意図せぬ効果(Unintended Effects)

人の行動が意図したこととはかなり異なった効果を生むことがあるが、それは、政治でも同じである。

例えば、4月17日のサッチャーの葬儀で涙を流したジョージ・オズボーン財相のことである。テレビで放映されたその映像を見て、オズボーンに反対する人たちは、「嘘泣き」であるとか、涙を公の場で流すのは恥ずかしいことだと言って攻撃する人がいた(参照 http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-22197119)。このうちの多くは、労働党などの反保守党やオズボーン財相の緊縮財政に反対する立場の人で、その狙いはオズボーンを傷つけることだと思われるが、それとは逆の効果があったようだ。

この攻撃のために、それ自体がニュース性を持ち、広く報道された。さらに、男性が公の場で涙を流すことの是非が議論となり、さらに大きく報道された。

オズボーンの涙の場面は、明らかに胸が詰まった様子が見え、本当に涙を流したということが伝わってくるものであった。恐らく、オズボーン自身は、これを少なからず恥ずかしく思ったほどではないかと思われる。

その結果、オズボーンの非人間的な従来のイメージとは異なり、人間オズボーンのイメージがかなり広く知られることとなったように思われる。つまり、オズボーンの「非人間性」を攻撃しようとした人たちは、オズボーンの「人間性」を大きく広めるのに力を貸したこととなる。

一方、トニー・ブレア元首相のある雑誌でのアドバイスは、エド・ミリバンド労働党党首に向けて書かれたものであるが、それはミリバンドと労働党に良かれと考えて書かれたものであると思われる(参照http://kikugawa.co.uk/?p=1567)。ところが、それが出るや否や、ブレアがミリバンドを攻撃したとマスコミが報道した。

この背景にあると思われるのは、ミリバンドの具体的な政策が出てくるのに時間がかかっている状況に多くのマスコミがかなり不満を持っていたことがある。その結果、ミリバンドの政策面での問題を追及したコメントが多く出された。

その結果、ミリバンドは、政策面で遅れており、首相となる準備ができていないという結論を出したものも少なくない(参照 4月21日の夜のラジオ番組での討論、http://www.bbc.co.uk/programmes/b01s1czm)。ただし、次の選挙はまだ2年以上先だ。

その結果かどうか、先週あたりから、世論調査で、労働党の保守党に対する支持率のリードが若干減ってきている。

ブレアと、ミリバンドは先週の水曜日に会って話をしたと伝えられるが、ブレアのように「スピン」に力を入れた、経験のある政治家でも、その行動の効果については、深く読んでいなかったようだ。効果的なスピンドクターなら、もう少し慎重に行動しただろうと思われる。この点、自民党のパディ・アッシュダウン元党首は、クレッグの脚を引っ張ることがない。

政治の世界では、意図に反する結果が出ることは多い。その予想外の結果をなるべく少なくするような努力が常に要求されていると言える。