90歳を迎えた女王

エリザベス2世は、2016年4月21日に90歳の誕生日を迎えた。その公式な行事は徐々に減らされているが、今もお健やかで、最長の君臨期間(1952年から)を記録している。父親ジョージ6世は次男で、王位継承するとは考えられていなかったが、父親の兄の国王エドワード8世が離婚を2度したアメリカ人女性シンプソン夫人と結婚したいと言い出したために、当時のエスタブリッシュメントらの強い反対を受け退位した。その後を受けて、父が1936年に国王となり、国王の死去で女王となったのである。父が国王となった経緯を通じて、国民の支持を受けなければ、王位、王室の存続は難しいことはよくわかっていると思われる。

ダイアナ妃がパリの交通事故で亡くなった際、国民の中に王室への反感が高まった。ダイアナ妃は女王の長男チャールズ皇太子がカミラ夫人(現在のコーンウォル公爵夫人)と不倫していたために結婚生活が立ち行かなくなった。またダイアナ妃の不倫もあり、二人は離婚する。そのような状況の中で、ヒステリー現象とも言われるほど国民のダイアナ妃への同情が強くなり、反王室感情が高まった。この中、女王は、当時のブレア首相とも相談し、テレビを通じてスピーチし、ダイアナ妃を称え、祖母としてウィリアム王子とハリー王子への気持ちを語り、国民からの花束やメッセージなどに感謝した。その結果、反王室感情は沈静化した。

開かれた王室のイメージを作るために努力し、女王は、自らの日常を公共放送BBCのテレビ番組で公開もした。この番組で印象に残っているのは、国賓をディナーに迎える前に、女王がその部屋と食器の並べ具合、花の飾り方、食事の内容などを自ら出向いて確認し、アドバイスする姿であった。また、タッパーウェアに入ったコーンフレークなどの質素な朝食をとる姿であった。

また、別の機会には、あるクラシックカーのグループが、宮殿を訪れた際のことである。宮殿前の台の上に上がった女王の前をクラシックカーが一台ずつゆっくりと通り過ぎていく。すべての車が走り終えるまでに1時間ほどかかった。それは寒い、雨の中だったが、女王は傘を自らさして台の上で微動だにせず、立っていた姿である。

女王の人気は高く、ある世論調査によると、王室への支持はこれまでになく高い。そして7割の人が、90歳になっても引退すべきではないとする。

この女王には、日本の象徴天皇制と異なり、大権がある。その大権は、首相と内閣のアドバイスを受けて行使されており、特に政治的な論争には介入しないよう留意している。もちろん週に1回首相との面談があり、そこで話されたことは口外されないことになっている。

2010年の総選挙の前、単独過半数を獲得する政党がない可能性が高まり、もしかすると当時のブラウン首相が、女王の大権を使って、再び解散するかもしれないという憶測が高まった。そこで女王が政治闘争に巻き込まれるのを恐れた当時の国家公務員のトップ、ガス・オードンネル卿が、内閣マニュアルを作成し、そのような事態に備えたという逸話がある。

国会開会では、時の政権の政策を読み上げ、また、イギリスの議会政治の中では大きな役割を果たしながら、政治と距離を置くよう留意している。同時に国民の支持を維持するよう努めるなど、女王の仕事はそう簡単ではない。それをうまく務めている女王の働きぶりは、称賛すべきものであるように思われる。