首相に大勝利をもたらした人物である。

キャリーは保守党の政治に関わり、それなりに政治に対する考えはあると思われる。また、動物愛護や環境問題に強い関心がある。その考えを実現するために有力政治家の夫人になるというのは、一つの選択肢だろう。しかし、キャリーの介入を受け入れたのは、ジョンソン首相であり、ジョンソン首相に最終的な責任がある。キャリーがどのような要求をしても、ジョンソンにはそれを受け入れない、拒否する能力があるはずだからである。しかし、ジョンソンの性格とこれまでのジョンソンの生き方から、キャリーの要求を許す土壌があったようだ。ジョンソン首相57歳、キャリーは33歳。自分より24歳も若い女性に手玉に取られたように見える面がある。2020年に離婚した、3人の子供をともにもうけた前妻は勅選弁護士(QC)であるが、まだ前妻と一緒にいたならば、恐らく、首相の住居改修の壁紙問題も、パーティゲートも、アフガニスタンからの動物撤退問題も起きなかったように思われる。