党首テレビ討論、首相の最終提案

キャメロン首相の広報局長が、放送局側に、首相側の「最後の提案」を送った。キャメロン首相は、3月23日から始まる週に、7党の党首による、90分の討論に1回だけ参加するという。それ以外の討論には参加しないと言うのである。

7党は、キャメロン首相の率いる保守党、労働党、保守党と連立政権を組む自民党、欧州議会でイギリス最多の議席を持つイギリス独立党(UKIP)、党員の急増している緑の党、スコットランドで大きく議席を伸ばすと見られるスコットランド国民党(SNP)、ウェールズの地域政党プライド・カムリである。

放送局側は、5月7日投票の選挙期間中に、7党のもの2回、そしてキャメロン首相と労働党のミリバンド党首のもの1回の計3回を実施する計画を発表していた。

放送局側は、首相側の提案を検討中だが、保守党以外の政党は、一斉に、保守党は、討論を避けたい「臆病もの」だと攻撃した。また、「傲慢」だと言った政党もある。

この首相の提案は、実際には「臆病」というものではない。冷徹な計算に基づいたものである。党首討論は、保守党に何も良いことがないという判断に基づいている。

特に、今回の総選挙では、行わない方が保守党に有利だと判断している。特に、キャメロン首相への有権者の評価が、ミリバンド労働党党首よりはるかに良い。労働党と保守党が世論調査でほぼ同じ支持を得ており、その場合、通常、労働党が有利となるが、賭け屋は、保守党が有利だと見ている。有権者は、投票前に、誰が首相となるかを考えて投票すると見られているからだ。

もしキャメロン首相が、ミリバンド労働党党首とテレビで直接対決した場合には、ミリバンド党首の評価を高め、現在のバランスが崩れることを恐れている。有権者がメディアから受けるミリバンド党首像は、実像とかなり異なるからだ。

しかも討論に参加する7党の政党のいずれもが、参加することでメディアにさらされ、予想外の注目を浴びる可能性がある。特に、保守党の支持票が最も流れているUKIPに、保守党に挑戦する機会を与えることとなる。それをできれば避けたいが、もし、テレビ討論を行わねばならないなら、そのような影響が最小限にできるよう、選挙戦の始まる前としたのである。

ただし、キャメロン首相側の戦略が、効果的かどうかには疑問がある。まず、これまで首相が発言してきたことと、かなり異なってきている点があるからだ。労働党党首との討論は行う価値がある、と発言したにもかかわらず、それは行わないと言う。さらにこの日程では、マニフェストが発表される前に討論が行われることとなる。これには、キャメロン首相は、有権者は、それまでにそれぞれの党がどのような政策を持っているかわかっているとしたが、必ずしもそうは言えない。

キャメロン首相側は、また、北アイルランドの最大政党である民主統一党(DUP)が、党首討論に参加したいという言い分を聞くべきだとした。DUPは、現在8人の下院議員を持つ。BBCはDUPの参加を拒否したが、DUPは司法審査に持ち込む構えである。この結果如何によっては、討論そのものが事実上行えなくなる可能性がある。

キャメロン首相側の戦略が成功するかどうか、今後の展開が俟たれる。