メイ首相が生き延びられるか?

イギリスとEUがブレクシットの交渉でついに合意に至った。これまで合意できるかどうか疑われた時期もあったが、合意なしでイギリスが離脱することとなればイギリスもEUもかなり大きなマイナスの影響を受ける。その事態を避けるための妥協である。しかし、この合意は中途半端なもので、イギリスが長期間自らの判断で行動できなくなる可能性があるとしてイギリス議会で批判が強く、議会が承認する可能性はほとんどない。

この合意を先頭に立って進めたメイ首相は、この合意が最善のものだとし、当初、「この合意」、「合意なしの離脱」、もしくは「離脱せず残留」かの3者択一だと主張した。しかし、この合意はEUに残るよりも経済的にかなり大きなマイナスだという分析が発表された後、メイ首相は立場を変えてきているようだ。3番目の残留に触れなくなり、しかも、もし下院が否決すれば、EUと再度交渉する含みを残している。

下院では、メイ首相率いる保守党に過半数がない。それを北アイルランドの、10議席を持つ民主統一党(DUP)が閣外協力で支えている。しかし、DUPはこの合意案に反対だ。その上、保守党の下院議員の4分の1以上が反対に回ると見られる。最大野党の労働党、さらに第3党のスコットランド国民党(SNP)、それに自民党らは反対しており、労働党下院議員らの若干名がメイの合意に賛成しても、合意が承認される可能性はよほどのことがない限りない。

そこから政局がどうなっていくかは予想がつきがたい。おそらくメイ自身もどのような行動をとるか決めかねているのではないか。下院でEUとの合意が否決されれば、メイが直ちに内閣の信任投票に持ち込むという見方がある。しかし、これは、その時の下院の空気によるだろう。保守党下院議員のほとんどが総選挙を避けたいと考えている。支持率で拮抗している労働党に政権をつかませる機会を与えるだけだからだ。

2011年議会任期固定法では下院の3分の2の賛成があれば解散総選挙が行われるが、それだけの議員が賛成する可能性は乏しい。しかし、メイ政権がもし不信任されると、2週間以内に信任される政権が生まれなければ下院は解散される。

もし総選挙が行われるとなれば、保守党がこれまでお粗末なEU交渉をしてきたメイ首相を党首に抱いたまま総選挙に臨むとは考えにくい。一方、もしメイ政権が不信任されるようなこととなると、総選挙を避けるためにメイ首相の次の党首を急遽保守党下院議員の総意で選び、新党首・新首相の下でDUPを味方につけて、もう一度EUと交渉しようとするだろう。

そのような事態を避けるため、メイ首相は、もし下院が合意を否決すれば、自らもう一度EUと交渉しようとするのではないか。しかし、保守党下院議員らが、メイ首相にそのようなチャンスを与えるかどうか疑問である。

そのようなごたごたの過程で総選挙となる可能性もある。総選挙を求める労働党のマクドネル影の財相は、総選挙となる可能性は少ないと見ているようで、総選挙のない場合には、保守党内の「第2の国民投票」を求める勢力と協力してその実施を求める可能性に言及している。

結局は、下院がメイのEUとの合意を否決した後、保守党がメイ首相の後任を選び、EUとの再交渉に臨むか、もしくは総選挙に突入するかのいずれかになるように思われる。

2019年3月29日にイギリスはEUを離脱することになっている。しかし、この日程も、政局次第で変化する可能性がある。いずれにしてもメイが首相として生き延びられる可能性は極めて小さくなっている。