イギリスから見た日本の総選挙

日本では1214日に総選挙が行われるが、大規模な世論調査を実施した報道各社がそろって自公が圧勝する見通しだと述べた。大義名分のない選挙だと言われる中、なぜそのような状況になっているのか?イギリスの視点から見ると二つの点に集約されるように思われる。

まず、自民党である。安倍政権は、世界的にも注目されたアベノミクスで日本経済に活気をもたらせ、有権者には、やはり頼りにできるのは自民党という感覚があるように思われる。イギリスは二大政党制で保守党と労働党の対決と言う構図があり、政党関係者もお互いをライバル視している。メディアも同様だ。ところが日本では民主党政権が失敗に終わり、その信用度は低いままである。つまり政権を変えようにも変える先がないことになる。野党の統一という話があるが、もしまとまっていたとしても、中心となるべき民主党がこれでは(むしろこのために野党がまとまらなかったとも言えるだろうが)、自民党に対峙して有権者の信用を獲得することはできなかっただろう。

なお、イギリスでは一度有権者の信用を失った政党が回復するには長い時間がかかる。1997年にブレア労働党に大敗北した保守党は、その「嫌な党」イメージから立ち直るのに苦労し、2010年の総選挙でも過半数を占めることができなかった。現在でも完全に立ち直ったとは言えない。

さらに現在の安倍政権は、閣僚のスキャンダルもあったが、まだ有権者が罰を与えなければならないほどの失敗をしていない。少なくとも株価は上がり、失業率も低い。現在、国内総生産(GDP)がマイナス成長となっているが、消費税増税の先延ばしは、国際的にはともかく、状況に柔軟に対応する政権として国内では安倍政権への評価につながっているように思える。

そして二番目には、安倍政権のスピン(パブリック・リレーションズの)の巧みさである。経済改革や女性活用策など、具体的な成果はともかく、そのイメージ向上効果が出ているように思われる。これらの結果、安倍政権に懐疑的な有権者も、とりあえず安倍政権支持に向かっているのではないか。

しかし、予想通り与党が圧勝すれば、安倍政権は党内基盤を強化し、より強力な政策を推進できるのだろうか?

安倍政権支持の背景には、経済が成長すれば全体のパイが拡大し、誰にもプラスになるという虚構が存在しているように思われる。実際には、例え、ある程度経済が成長しても、グローバル経済化や少子高齢化、巨額の政府債務などでパイは縮小している。つまり、政策目標の重点を変え、配分のバランスを変えるなど、既得権益に手を入れることが必要な時代であり、誰をも喜ばせるようなわけにはいかない。 

アベノミクスは、日本のデフレ脱却のためにはやむを得ない策だと諸外国から見なされたが、その効果は先細ってきている。GPIFや日銀が国内の株を買い、企業のROEを上昇させるような施策を行い、NISAの拡大など株高を招く政策は、イギリスのオズボーン財相が、国民の関心の強い住宅価格をあおる政策を実施するのに似て、かなり危険な要素がある。景気上昇感をあおるにはよいが、行き過ぎると、その負の効果は非常に大きなものがある。

アベノミクスの第三の矢は、スケールが小さすぎ、しかも遅すぎるという批判がある。その成果が出るにしても何年もたってからということになる。今回の総選挙の争点がアベノミクスの是非を問うものだとすると、それは一種の絵にかいた餅のような議論のように思える。