イギリスとEUの合意の意味

イギリスとEUが、12月8日、貿易を含めた将来の関係に交渉を進めることを合意した。それを受け、12月10日の英国公共放送BBCのテレビ番組で、デイビス離脱相が、合意は、その意図を示したもので、拘束力のあるものではないと主張し、アイルランドが反駁している。

メイ首相らは、最終合意ができるまで、合意は何も意味を持たないと主張しているが、これは、通常の駆け引きとみなされるものだろう。最終合意に至らなければ、イギリスはEU側に離脱清算金を何ら支払わないでよいという主張があるが、これも現実を無視した議論と言える。ハモンド財相は、合意ができようができまいが、お金は支払わねばならないと発言し、非難されたが、イギリスがこれまで国際的に事実上約束してきたことは守らねばならない。そうしなければ、国際紛争となる。

今回の合意には、その内容について疑義や争いが生じた場合の手続きは定められていないが、それゆえにそれが無視できるというものではない。合意の最大の障害となったのは、アイルランド島内の、アイルランド共和国とイギリスに属する北アイルランドの間の国境の問題であったが、もし万一最終合意に至らないことがあったとしても、ここで合意されたことが、将来の両者間の関係に大きな影響を及ぼす。

もちろん、今後の関係をスムーズに保ち、しかも将来の関係交渉をまとめていくためには、今回の合意に沿って話を進めていくことが重要だ。

今回の合意で意外に思われたのは、EU側がメイの苦衷を勘案し、それまで強く主張していた原則にかなり柔軟に対応する姿勢を示したことだ。この合意を見て、EU側が何としても最終合意に至りたいという見方をするものもあるが、決してそうではないだろう。むしろ、メイが、離脱清算金でかなりの譲歩をし、しかもイギリスに住むEU市民の権利の面での合意に至ったことで、EU側はそれら以外の面である程度柔軟に対応できる余地ができたと言える。

イギリス側、EU側が大きく譲歩し、この合意ができたことで、イギリスはかなりソフトなEU離脱をするのではないかという見方が強くなっている。それが成るかどうかは、今後の交渉次第だが、EU側のバルニエ交渉代表、デイビス離脱相の両者がカナダとEUとの自由貿易合意に言及し、基本となる考え方は両者一致しているようだ。そのような状況では、今後の交渉はかなりスムーズにいく可能性が強いだろう。