新しい局面を迎えたイギリス政治

5 22 日投票、25 日開票のイギリス選出の欧州議会議員選挙で73 議席が争われた。予想通り、イギリス独立党(UKIP)が最も多くの票を獲得し、最多の議席を占めた。この選挙は地区別の比例代表制で行われ、小選挙区制の下院選挙とは異なるが、保守党と労働党以外の政党が国レベルの選挙でトップとなったのは 1910 年以来のことであり、イギリス政界に「地震」を引き起こしたと言える。

何が起きたのか? 

欧州議会議員選挙と地方議会議員選挙後の 5 29 日のことである。サッカー選手ジョーイ・バートンがテレビ番組で、UKIP は「4 人の醜い女の子の中で最悪ではない」ような政党だと発言した。バートンは、主要 3 政党の保守党、労働党、自民党と UKIP を合わせた 4 党はいずれも醜いが、その中で UKIP が最もよさそうに見える、それで多くの有権者が支持したと示唆したのである。

この発言はセクシズムだと物議をかもし、バートンは直ちに謝罪した。確かに不適切な発言だが、筆者にはまさしく現在のイギリス政治の状況を表現したもののように感じられた。

主要政党はいずれも魅力がない。一方、1993年に創設され、そのメンバーは玉石混淆のUKIPも、党の欧州議会議員の経費の問題や不適切な候補者など醜い面がある。選挙前、数週間にわたり、マスコミからこれらの問題を集中的に攻撃されたが、選挙結果に大きな影響を与えなかった。つまり、4 党ともに醜い中では、それでも UKIP がましだと思われたようである。 

2014 年欧州議会議員選挙イギリス区主要政党結果

政党 議席数 得票率
UKIP 24(+11) 27.50%
労働党  20(+7) 25.40%
保守党 19(-7) 23.90%
緑の党 3(+1) 7.90%
SNP 2(±0) 2.50%
自民党 1(-10) 6.90%

SNP:スコットランド国民党

欧州議会議員選挙の結果は上記の表のとおりである。イギリスのEUからの離脱を唱えるUKIP は前回 2009 年の13 議席に11 議席を加え、大きく議席を伸ばした。労働党は予想を下回り、保守党は心配されたほど悪くはなく、緑の党は予想を上回り、自民党は予想通り悪かった。

キャメロン首相は選挙結果を踏まえ、イギリスの有権者は EUに不満を持っている、 EUを変えていく必要があると発言した。しかしながら、EU で大きな力を持つ次期欧州委員会委員長の選任問題もあり、どの程度 EUを変えられるかは不透明だ。 

6 5 日に補欠選挙がある。キャメロン首相の保守党に所属していた下院議員が議員の倫理基準に違反し、辞職したための補欠選挙である。この選挙区では保守党が非常に強く、保守党候補が勝つと見られており、恐らくUKIPの候補者は次点となるだろうが、どの程度の差となるか注目される。 

その補欠選挙の結果が、2015 5 月の総選挙に大きく影響する可能性がある。いずれにしても主要三政党は、総選挙までの11か月間、UKIP の動向を見ながら選挙準備を進めることとなる。下表のように主要 3 政党の票が UKIP に流れているためである。

欧州議会議員選挙でのUKIP票の出所

政党 UKIP票の出所
保守党 51%
労働党 12%
自民党 17%

British Election Study: http://www.britishel ectionstudy.com/bes -findings/ukip- picking-up-lumps-of- old-labour- support/#.U41tXOYU _mI

UKIP 躍進の原因

UKIP の躍進には2つの面があると思われる。UKIP の主張とそのリーダーである。 

UKIPは、有権者の関心の高い多くの問題を、イギリスがEUから離れることで解決できるという立場を取る。特に議論の多い移民の問題では、EUから離脱すれば、EU 内の移動の自由の原則を守る必要がなく、自由に制限できる。政策の詳細よりも、明快な議論で有権者を惹きつけているようだ。主要 3 党が、既成の枠組みの中で細かな議論に終始しており、わかりにくいのとは対照的だ。 

さらにリーダーである。ファラージュ党首にはカリスマがある。わかりやすい表現を使い、明快な議論をする。そのため、単にEUの問題に関心のある人たちだけではなく、政権政党や既成政党への批判票を集めている。

一方、労働党のミリバンド党首にはカリスマがない。政策を苦労して絞り出しているという印象を受けるが、個別の政策は有権者から支持されても、ミリバンドにカリスマがないため、労働党への支持に直接つながっていない。 

自民党の党首クレッグ副首相は、世論調査での有権者からの評価が記録上最低となった。この選挙後、自民党にはクレッグ交代論が噴出したが、自民党内で大きな影響力を持つ、元党首のアッシュダウン卿がクレッグを支持しており、交代の可能性は少ない。

2010 年総選挙後、保守党と連立政権を組んで以来、マニフェスト約束違反や、この連立がその中道左派の考え方と相容れないなどのために支持を失い、立ち直れないままである。

しかも党勢浮揚を狙い、ファラージュUKIP 党首に、親欧州の立場からテレビ/ラジオ討論を申し入れ実現したが、討論後の視聴者の評価ではファラージュに大敗するなど戦略上のミスもあった。

イギリス経済の回復に果たした役割は大きく、保守党の行き過ぎに歯止めをかけるなど、自民党の貢献度は高いが、多くの有権者から全く評価されておらず、宙に浮いたような存在となっている。

 保守党の党首キャメロン首相は、保守党支持票の UKIP への流出を防ぐため、2017年のEU国民投票の実施を約束した。国民にEUに留まるか脱退するか決めさせようというのである。UKIPには下院に議席がないため、国民投票を実施できないが、保守党が次期総選挙後政権を獲得すればそれができるというのである。しかし、保守党の議論はUKIPの議論と比べるとわかりづらい。

しかも保守党の「嫌な党」イメージを変え、リベラルな有権者の票も獲得しようと同性結婚を推進したが、これが伝統的な支持層の離反を招いている。多くの有権者がキャメロン首相は首相らしいと見なしているが、それが保守党の政策への信頼に必ずしもつながっていない。

UKIPの政策

UKIP は、次期総選挙に向けて国内政策を整え始めた。その手始めは、税制である。最低賃金(現在の時給£6.311,080 円))で働いている人たちの所得税をゼロとし、しかも最高税率の45%を40%に下げる方針を明らかにした。前者も後者もかなりの税収減となると見られているが、それぞれ労働党支持層と保守党支持層の票の獲得を目指したものである。

さらにこの税制案の財源を確保するため、財政緊縮の中でもキャメロン首相が毎年大きく増加させている海外援助費を削減することを考えている。海外援助費は 2015 年度には122 億ポンド(2 兆円)になる予定である。

賃金が上がらないのに物価が上がり、国民が生活費危機で苦しんでいるにもかかわらず、海外援助を大きく増やすことに批判的な人々を惹きつけることができる。

保守党も労働党も政策の小さな違いを強調して有権者の関心を引こうとする時代は終わったようだ。いずれの政党にも大胆な政策が必要だと思われる。