党首のテレビ討論の実現可能性

労働党、自民党それにイギリス独立党(UKIP)の3党首が、保守党の党首キャメロン首相に党首テレビ討論に参加するよう呼びかける手紙を送った。これは、5月7日の総選挙前の党首テレビ討論の形式でイギリスの主要テレビ局、BBC、ITV、スカイニュース、チャンネル4が既に合意しているにもかかわらず、キャメロン首相が党首テレビ討論には緑の党が加えられない限り出演しないと言ったためである。キャメロン首相の発言には、それなりの意味があるが、キャメロン首相が保守党党首として出演する、しないにかかわらず、党首のテレビ討論は何らかの形で行われるように思われる。

2010年総選挙で、テレビ討論に保守党、労働党、自民党の3党首がイギリス史上初めて出演した。この結果、それまであまり知られていなかった自民党のクレッグ党首の知名度が大きく上がり、しかもそのフレッシュなスタイルが国民にアピールしてクレッグブームが起きた。このため保守党の選挙戦略が大きく狂い、保守党が過半数を占められなかった一因と見られている。

2010年のテレビ討論では、2大政党対自民党という面があったことが自民党に焦点があたった理由だが、今回は、自民党が保守党との連立政権を5年間経験したため、もしUKIPを含んだ4党党首のテレビ討論が行われれば、主要3政党対UKIPの構図が生まれる可能性が高い。

なお、UKIPは2014年5月の欧州議会議員選挙でイギリス最多得票、最多議席の結果を得、しかも世論調査では労働党、保守党に続き、第3位の支持を得ている。これらから、今ではUKIPは主要政党の一つと判断されているが、緑の党はそうではない。

保守党にとっては、ただでさえUKIPに票を奪われているのに、UKIPをまじえた党首討論を行えば、UKIPにさらに多くの票を奪われる可能性が高い。そのため、キャメロン首相が緑の党を持ちだしたのは、UKIPに焦点があたり過ぎないようにする狙いがある。

その上、これらの政党の基本的なイメージ、考え方の観点もある。政治的な考え方は最も左から最も右の順で並べれば以下のようになる。

緑の党→労働党→自民党→保守党→UKIP

このため、「保守党に対するUKIP」に匹敵する「労働党と自民党に対する緑の党」があってバランスが取れるという考え方だ。つまり、緑の党が出演すれば、労働党と自民党の票をある程度奪う可能性がある。

もちろんこれらの理屈の背景には、テレビ討論で、現在の政党間のバランスを崩すようなリスクを取りたくないという基本的な戦略があると思われる。

実際、緑の党が党首討論に含まれる可能性はほとんどない。党首テレビ討論に参加したい政党には、例えば、スコットランド国民党(SNP)がある。SNPは、党所属の下院議員が、緑の党の1人に対し、6人いる。緑の党より下院議員の数の多い政党は他にいくつもあり、これらの政党とのバランスの問題がある。これを保守党は十分に理解した上で、緑の党を入れるべきだと主張しているのである。

一方、労働党、UKIP、自民党の3党にとっては、キャメロン首相にテレビ討論を求めることで、テレビ討論への一般の関心を高めることができ、キャメロン首相が出なければ、キャメロン首相は怖気づいていると主張できる。

ただし、2010年のテレビ討論の準備段階で起きたことに注目しておく必要があるだろう。2010年の党首テレビ討論交渉は一時ほとんど決裂しかかった。しかし、スカイニュースが、それなら、場所と時間を設定するから出演しない党首があっても進めると宣言したため、急きょ話がまとまったという経緯がある。

この例から考えると、保守党の参加の如何にかかわらず、前回テレビ討論を催したBBC、ITV、スカイニュースのうち、特にスカイニュースが実施する可能性はある。もしくは2014年5月の欧州議会議員選挙前のクレッグ自民党党首とファラージュUKIP党首の討論のようにラジオ局がインターネットと併せて実況放送し、それをスカイニュースとBBCニュースチャンネルも放送するというような形も考えられるだろう(なお、2人の2回目の討論はBBCが放送した)。BBCやITVなどの地上波放送局ではなく、スカイニュースなどの衛星放送局では視聴者が限られるだろうが、いずれにしても、キャメロン首相が参加するしないにかかわらず、何らかのテレビ討論が行われることは間違いないように思われる。