手段を選ばないジョンソン首相

ボリス・ジョンソン首相は、目的を達成するためには手段を選ぼうとしないようだ。もちろん最終的な目標は、次期総選挙で勝利することである。それにはいくつかの方法がある。

まず、10月31日にEU離脱を成し遂げることである。EU離脱を成し遂げれば、EU離脱を目的に掲げるブレクジット党の存在意義がなくなる。この党は5月の欧州議会議員選挙で勝ち、世論調査で現在10数パーセントの支持を得ている。保守党のジョンソンがEU離脱を成し遂げたということで、現在のブレクジット党の支持者が保守党支持にかわり、保守党が総選挙に勝つという読みだ。

これを成し遂げるため、ジョンソンらは、合意なしでEU離脱をした場合に想定される大きな経済的打撃を打ち消すのに躍起だ。政府の「合意なしのEU離脱の影響」を査定した文書(「イエローハンマー」文書と呼ばれる)が漏洩され、その後、その要約が発表されたが、それを古いものだと言い張っている。それどころか、担当のゴブ大臣は、ビジネスは、合意なしでEU離脱をした場合の準備ができていると主張しているが、ビジネス側は、否定している。ジョンソンらは、一度EUを離脱してしまえば、結果は後の祭りというわけだ。大きな経済的混乱が生じても、その責任は誰かほかに負わせられると見ているようだ。

その一方、「合意なしのEU離脱」を防ぐ法律の裏をかく手段が明らかになった。この法律は「ベン法」と呼ばれる。ジョンソンが合意なしでEU離脱するのを恐れた議会が、9月3日に提案し、9月9日に法律となったものである。10月19日までにEUとの合意ができなければ、ジョンソンがEUに離脱交渉の3か月延長を申し入れなければならないとするものである。

ところが、ジョンソンは、法を尊重するが、EUに交渉延長を求めることはしないと主張している。そのため、この法律には強制力があるが、ジョンソンが何らかのずるい手を考えているのではないかと野党が慎重になっていた。その手の一つが明らかになった。大臣らだけによる枢密院令を使って、議会を停止し、10月31日までに議会が手を打つのを止めようとするものである。

古くから存在する制度を恣意的に使って、特定の目的に供しようとするこのような試みは、9月24日に出された最高裁の、議会の意思を重んじる判示に反する。ただし、限られた時間内で、このようなすべての試みに対応するのには限界があろう。

次に、もし、10月31日にEU離脱ができない場合、総選挙が直ちに行われるのは確実である。ジョンソンは、その場合、「国民」対「議会」の構図で選挙を行うつもりだ。すなわち、議会はEUに降伏した、その主権を取り戻すには、ジョンソン率いる保守党が総選挙で勝たねばならないとするものである。

この構図を維持していくため、ジョンソンはそのレトリックを緩めないだろう。ジョンソンは、国民の中に怒りを植え付けることで、保守党に勝利をもたらせようとしている。国民をさらに分断し、国民の統一を犠牲にしてでもだ。このようなタイプの政治家は近年、イギリスにはいなかった。アメリカのトランプ大統領の影響といえるかもしれない。