まだ道遠い北アイルランド自治政府復活

北アイルランドでは、2017年1月に自治政府が倒れて以来、自治政府を復活できない状態が続いている。これは、北アイルランドの特殊性に関係している。北アイルランドでは、イギリスとの関係を重んじるユニオニスト(キリスト教のプロテスタントと重なる)とアイルランド共和国との関係を重んじるナショナリスト(キリスト教のカソリックと重なる)の紛争が続き、両者の妥協がなければ北アイルランドの平和は保てないという考えから、自治政府のトップである首席大臣と副首席大臣の二人をそれぞれの側の最大政党から選出する仕組みを作ったことにある。

この仕組みは、北アイルランド地元の政党、イギリス政府、アイルランド共和国政府だけではなく、アメリカ政府も絡んだ大掛かりで、しかも複雑な交渉の結果生まれたものだった。これはベルファスト合意(グッドフライデー合意)と呼ばれる。

2017年1月の自治政府の崩壊は、首席大臣の、民主統一党(DUP)のフォスター党首がビジネス担当相時代に始めた再生可能エネルギー政策の法外な政府負担の問題に端を発し、シンフェイン党のマクギネスが副首席大臣を辞任し、その後ナショナリスト側最大政党のシンフェインが代わりの副首席大臣を出さなかったことによる。

それ以来既に13か月経つ。2017年3月には北アイルランド議会選挙が行われた。また、同年6月にはイギリス全体の総選挙も行われたが、北アイルランドの結果は、ユニオニスト側、ナショナリスト側の両者ともそれぞれの最大政党であるDUP、シンフェインがさらに勢力を伸ばし、北アイルランドの政治構造は全く変化していない。すなわち、北アイルランドの自治政府の復活のためには、DUPとシンフェインとが納得できる合意をなしとげなければならない。そのためにイギリス政府、アイルランド政府も尽力してきた。

問題の一つは、現在、北アイルランド自治政府は、その公務員によって運営されていることであり、通常、北アイルランド議会の判断で行われる予算の議決などができないことだ。必要最小限の法制は、ロンドンのウェストミンスターの議会で行えるが、このままでは北アイルランド政府が成り立って行かないという危惧がある。北アイルランド議会を停止して、ウェストミンスターからの直接統治をするという方法はあるが、これはベルファスト合意の趣旨を損ない、しかも新しい法制を設ける必要がある。

一方、複雑な北アイルランドの政治にウェストミンスターの政権が深く関与することには慎重だ。

さらにメイ政権は、2017年6月の総選挙で過半数を失い、DUPの閣外協力で政権を維持していることがある。DUPの機嫌を損なうことは政権の危機につながる可能性がある。昨年12月、イギリスのEU離脱後の、アイルランド島内の、英国の北アイルランドとEUメンバーのアイルランド共和国との間の国境問題が大きな話題となった。DUPの立場は、北アイルランドがイギリスの他の地域と同じように扱われることを求め、現在設けられていない国境での検問の再設置には反対というものである。これらを満足させることはメイ政権にはそう簡単なことではない。一方、機能していない北アイルランド議会議員の給与が全額払われているが、これを減らすべきだという報告書もあり、メイ政権には重荷になっている。

2018年2月、シンフェイン党の党首がジェリー・アダムズからメアリー・ルー・マクドナルドに変わる中、新しい動きがあった。シンフェインの要求していたアイルランド語を公式に法律で認めることにDUPが理解を示し、この問題の解決で、自治政府が再開するのではないかという期待が盛り上がったのである。ただし、DUP側の支持者らの理解を得られず、DUP側が退いた。

これには、シンフェインの伝統的な交渉戦術があるように思われる。一つの課題を粘り強く推していくのである。新党首のマクドナルドは、もしこの要求が認められれば、新党首として大きな成果となる。シンフェインは、政治情勢の移り変わりにその支持者らをともに連れていくことを重視している。すなわちシンフェインは政治情勢を極めてよく読んでいるといえる。一方、DUP側は、自治政府の再開に躍起になっており、シンフェインほど細かい配慮をしていない。

北アイルランド自治政府の再開にはまだ時間がかかりそうである。メイ首相の頭痛の種は残ったままだ。

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