総選挙の大義名分

安倍首相が総選挙を実施する構えだが、この総選挙の大義名分がはっきりしない。前回の総選挙から2年足らず、しかも衆議院では自民党単独で過半数を大きく上回り、連立を組む公明党と合わせると3分の2以上を占める。前回選挙の政権公約(マニフェスト)で掲げたものも未だ道半ばだ。

イギリスでは2011年定期国会法で首相の解散権が縛られたが、この法律が制定される前に、もし日本の現状のような政治情勢の中で首相が総選挙を行おうとしていたならば、メディアと有権者から総スカンを食っていた可能性が高いと思われる。大義名分がないからだ。

サッチャーが保守党を率いて1979年の総選挙で勝利を収めた後の、下院の総選挙の年は以下の通りである。

1983年(前の選挙から4年)、1987年(4年)、1992年(5年)、1997年(5年)、2001年(4年)、2005年(4年)、2010年(5年)、そして次は2015年の予定(5年)。第二次世界大戦後、前の選挙から短期間で次の総選挙が行われたことが数回あるが、いずれもそれなりの大義名分があった。 

20076月に労働党政権の首相がブレアからブラウンに替わった後、ブラウンはその秋に総選挙を実施しようとした。しかし、保守党の相続税の課税最低限を大幅に上げる政策が多くの有権者に好感を持って迎え入れられ、保守党の支持率が大きく伸びる中、ブラウンは総選挙を見送った。この際、もしブラウンが総選挙に踏み切っていたならば、その前の総選挙から2年半後で5年の任期の半ばであったが、ブラウンには大義名分があった。それは、労働党の党首・首相が交代し、新しい人物が国民の信を問うということである。 

イギリスでは、5年の任期のうち、4年たった段階で総選挙を行うことには特に問題がなく、例えば、ブレア首相は1997年の総選挙に勝った時から、4年後の総選挙の日程を決め、その日に向けて着々と準備を進めていた。

有権者のことを考えると、大義名分のない総選挙は極めて危険だと言える。