イギリス政治を転換させるUKIP

 

109日の2つの補欠選挙でイギリス独立党(UKIP)への支持の大きさが改めて浮き彫りになった。

保守党下院議員だったダグラス・カーズウェルが保守党を離れ、UKIPに加入した後、下院議員も辞職したために行われたクラックトンの補欠選挙で予想通り、カーズウェルが大勝した。カーズウェルは下院議員を辞職する必要はなかったが、あえて有権者の信を問うとして選挙の洗礼を受けたのである。

もう1つの補欠選挙は、労働党の現職下院議員が死去したために行われた。そのため、労働党が余裕をもって当選すると見られていた。通常、補欠選挙では、政権政党を批判して野党に支持が集まる。実際、この補欠選の前の週に行われた2つの世論調査では、その見込みを裏付ける結果が出ていた。ところが、投票では、当選した労働党候補と次点のUKIP候補の差がわずか600票余りで、政界に大きなショックを与えた。なお、この世論調査の結果と実際の投票結果の差は、投票日の直前に有権者の支持が大きく変化したためではないかという見方がある。UKIP関係者は、もう数日選挙運動の期間があれば、労働党を破っていたと言っているそうだ。

いずれにしても、補欠選挙の結果のわかった後に行われた世論調査で、UKIPの支持が大きく伸びており、保守党31%、労働党31%、自民党7%、そしてUKIP25%だった。UKIPはこれまでの常識を覆して有権者の支持を集めており、来年5月に行われる予定の総選挙でUKIPが台風の目となるのは確実である。

ここで確認しておかねばならないのは、イギリスの選挙は日本の選挙とかなり異なるということである。今回の補欠選挙に関連して重要なのは、以下のような点である。

  1. イギリスは完全小選挙区制で、1つの選挙区から最も得票数の多かった人が一人だけ当選する。
  2. 選挙は政党の選挙区支部が行い、通常、政党の支持がなければ当選は難しい。
  3. 選挙区が小さい。イギリスの人口は、日本の約半分だが、選挙区は650ある。日本の衆議院議員選挙は小選挙区比例代表並立制で、小選挙区と比例区があるが、その小選挙区は300である。つまり、イギリスの小選挙区は日本の小選挙区と比べて、かなり小さく、小選挙区当たりの有権者数は7万人程度。なお、上記の2つの補欠選挙区の当日の有権者数は、以下の通りであった。クラックトンの有権者数は69千余りヘイウッド・ミドルトン選挙区の有権者数は、79千余

つまり、日本で言えば、小さな市で市長選が行われ、しかもいずれかの政党の地方支部が強い選挙区の選挙と言え、それに挑戦するのはそう簡単ではない。 

カーズウェルの場合、地元活動を積極的に進めており、そのため、地元でかなり知られていた。それが、保守党を敵に回して戦ったにもかかわらず、地元選挙民のUKIPへの支持と相まち、大勝という結果となった。

このクラックトン選挙区は、有権者の年齢や社会的な階層、さらに人種的な面などからUKIPが最も得票しやすい選挙区と言われており、その点で、選挙結果は予想通りであったが、もう1つのヘイウッド・ミドルトン選挙区は、2010年の総選挙でUKIPが候補者を立てたがわずかな票しか獲得できなかったところである。白人が多く、UKIPに投票する潜在的な土壌があるというが、労働党の非常に強い地域であり、必ずしも、クラックトン選挙区に見られた「仮説」が当てはまらない。つまり、UKIP現象は、その「仮説」で説明できるものより大きいと言える。

さらに、カーズウェルに引き続いて保守党を離党し、UKIPに入党したマーク・レックレスの選挙区の補欠選挙の日程はまだ決まっていないが、その補欠選挙では、保守党の必死の努力にかかわらず、レックレスが当選すると見られている。

このUKIPへの支持の急増の背景は何だろうか?UKIPはもともとイギリスをEUから脱退させることを目的に設立された政党である。この目的には一般の人々の直接の生活から少し離れた面がある。ところが、移民の問題などと関連して、現在の政治に不満のある有権者を引き付け、UKIP支持が急増している。その結果、今年5月の欧州議会議員選挙(比例選挙制)では、UKIPはイギリス区で最多の議席を獲得した。 

この有権者の不満を引き起こしているのは、既成政党への不信と失望であるといえる。ところが、既成政党は、小手先の政策論争で有権者の支持を得ようとしている。既成政党に「夢」が感じられない。この問題を解決することなしには、UKIP現象はまだまだ発展しそうだ。

地方組織の強くないUKIP2010年の総選挙で議席を獲得できなかったが、次期総選挙では、25議席獲得するかもしれないという見方もある。大手世論調査会社YouGovの社長は、10-12議席がより現実的だとするが、少し前まで1議席の獲得も疑問視されていた政党である。イギリスの政治が大きな転換期に来ているといえる。