英国の政治ジャーナリスト(British Political Journalist)

英国では、どういう人が政治ジャーナリストになっているのだろうか?ここでは、英国公共放送のBBCの政治部長を務めるニック・ロビンソン(Nick Robinson:1963年10月5日生)の例を見てみよう。

ロビンソンは、英国で大きな政治のエピソードがあるたびにテレビやラジオのBBCの番組に登場してきてコメントする。毎週水曜日正午からの首相のクエスチョンタイムにもBBCのポリティクスショーに出演して、事前にその日の見どころや、直後には首相や野党党首のパフォーマンスなどの感想を述べる。その率直で誠実そうなイメージとウィッティなコメントは、ビジネス部長のロバート・ペストンとともにBBCの看板の一つと言えるだろう。

私も若干であるが、ロビンソンの人柄に触れたことがある。ケンブリッジに行った時のこと、街角でロビンソンを見かけた。そこで「ハロー、ミスターロビンソン」と言うと、少し驚いていたが、笑顔で「ハロー」と応じてくれた。

サンデータイムズ紙にロビンソンの一日が紹介されている。朝、奥さんが6時半に起き、子供たちが学校に行く世話をし始める。ロビンソンは、BBCラジオ4のToday というニュース番組を寝ながら聞く。この朝の番組は朝6時から9時までだが、多くのインタビューを交えた政治関係者必聴の番組である。

そして起きだし、家族と朝食を取る。出勤する前に自分のブログを更新。そしてウェストミンスターにあるミルバンクのBBCのオフィスに出勤。午前11時に、首相の報道官が政治ジャーナリストにブリーフィング。昼食を政治家と取る。この費用はBBC持ち。午後には、編集に入る。午後6時のニュースに出演する時には午後10時のニュースにも出演することが多く、ウェストミンスター周辺で過ごす。再編集する。きちんとした食事をしなければと思っているが、通常、クリスプス(日本でいうチップス)やチョコレートでやり過ごすことになりがちだと言う。家には午後10時45分くらいになることが多い。そして奥さんとワインを飲み、子供と話をする。

ロビンソンは、よく、政治家を実際のところあまり好きではないのでしょう?と聞かれることがあるという。しかし、ロビンソンは、正直なところかなり好きだという。政治家はほとんどが、立派な仕事をしている、まともな人たちであると言う。もし、自分がこれらの人たちが悪党やペテン師と思うようなら自分の仕事ができないだろうと言う。

この点は、私も同感だ。英国の政治家の多くは立派な仕事をしている、まともな人たちだと思う。

政治家の中にはメディアへの対応が非常にうまい人がいるそうだ。ゴードン・ブラウン前首相は、財相時代、素晴らしかったという。しかし、首相となって、物事が思ったようにいかなくなると、ブラウンとのインタビューでは、ロビンソンは、しばしば、暴行で有罪になった人の刑務所の監房に入っていくような気がしたそうだ。ブラウンは質問されるのが嫌いで、質問者を、ブラウン側の人間ではないと宣言した者のようにとったという。インタビューが終わると、ブラウンが自分の身に着けたマイクロフォンをむしり取り、非常な勢いで出て行ったことがしばしばあったという。ロビンソンは、そんなブラウンを可哀そうに思ったそうだ。

ロビンソンは、小さな時からニュースに興味があった。そしてオックスフォード大学を出た後、BBCに入った。一時ITVという他のテレビ局の政治部長を務めたが、BBCに復帰した。なお、ロビンソンは、18歳の時、友人二人と車でフランス巡りをした。その車が正面衝突し、友人二人は即死したが、ロビンソンは生き延びた。この経験がロビンソンのモチベーションを支えているような気がしてならない。