大きく変わった政治の構図(A Game Changer in British Politics)

英語にGame changerという言葉がある。これは、それまでの状況を大きく変える出来事や行動を指すが、7月9日のエド・ミリバンドの労働党と労働組合の関係を変える改革案は、まさにこの言葉通りの意味があったようだ。

7月10日(水曜日)の「首相のクエスチョンタイム」は、まさにそれがはっきりと示された場であった。最初から、保守党と労働党議員席がたいへん騒々しく、これほど騒々しいのは久しぶりだという。BBCの政治部長ニック・ロビンソンによると、中にいては、何を言っているか聞き取れなかったそうだ。テレビ中継のためのマイクのお蔭でテレビで聞き取れる音を集められたと言っていた。さらにスカイニュースでは、キャメロン首相がわずか数列後ろの保守党下院議員の発言を聞き取るために身体を大きく斜めに傾けている光景が映し出された。

この場では、先週の「首相のクエスチョンタイム」で優位だったキャメロン首相が、守勢に回った。

労働組合の労働党候補者選出関与問題が、一挙に過去の問題となってしまったようだ。キャメロン首相が懸命に、労働党は労働組合のお金に頼っている、労働組合はその影響力をその資金力で買っていると訴えたが、もうこれらの問題は、過ぎ去った問題のように感じられた。

一方、ミリバンドは、一週間前と違う人のように見えた。余裕を持ってキャメロン首相を攻撃した。

ミリバンドは、保守党がヘッジファンドからどれだけ政治献金を受けているか質問した。それに答えようとしないキャメロンに、ミリバンドは、それは2500万ポンド(37億5千万円)だと自ら答え、ヘッジファンドに財相が与えた減税額は、1億4500万ポンド(217億5千万円)だと付け加えた。

ミリバンドは、労働党に関係メンバーとして献金している労働組合員、すなわち普通の人は、1週間に6ペンス(9円)出していると言い、保守党の大口献金者に頼る体質を、少数の百万長者に所有されている党と攻撃した。

ミリバンドの提案したのは、以下のようなことだ。

①政治献金の上限を設けること。実は、これまで主要政党間で交渉されてきたが、保守党によると、労働党が労働組合からの献金をまとめて受けているのでこれに反対したという。キャメロン首相は、「首相のクエスチョンタイム」で、労働党は、労働組合のユナイトから800万ポンド(12億円)、GMBから400万ポンド(6億円)、ユニゾンから400万ポンド(6億円)受けていると発言した。一方、労働党によると、労働党は上限を5千ポンド(75万円)とする案を出したが、5年間で25万ポンド(3750万円)を主張する保守党が交渉を打ち切ったのだという。

いずれにしても、2011年に諮問機関である「公人の倫理基準委員会(The Committee of Standards in Public Life)」が政治献金の上限を1万ポンド(150万円)とするよう提案した際に、労働組合の場合には、組合員が能動的に労働党に献金する場合は別だが、現在のように組合全体として政治献金する場合を認めなかった。つまり、ミリバンドの提案は、この問題をクリアーできることとなる。

ミリバンドは、「首相のクエスチョンタイム」で5千ポンド(75万円)を再び提案したが、キャメロン首相は、上限を低くすると、それを埋め合わせるために公的助成が増えると批判した。これには、労働党は、公的助成の増額を求めてはいないと反論している。

②下院議員の会社役員やコンサルタントへの就任を禁止し、副業にはその内容や金額の制限を設けることを提案した。これは、7月9日のミリバンドのスピーチでも触れたが、アメリカには上限があるという。なお、「就任」には、「新しく」という言葉をミリバンドはその提案でつけている。つまり、これまでに就いているものを止める必要はないことを示唆している。

これには、キャメロンは、これらはきちんと透明化されていると答えたのみだ。

ミリバンドは、これらの問いを今後総選挙まで継続的に問い続けていく考えだ。そして保守党はこれらの質問の答えに苦しんでいくこととなりそうだ。

しかし、ミリバンドの提案したことを実際に実行するのはそう簡単なことではない。まず、労働組合を納得させる必要があり、しかも大きく減少する収入をどうするか考えなければならない。もちろん党員を増やすというのは第一番目に考えなければならないことだろうが、それがうまくいかない場合には、収入に見合った政党、政治並びに選挙活動をしていくのか、もしくは公的助成を増やすのか。労働組合大手のGMBの書記長は、この改革で労働党に能動的に献金を払い込もうとする組合員は現在の1割に留まると示唆したが、かなり大きな影響がある。

いずれにしても、英国政治の改革が一歩動き出したのは確かなようだ。