陰の財相、エド・ボールズの話(Is the Shadow Chancellor Ed Balls a Tough Guy?)

今日のタイムズ紙の付録マガジンの表紙を見た途端、思わず笑ってしまった。ボクの笑いを聞いて2階にいた妻が「いったいどうしたの?」と聞いてきた。そこで、その表紙に載っているエド・ボールズの言葉「過去を振り返って、ゴードン・ブラウンが偉大な首相だったと言う人はいないだろう」を読み上げた。

ボールズは、ブラウン前首相の側近中の側近だった。トニー・ブレア元首相の側近だったジョナサン・パウルやアラスター・キャンベルがブレアの批判につながる言葉を慎重に避けるのに対比してボールズのこの言葉は意外だった。ボールズは、ブラウンが財相当時、よく「副大臣」と呼ばれたほど大きな影響力を発揮した人物だ。英国中央銀行のイングランド銀行が政策金利の決定を含めた金融政策を担当することになったのは、実はボールズの発案と言われる。

もちろんボールズにはこういう言葉を吐く背景がある。ブラウン前首相の政権運営そのものに大きな批判があるのに加え、財政運営のかじ取りを誤ったために国が大きな債務を抱え、現政権がその後始末に四苦八苦するという状況を作り出したと考えられているためだ。毎週水曜日恒例の首相のクエスチョンタイムでは、キャメロン首相や、時に代理として答弁する自民党のクレッグ副首相が、政権に就いて2年近くたった今でも「前労働党政権がこの問題を作り出した」と労働党を攻撃する。労働党は既に、政権政党時代に「誤りがあった」と言っているが、ボールズが、現在の労働党は、ブラウン時代の労働党とは違うということを強調するためには、ブラウンからある程度距離をおかなければならないと感じているのだろう。

ただし、本文を読めばわかるが、ボールズはその言葉を言った後、「しかし、2007年から8年にかけてゴードン[ブラウン]とアリスター[ダーリング蔵相]が示したリーダーシップはものすごく重要だ。それは世界中に知られているが、ここ英国ではそうでもない」と信用危機への世界的取り組みを先導したブラウン前首相の果たした役割を強調している。こういうインタヴューでは、言葉が前後の文脈から離れて取りあげられる可能性が高いのでよほど慎重にならざるをえないと言える。

ボールズには、少し、雑な人物と言う印象があるが、このインタヴューでは、本当のことを言い過ぎているような気がする。結局のところそう悪い人間ではないのだろう。例えば、ブラウンが怒って電話を投げつけたのは本当か?という質問に対して「えーと、そこにいたことはないので、えーと、電話を投げつけた時に」と答えている。つまり、電話を投げつけたのは本当だと言っているのである。その上、「私は、ゴードン・ブラウンに自ら進んで立ち向かい、彼が誤っていると言う人間だ。これは、実際のところ、大変重要な公共サービスだった」と言う。ブラウンは人の言うことをあまり聞かなかったようだ。

マガジンの中の写真では、新調したばかりに見える高級そうなスーツを着ている。ボールズは影の蔵相だが、その下院議員としての年俸は、£65.738(850万円)でそう多いものではない。ブラウンのアドバイザーになるまでは、フィナンシャルタイムズ紙の論説記者を務めていた。なお、ボールズの妻のイヴェット・クーパーも労働党下院議員で、影の内相だ。2人ともオックスフォード大学からケネディー奨学金を受けてハーバード大学で学び、その後エコノミクス担当のジャーナリストになった経歴は似ている。2人は前ブラウン内閣で閣僚となり、初めての夫婦での閣僚就任となった。

ボールズは2010年の党首選挙に立候補して敗れたが、その前に、2人のどちらが党首選に立つかで相談したと言う。現在、賭け屋は、クーパーを現在の労働党党首エド・ミリバンドの後に党首となる筆頭候補と見ている。しかし、ボクは、クーパーは頭が良いかもしれないが、政治的なセンスに欠ける面があると思う。かつて住宅担当相だった時に、HIPSと呼ばれる、売り主が家の情報をまとめて提供する義務を推進したことがあるが、これは完全に失敗に終わったからだ。クーパーよりも一世代ジャンプして、次は現在影のビジネス相のチュカ・ウムンナに移行するのではないかと思っている。

ボールズは「過去100年間にわたって、英国の経済政策担当者が犯してきた政治的に大きな失敗は、自分の言うことを信じて、何とかうまくいくと期待してそれに執着することだ、つまり、それが本当だと言うと、それが本当になると信ずることだ」と言う。なぜ日本が莫大な債務を負うようになったかが説明できるような気がした。