オズボーンの狙い

オズボーン財相には明確な目的がある。その2016年度予算発表(2016年3月16日)を聞いて感じた。

オズボーンは、キャメロン政権の発足した2010年5月以来財相を務めている。2012年の「オムニシャンブル予算」では、ほとんどすべての方面から叩かれ、その年に行われたロンドンオリンピックでは、メダル授与式で紹介された途端に観客からブーイングを受けた。

イギリスの予算は発表まで秘密である。つまり、イギリスの政治制度では、日本でよくあるような根回しがなく、オズボーンとキャメロン首相が予算を決め、それが実際に施行される。政権政党の下院議員は、不満でも賛成する。というのは、予算に反対すれば、政権不信任となるからである。予算は、仮決議で通されるため、予算発表当日の夕方から施行されることもある。

対立野党の労働党は、この予算発表直後に、その内容について質問するが、あらかじめ何が含まれているかわからないため、それまでの様々な情報や憶測をもとに質問を考える。今回、コービン労働党党首は、オズボーンのこれまでの予算発表と現実の乖離を衝く戦略に出た。つまり、オズボーンがこれまで財相として担当してきた予算は、失敗の連続だったというのである。

現在の経済の状況では、G7諸国でトップクラスの経済成長を遂げると見られているが、2016年の経済成長率見通しは2%と昨年11月の2.4%から下降し、税収は大きく下がり、2019年度の財政黒字化目標達成は極めて厳しい状況になっている。

それでもオズボーンには、明確な目的がある。例えば、国民所得の0.7%を国際開発援助の予算とすることである。財政緊縮で、他の部門の予算が大きく削られている中、対外部門の予算が毎年増加していくのはおかしいという声が強い。それにもかかわらず、その方針を変えるつもりはない。財政赤字を2020年までに解消するという目標とともに、これはキャメロンの政治的遺産につながる。

もちろんキャメロンの政治的遺産を協力して作り上げ、自分がキャメロンの後継者として保守党党首・首相となるという目的もある。そのために、党所属下院議員、党員そして国民からの支持を受けられる予算、財政運営をする狙いもある。そのため、向こう受けする予算を提示する必要もがある。今回も、予算に含まれた77の政策の多くがこのための操作だと言われる

しかし、これには、危険もある。2012年のように、予算のつじつまを合わせるために、あちこちに手を出し過ぎ、それが予算のほころびを招き、大きな非難を浴びることとなった。一方、キャメロンのステラテジストとしても働くオズボーンが財相6年間となり、ブレア労働党政権下で財相を10年務めたブラウン前首相と同じ問題を抱える可能性もある。ブラウンはブレアより自分の方が首相として優れていると信じていたが、財相在職中に知恵を出しつくし、自分が首相となった時、案が枯渇し、苦しむこととなった。

厳しい世界経済状況の中での財政運営だが、オズボーンの目標は明確である。オズボーンは、2015年財政憲章法で、継続的に財政黒字を維持することを義務付けた。恐らく、これはやりすぎで、将来、オズボーンを苦しめることとなるかもしれない。それでも、明確な目標に向かって、進む政治家の姿には、爽やかな一面もあるように思われる。