イングランドの分権?

スコットランドの独立住民投票の結果、独立賛成が45%、反対が55%となり、スコットランドはUK(連合王国)に残ることとなった。ただし、918日の住民投票直前になって、キャメロン首相らが、独立反対の結果の場合にはスコットランドに権限を大幅に委譲することを約束したため、UKの他の地域(連合王国の「国」)、つまり、イングランド、ウェールズ、そして北アイルランドをどうするかが課題となった。

ウェールズでは、1997年の分権住民投票で非常にわずかな差で分権賛成が上回った経緯がある。ウェールズ独立を標榜するプライド・カムリという政党があるが、スコットランドに比べ、ウェールズに独立の機運は乏しい。ウェールズでスコットランド独立投票の後に行われた世論調査によると、独立賛成はわずか3%である。それでも、中央政府からの更なる権限移譲を求める人は49%に上っている。ただし、この権限移譲の方法には議論がある。

北アイルランドでは、法人税の権限の分権を求める声があるが、北アイルランド政府内で、財政削減下の福祉改革に対立がある。そのため、既に与えられた権限をきちんと行使できないのに、さらに権限の分権を求めるのはおかしいと北アイルランド政府ロビンソン首席大臣は主張している。これには、北アイルランドでも地域の帰属(イギリスかアイルランドか)を巡る住民投票を実施する機運が生まれることを警戒していることが背景にある。

さて、ここで最も重要なのは、イングランドの扱いである。イングランドは、下表のように人口が他の地域と比べて格段に多い。

2011年国勢調査結果

9月18日に行われたスコットランド独立住民投票の結果のわかった19日朝、キャメロン首相は、スコットランドがより多くの権限を与えられることから、その他の地域にもそれに見合うような対応が必要だと主張した。そして、下院で、イングランドの政策にイングランド以外から選出された議員が投票できるような現状(この問題を指摘した下院議員の選挙区名から「ウェスト・ロージアン問題」と呼ばれる)を改革し、イングランドの問題にはそれ以外の地域選出の議員を除く意図を明らかにした。これをスコットランドへの分権と同時に進めると発言したことから大きな騒ぎとなった。

スコットランドの分権では、主要三党首、キャメロン首相、ミリバンド労働党党首、クレッグ副首相が実施を約束した予定表によると、今年11月末までに白書を発表し、来年1月に法案を提出、そして5月に予定される総選挙の後にその法制化をする予定だ。

ところが、もしそれをイングランドの問題と同時に進めようとすれば、スコットランドの分権が予定通りに進まないことになる可能性があった。イングランドの改革案には労働党が反対するからである。労働党は、下表のようにイングランドで保守党に議席数で大きく差をつけられている。次期総選挙で労働党が政権に就いたとしても、もしイングランドの事案でほかの地域からの下院議員が除外されることとなると、政府の政策の実施が極めて難しくなる。

2010年総選挙地域別獲得議席数 (北アイルランドは地域政党のみのため省略)

これはイギリスの政治体制のひずみの問題ともいえる。特に、NHSを含む健康医療、教育、そして財政関連などイングランドだけに限定された分野をウェストミンスターの中央政府が担当しているからだ。

なお、イングランド分権政府という考えもありうるが、全人口の84%を占めるイングランド単独の分権政府を設けるのは、極めて非効率である。一方、ブレア労働党政権で、2004114日にイングランド北東部の分権政府案の住民投票を行ったことがある。これは47.7%の投票率でなんと77.9%が反対した。そのため、担当のプレスコット副首相が、予定していた、それ以外の住民投票を取りやめた。

キャメロン首相の発表に対して、スコットランドのサモンド首席大臣は、スコットランドの人たち、特に、キャメロン首相らの約束を信じて独立反対に投票した人たちが騙されたと批判した。

これらの批判を受け、保守党の党利党略と思われた、スコットランドの分権とイングランド事案の投票改革を連結する方針は変更され、それぞれ別個に対応することとなった。イングランド事案の投票改革には、かなり時間がかかると見られており、次の総選挙の大きな課題の一つとなると見られている。

なお、有権者の多くは、イングランドの事案に他の地域選出の議員が投票するのはおかしいと感じているが、このような「憲法問題」にあまり注意を払っていない。そのため、抜本的な改革につながる可能性は少ないように思える。

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