もし英国がEUを離脱すれば?(What If UK Leaves EU)

保守党の下院議員が中心になって、EUに留まるか否かの国民投票に関連した法案が5月8日の女王のスピーチに含まれていなかったことに遺憾の意を表する動議が提出された。その討議と採決が5月14日か15日に行われる見込みだ。

女王のスピーチでは、キャメロン首相率いる保守党と自民党の連立政権の今後1年間の政策を表明した。キャメロン政権では、親欧州派の自民党が反対するため、EU国民投票関連の動きを進める政策を進めることが難しい。そのため、この動きは、保守党がEU国民投票に前向きだということを強調する一種のデモンストレーションと言える。5月2日の地方選で、英国のEUからの撤退を党の看板にすえるUKIPが大きく躍進したことに対して、保守党が危機感を高めていることがその背景にある。

ただし、この動きがどの程度のインパクトがあるのか疑問だ。世論会社のPopulusが5月8日から10日に2千人余りにどのニュースにもっとも気づいたかという質問を行ったが、女王のスピーチを挙げた人はわずか3%だった(https://twitter.com/PopulusPolls/status/332843047664635904/photo/1)。高級紙では女王のスピーチにかなり大きな紙面が割かれたが、一般の有権者の関心は低い。

労働党の大半と自民党がその動議に反対し、しかも保守党の中にもその動議に反対する議員がでる見込みで、動議が可決される可能性はほとんどないが、たとえ可決されても拘束力はなく、何も変わらない。そのため、この動きは自己満足的なものにしか過ぎないように思える。

英国がEUから離脱すればどうなるか?

保守党の重鎮の元財相のナイジェル・ローソンが、キャメロン首相がEUとの関係を改めるための交渉をしてもあまり意味がない、英国はEUから撤退すべきだ、と主張し、保守党関係者に大きな衝撃を与えた。保守党のラモント元財相やジョンソン・ロンドン市長らは、まずは交渉をしてみて、それで成果が上がらないようなら英国はEUから撤退すべきだと考えている。いずれも、基本的に、英国がEUから離脱しても大丈夫だという考え方に立っている。

英国がEUから脱退すればどうなるかについては、決定的な分析はない。そのプラス・マイナスについては、わからないというのが結論である(参照:http://www.bbc.co.uk/news/business-22442865)。

英国がEUに加盟していることで支払っているのは、2012年に150億ポンド余りであり、そのうち、英国に返ってくるものを除くと約70億ポンド(約1兆円)である。英国はドイツの次に実質拠出額の多い国であり、GDPの約0.5%である。ただし、それがEUを脱退するとなくなるわけではない。例えば、EUのメンバーではないノルウェーは単一市場に入るために、より貧しいEU加盟国に一定額を拠出している。つまり、英国がEUを脱退した後も継続して単一市場に残ろうとすればかなりの費用負担が必要である。

EUの規制が、英国にコスト増などの負担を強いていると見られるが、EUを脱退したとしても、そのまま残す必要があるものはかなり多いと見られている。すぐに廃止できるものはそう多くないようだ(タイムズ紙5月8日 David Charter)。

貿易では、英国はその半分をEUと行っており、輸出よりも輸入のほうがかなり多い輸入超過となっている。しかし、英国への企業投資は、EUのメンバー国であることがプラスに働いているものが自動車産業などかなりある。英国の金融セクターへの影響もある。経済的なプラス面とマイナス面をすべて網羅して適切に判断することは極めて困難だ。また、英国がEUを離れると、その国際舞台での威信や影響力の低下は避けられないと見られ、それを政治的・経済的にどう評価するかもある。

読めないEU脱退の影響

多くの議論で欠けていると思われるのが、EU脱退の短期的な影響である。英国がヒース保守党政権下でEECに加盟した時に、英国経済へのプラス効果がすぐには現れなかった。労働党ではEECの問題について意見が対立し、その結果、次の労働党政権下で国民投票をせざるを得ない状況となった。一方、もし英国がEUを離脱すればそのマイナス効果はすぐに表面化する可能性がある。

EU脱退は、その国民投票の結果が出てからのこととなるが、細部にわたる交渉が必要であり、脱退するのにも時間がかかる。つまり、中途半端な状態が続くこととなる。また、国民投票の結果が出れば、その時点から企業は新しい状況に対して動き始める。その結果、投資の中止、引き揚げなどの動きの影響がすぐに出てくる可能性がある。

さらに、その時点での景気の動向もあるだろう。景気の上昇局面と下降局面では、その影響が異なる可能性がある。

しかも、EU脱退のマイナスの影響の出てくる時期が選挙に近いと、時の政権にとっては、有権者からの反応が心配となるだろう。問題は、このような時期や状況がどれくらい続くかをあらかじめ予測することは極めて難しいように思われることだ。

結局、英国には、EUから脱退しても大丈夫だという威勢のよい見解はあるものの、離脱の影響が十分読めないために、よほど大きな政治・経済的環境の変化がなければ、英国のEU脱退は政治的に非常に大きなリスクがあるように思える。