メイの計算

メイが首相に就任してから100日が過ぎた。この間、国民には少数の特権階級ではなく、日々の生活に苦しんでいる「誰にもうまく働く政府」とすると約束し、左に偏ったと見られた労働党から中道の支持を奪おうとし、また、UKIPの政策を大幅に取り入れ、ファラージュ後のUKIP支持者の取入れを狙った。これらの政策は、一見、うまく行っているようだ。

最近の世論調査では、保守党支持は47%、労働党29%、そしてUKIPは6%である。この会社が毎月行っている世論調査では、労働党とUKIP支持が減り、保守党支持に向かっているようだ(参照)。

UKIPは、ファラージュ党首が辞任した後、選出されたジェームス新党首がわずか18日で辞任し、再び党首選がおこなわれるが、これまでその主な政策は、以下のようなものである。

  •  EUをなるべく早く離脱する
  • 移民に関して、EU内の人の移動の自由をなくす
  • 国際開発援助の削減
  • 選別教育の促進
  • 海外の武力介入を減らす

メイはまさにこれらの政策を実施しようとしている。特にUKIP支持もしくは、労働党支持者でUKIPに向かう可能性のある有権者に最も関心の高い課題、EU内の人の移動の制限をEU離脱の交渉で優先するとしている。これは、EU側の、単一市場へのアクセスと人の移動の自由は切り離せないとする立場と相反しており、単一市場へのアクセスができなくなるのではないかと不安視する向きが多い。

一方、メイは、EUの単一市場へのアクセスをできるだけ確保すると重ねて主張している。「EU内の人の移動の自由の制限」と「単一市場へのアクセス」の両方を成し遂げようとするのは、キャメロン前首相が試みて、失敗した。

ジョンソン現外相が、かつて、国民投票で一旦、EU離脱の結果を出し、EU離脱を武器にもう一度、人の移動の自由の制限を交渉すべきだと主張したことがあるが、メイはそれに近い立場を考えているのかもしれない。しかし、これでは、離脱派の、EUを離脱すれば、EUへの負担金が無くなるとの主張に相容れなくなる。EUに加盟していないノルウェーは、EUの単一市場へのアクセスに、人の移動の自由を受け入れるほか、国民1人当たり、イギリスの約3分の2の負担金を支払っている。

メイの計算は、今のところ、党利党略的な面が優先し、イギリスのEU離脱の交渉が2の次になっているような印象を受ける。