偉大な政治家とは?

ウィンストン・チャーチルが亡くなってから50年。改めて偉大な政治家とはどのような人物か考える機会を与えてくれる。偉大な政治家とは、失敗しない人物ではない。国が本当のリーダーシップが必要な、非常に苦しい状態に陥った時に、その困難にめげず、真っ向から立ち向かう勇気を持ち、国民を鼓舞しながら、困難を乗り越えていく人物といえるだろう。チャーチルは、そのような人物だったように思う。

政治家としてチャーチルには多くの失敗がある。しかも浮き沈みが激しかった。所属政党も、保守党から自由党、そして再び保守党と変わり、多くの保守党議員たちから変節漢と見なされた。保守党党首の数々の政策にも反対し、党内で異端者扱いされた時代が長かった。保守党首相ネヴィル・チェンバレンの宥和政策にも反対した。

しかし、ヒットラーのナチスドイツがポーランドに侵略し、イギリスがナチスドイツに宣戦布告した後、チェンバレンはチャーチルを海軍大臣に任命した。そして、チェンバレン首相の後任首相の候補者最右翼だった外相のハリファックス卿が首相となるのを辞退したためチャーチルにお鉢がまわってくる。ハリファックス卿は、上院(貴族院)議員であることを辞退の理由としたが、実際には、イギリスがナチスドイツに敗れるのは必至と見ていたことが本当の理由のようだ。

ナチスドイツが破竹の勢いで欧州を席巻している中、イギリスは他の国の助けなしにナチスドイツに立ち向かわざるを得ない状態だった。アメリカは孤立主義を取っており、参戦する様子はなかった。イギリスはナチスドイツにとても立ち向かえないと見る人が多かったのである。首相となったチャーチルが、第一次世界大戦時の首相ロイド・ジョージに入閣を打診したが、ロイド・ジョージは到底勝ち目がないと断ったくらいである。

チャーチルは首相に65歳で就任したにもかかわらず、その仕事へのエネルギーは驚嘆すべきものであったと言われる。そして第二次世界大戦で連合国を勝利に導いた立役者となった。国民の戦時中のチャーチルへの支持は非常に高かった。ところが、第二次世界大戦が終焉を迎える1945年の5月に行われたイギリス総選挙で、チャーチルは保守党を率いて戦い、労働党に大敗。国民は、よりよい生活を求めて労働党に投票したのである。そして、戦時中、チャーチル首班の挙国一致政権で副首相だったクレメント・アトリーが率いる労働党が政権を担うこととなる。

アトリーは、「ゆりかごから墓場まで」といわれた福祉国家を築き、現在では、多くの歴史、政治学者から戦後最も優れた政治家と評価されている。アトリーはチャーチルを非常に高く評価していた。チャーチルの国葬でも、既に高齢で、虚弱だったにもかかわらず、前日のリハーサルにも長時間立ち合い、翌日1月30日の葬儀でも非常に寒い中、参加した。葬儀が終わった時には、寒く疲れ果て、セント・ポール大聖堂の階段を降りるのに助けが必要だったといわれる。

アトリーは元軍人で少佐となった人物であったが、チャーチルには優れた戦争遂行能力があると思っていた。例えば、チャーチルは、自由党政権の海軍大臣として第一次世界大戦で大きな失敗をしたと見られていた。ところが、アトリーは、チャーチルの戦略は正しかったが、兵を率いた将軍たちに能力がなかったために作戦がうまくいかなかったと見ていたのである。

チャーチルは、その能力が生かせる機会に恵まれたと言えるだろう。チャーチルの行ったことがすべて正しいわけではない。しかしながら、自分の信念に従って、自分の生き方をした人物である。そのような人物でなければ、偉大な政治家にはなれないとも言える。日本は、そのようなトップ指導者に恵まれず、第二次世界大戦で敗れた。

党首テレビ討論への放送局新提案

2010年の総選挙で、主要3党、保守党、自民党、労働党の党首によるテレビ討論が行われた。イギリス史上初めてのことである。選挙期間中に3回、1週間おきに行われ、合計2200万人が見たと言われる。

問題は、このテレビ討論が行われたため保守党が過半数を獲得できなかったと見る人が多いことだ。この討論で、自民党のクレッグ党首のクレッグブームが起きた。それでも自民党は議席を57議席へと減らした。しかし、自民党は、2003年のイラク戦争に反対したため、2005年の総選挙で、2001年の52議席から62議席へと躍進していた。つまり、自民党は、2010年には、議席が減るはずだったが、その減少を抑えられたという見方がある。一方、労働党の議席数は予想よりかなり多かった。これはテレビ討論の効果だといわれる。つまり、テレビ討論で、自民党の議席はあまり減らず、しかも労働党がある程度回復したために、保守党は過半数を上回ることができず、連立政権を組まざるを得なかったというのである。このことが、キャメロン首相が5月7日に予定されている総選挙前のテレビ討論を避けたい理由の背後にある。

放送局側の提案は、3回の党首テレビ討論を以下のような形で実施するものであった。

①    キャメロン首相(保守党党首)とミリバンド労働党党首の2人。
②    キャメロン首相(保守党党首)、クレッグ副首相(自民党党首)、ミリバンド労働党党首の3人。
③    キャメロン首相(保守党党首)、クレッグ副首相(自民党党首)、ミリバンド労働党党首、ファラージュUKIP党首の4人。なお、この4党は放送局の監督機関であるOfcomが主な政党と見なしている。 

これに対し、キャメロン首相は、キャメロン首相は、行う価値のあるのは首相候補同士の討論である①と、③に緑の党を加えたものだと主張した。つまり、③では、イギリス独立党(UKIP)を含めるのに、全国政党である緑の党を除外するのは不公平であり、そのような討論には参加しない、と主張したのである。なお、Ofcomは緑の党を主な政党とはみなしていない。

それに対し放送局側が、新しい提案をした。

この提案では、①の2大党首対決は同じだが、③に緑の党、スコットランド国民党(SNP)それにプライドカムリを加え2回行うというものである。SNPとプライドカムリが討論参加を求めていることがある。

キャメロン首相が、この提案を受け入れる可能性はそう大きくないように思える。恐らく、キャメロン首相が緑の党を「全国政党」と形容したのは、既にこの形の討論が提案されることを見越した上でのことではないか。しかも、総選挙の選挙運動が公式に始まる前にテレビ討論を行うべきだとも発言しているが、テレビ討論が選挙運動に影響を与えることを極力避けたいと考えているようだ。

スコットランドの地域政党SNPとウェールズの地域政党プライドカムリが参加しての討論は、いずれもそれぞれの地域の問題に力を入れる可能性が高く、そのため焦点が定まらないだろう。限られた時間内で行われる、そのような討論の効用には疑問がある。

また、北アイルランドの地域政党や、補欠選挙で当選した下院議員1人のリスペクト党も参加を求めており、このままでは、実施すること自体、簡単ではない。

もしキャメロン首相が、この新しい提案、もしくはそれ以外の政党も加えたテレビ討論への参加を受け入れたとしても、その討論としての効果は、2010年の総選挙討論、2014年5月の欧州議会議員選挙前のクレッグ・ファラージュ討論、もしくは2014年9月のスコットランド独立住民投票前の独立賛成側サモンド・スコットランド首席大臣(当時)と反対側のダーリング前イギリス財務相のテレビ討論よりもはるかにインパクトの少ないものとなるだろう。

その場合、インパクトが潜在的にはるかに大きいと思われる労働党のミリバンド党首とのテレビ討論を回避するのに力を入れることになるのではないかと思われる。

緑の党を率いる党首

大きな注目を浴びている緑の党は、党員を急速に伸ばしている。現在、47,969人。党員の数では、副首相ニック・クレッグが党首を務める自民党やイギリス独立党(UKIP)を上回った。急増の大きな原因は、保守党の党首デービッド・キャメロン首相が、緑の党が党首のテレビ討論に招かれなければ、自分も出席しないと言ったことにある。なお、緑の党をテレビの党首討論に参加させるようにとのオンラインのペティションは、28万を超えた。

その緑の党を率いるのはナタリー・ベネットである。ベネットは、1966年2月10日、オーストラリアのシドニー生まれ。シドニー大学とニューイングランド大学を卒業した後、ジャーナリストとなり、1999年イギリスへ。その後、レスター大学でマスコミュニケーションの修士号取得。ジャーナリストとして、インデペンデント紙やタイムズ紙に書いた後、ガーディアン・ウィークリーの編集に携わる。

2006年1月、緑の党に入り、2012年9月、党首に選出された。なお、イギリスの緑の党には、イングランド&ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと3つあり、上記の党員数はその合計数。ベネットは、その最大の組織、イングランドとウェールズの党首である。その前任者は、キャロライン・ルーカスで、現在、緑の党唯一の下院議員である。ルーカスの選挙区は、イングランド南岸のブライトン・ホブ市の3議席のうちの1つであり、ブライトン・ホブ市では緑の党が少数与党ではあるが、市政を握っている。しかし、5月の総選挙と同時に行われる地方選挙を控え、その予算案に反対する勢力があるなど、緑の党に責任ある施政ができるか疑問がある。

緑の党の政策は、地球温暖化対策やグリーンに関するものだけではない。かなり極端なものがあり、国民全員に「市民の収入」として週に72.4ポンド(1万3,000円:£1=180円)以上支給するというものも含まれる。キャメロン首相が、党首討論には緑の党も、と主張したのは、労働党や自民党よりもかなり左の緑の党が含まれれば、労働党と自民党がかすみ、また、それらの支持票が緑の党に流れる可能性があると見ていることもある。緑の党そのものの総選挙での獲得予想議席数は、1から2議席である。

ベネットは、緑の党の党首でありながら、ロンドンの大英博物館の近くのブルームズベリーのコープのフードストアで今もパートタイムで働いているようだ。これまで総選挙も含めて何度か選挙に立候補しているが、落選した。しかしながら、今回のテレビ党首討論の議論で、メディアで大きく取り上げられている。これまでベネットが下院議員のルーカスに替わって党首となったことを知らなかった人が多かったが、ベネットの知名度が大きく上がり、これから出馬する選挙、特にロンドンの地方選挙で当選する可能性はかなり高くなった。緑の党の政策には疑問のあるものも多いが、スーパーの店員として働く知的な人物が公職に就くことには、メリットがあるように思える。

キャメロン首相抜きの党首テレビ討論?

BBCの政治部長ニック・ロビンソンが指摘しているが、アメリカの大統領選挙のテレビ討論が1960年に初めて行われ、その後16年間行われなかったように、この5月に行われるイギリス総選挙前の党首テレビ討論の実施を巡ってゴタゴタがあるのは何もおかしいものではない。

ロビンソンによると、保守党党首のキャメロン首相は、2010年のテレビ討論はその敵方を有利にしたとして、今回は出席しないために臆病者と言われても構わない、と決めているそうだ。テレビ討論に喜んで出るからといって有権者は投票しないというのである。

ミリバンド労働党党首、クレッグ自民党党首、ファラージュUKIP党首は、キャメロン首相に手紙を書いて、テレビ討論に参加するよう促したが、同時にこの手紙で、放送局にキャメロン抜きでも実施するよう圧力をかけている。

放送局は、いずれもUKIPは除外できないが、緑の党は除くべきだと考えているそうだ。それでは緑の党抜きではテレビ討論に出席しないと主張するキャメロン首相抜きで実施すればよいのではないか?しかし、ことはそう簡単ではないという。放送局がキャメロン抜きのテレビ討論を実施するにはかなりの覚悟がいるようだ。公共放送のBBCは政府の勅許の書き換えがあり、政府との視聴料の交渉もある。ITVとチャンネル4は政府の規制が気がかりで、スカイもその買収問題に関して経験したように、政治と無関係ではない。

キャメロン首相は、首相となる可能性のある二人、自分と野党労働党のミリバンド党首とのテレビ討論、そして保守党、労働党、自民党、UKIPそれに緑の党の5党のテレビ討論には応じる可能性に言及したが、本音は、テレビ討論そのものに出たくないと言われる。ミリバンド党首との一騎打ちのテレビ討論には大きな障害はなさそうだが、実はこれも避けたい考えだと言われる。キャメロンは、世論調査の個人支持率でミリバンドに大きな差をつけているが、もしテレビ討論が行われれば、多くの人が過小評価しているミリバンドが健闘するのは間違いないと見ているからだ。そのため、キャメロン首相側がテレビ討論が行われないように力を入れるのは間違いない。

ただし、ロビンソンも示唆するように、放送局の中でも「勇敢(無謀?)」なところもあるだろう。政党だけではなく、放送局も加えて、今後のなり行きは予断を許さない。

緑の党の要求

5月7日に予定されている総選挙前の政党党首のテレビ討論に、緑の党が、参加を認められるべきだと主張した。キャメロン首相は、自らの思惑から、全国政党の緑の党が討論に参加を許されないと、保守党は、UKIPを交えた討論には参加しないと発言した。

緑の党は、党員数がUKIPより多く、そして、党員が急増しているために自民党よりも多くなった。そして、2014年5月の欧州議会議員選挙で3議席を獲得し、UKIP、労働党、保守党に続いて第4位になったこと、最近の世論調査で自民党と並ぶ、また時には自民党を上回る支持率を得ている、全国の選挙区の4分の3以上で候補者を立てることなどを理由に緑の党も入れられるべき資格があると訴えている。

緑の党は、現在、下院議員が1人である。現在の下院議員の党ごとの数は以下のとおり。

政党 下院議員数
保守党 303
労働党 257
自民党 56
民主統一党【北アイルランド】 8
スコットランド国民党(SNP)【スコットランド】 6
シンフェイン党【北アイルランド】 5
無所属 3
プライドカムリ【ウェールズ】 3
社会民主労働党【北アイルランド】 3
イギリス独立党(UKIP) 2
統一党【北アイルランド】 1
緑の党 1
リスペクト党 1
議長 1

(イギリス議会ウェブサイト2015年1月16日現在)

党首テレビ討論には、SNPやプライドカムリも出席を求めている。

党員数は、以下のとおりである。

政党

党員数

参考

緑の党

44,713

2015年1月15日現在

自民党

44,680

2014年4月現在

UKIP

41,943

SNP

93,000

推定

労働党

190,000

推定。2013年末189,531

保守党

150,000

推定。2014年9月149,800、保守党支持の有力ウェブサイトConservativeHome。公表22万4千人だが、年1ポンドのサポーターを含む。

政党の発表している党員数が実態をきちんと反映しているかどうかには不確かな点がある。上記でも指摘しているように保守党は年1ポンド(180円)のサポーターも含んでいる。なお、緑の党は、学生は年5ポンド(900円)、そして年収5万ポンド(900万円)以上の人は120ポンド(21,600円)。保守党は、23歳未満は年5ポンドで一般党員は25ポンド(4,500円)。労働党は、26歳未満は年12ポンド(2,160円)で、一般党員は46.50ポンド(8,370円)だと言われる。

緑の党の党員数は、自民党やUKIPより多いかもしれないが、それが総選挙での党勢に直接つながるかというとそれに疑問を呈する向きもある。

緑の党は、5月の総選挙では、せいぜい1議席か2議席と見られる。UKIPは、欧州議会議員選挙でイギリストップの24議席を獲得し、世論調査でも労働党、保守党に続き、第3位。一方、自民党は、来る総選挙では、大きく議席を減らすが、20数議席は獲得する見通しだ。

イギリスの場合、Ofcomという放送通信監視機関が、UKIPを主要3政党、保守党、労働党、自民党と並ぶ主な政党と見なすという判断をした。この資格が与えられると、テレビでの取り上げられ方や、無料の政見放送などの点で有利となる。Ofcomは、緑の党にその資格を与えなかった。

Ofcomの判断は正しいように思われる。もしUKIPが主な政党と判断されなければ、UKIPは裁判所に訴えるかもしれないという見方もあったほどである。それに比べ、緑の党は、自党に有利になる可能性のある状況をすべて訴えているという印象がある。緑の党が、自民党やUKIPと同じ扱いを求めるのは少し望み過ぎと言わざるをえない。それでも、メディアの中には、緑の党を主な4政党に加えてインターネット上で討論をさせようという動きがある。

党首のテレビ討論の実現可能性

労働党、自民党それにイギリス独立党(UKIP)の3党首が、保守党の党首キャメロン首相に党首テレビ討論に参加するよう呼びかける手紙を送った。これは、5月7日の総選挙前の党首テレビ討論の形式でイギリスの主要テレビ局、BBC、ITV、スカイニュース、チャンネル4が既に合意しているにもかかわらず、キャメロン首相が党首テレビ討論には緑の党が加えられない限り出演しないと言ったためである。キャメロン首相の発言には、それなりの意味があるが、キャメロン首相が保守党党首として出演する、しないにかかわらず、党首のテレビ討論は何らかの形で行われるように思われる。

2010年総選挙で、テレビ討論に保守党、労働党、自民党の3党首がイギリス史上初めて出演した。この結果、それまであまり知られていなかった自民党のクレッグ党首の知名度が大きく上がり、しかもそのフレッシュなスタイルが国民にアピールしてクレッグブームが起きた。このため保守党の選挙戦略が大きく狂い、保守党が過半数を占められなかった一因と見られている。

2010年のテレビ討論では、2大政党対自民党という面があったことが自民党に焦点があたった理由だが、今回は、自民党が保守党との連立政権を5年間経験したため、もしUKIPを含んだ4党党首のテレビ討論が行われれば、主要3政党対UKIPの構図が生まれる可能性が高い。

なお、UKIPは2014年5月の欧州議会議員選挙でイギリス最多得票、最多議席の結果を得、しかも世論調査では労働党、保守党に続き、第3位の支持を得ている。これらから、今ではUKIPは主要政党の一つと判断されているが、緑の党はそうではない。

保守党にとっては、ただでさえUKIPに票を奪われているのに、UKIPをまじえた党首討論を行えば、UKIPにさらに多くの票を奪われる可能性が高い。そのため、キャメロン首相が緑の党を持ちだしたのは、UKIPに焦点があたり過ぎないようにする狙いがある。

その上、これらの政党の基本的なイメージ、考え方の観点もある。政治的な考え方は最も左から最も右の順で並べれば以下のようになる。

緑の党→労働党→自民党→保守党→UKIP

このため、「保守党に対するUKIP」に匹敵する「労働党と自民党に対する緑の党」があってバランスが取れるという考え方だ。つまり、緑の党が出演すれば、労働党と自民党の票をある程度奪う可能性がある。

もちろんこれらの理屈の背景には、テレビ討論で、現在の政党間のバランスを崩すようなリスクを取りたくないという基本的な戦略があると思われる。

実際、緑の党が党首討論に含まれる可能性はほとんどない。党首テレビ討論に参加したい政党には、例えば、スコットランド国民党(SNP)がある。SNPは、党所属の下院議員が、緑の党の1人に対し、6人いる。緑の党より下院議員の数の多い政党は他にいくつもあり、これらの政党とのバランスの問題がある。これを保守党は十分に理解した上で、緑の党を入れるべきだと主張しているのである。

一方、労働党、UKIP、自民党の3党にとっては、キャメロン首相にテレビ討論を求めることで、テレビ討論への一般の関心を高めることができ、キャメロン首相が出なければ、キャメロン首相は怖気づいていると主張できる。

ただし、2010年のテレビ討論の準備段階で起きたことに注目しておく必要があるだろう。2010年の党首テレビ討論交渉は一時ほとんど決裂しかかった。しかし、スカイニュースが、それなら、場所と時間を設定するから出演しない党首があっても進めると宣言したため、急きょ話がまとまったという経緯がある。

この例から考えると、保守党の参加の如何にかかわらず、前回テレビ討論を催したBBC、ITV、スカイニュースのうち、特にスカイニュースが実施する可能性はある。もしくは2014年5月の欧州議会議員選挙前のクレッグ自民党党首とファラージュUKIP党首の討論のようにラジオ局がインターネットと併せて実況放送し、それをスカイニュースとBBCニュースチャンネルも放送するというような形も考えられるだろう(なお、2人の2回目の討論はBBCが放送した)。BBCやITVなどの地上波放送局ではなく、スカイニュースなどの衛星放送局では視聴者が限られるだろうが、いずれにしても、キャメロン首相が参加するしないにかかわらず、何らかのテレビ討論が行われることは間違いないように思われる。

保守党と労働党の財政政策

キャメロン首相がスピーチで語った。子供たちに大きな借金を残したいですか?我々には借金の問題を片付ける責任があります。収入の範囲内で生活するようもとに戻すべきですと。なお、日本の政府債務は、国内総生産(GDP)の240%だが、イギリスでは、その3分の1ほどである。

5月の総選挙に向けて、保守党は財政赤字対策が対労働党の主要なテーマと見定めている。保守党と労働党の差は以下のようなものだ。 

  方法 内容 期限
保守党 財政削減で赤字を解消 歳出総額の赤字 2018年度まで
労働党 財政削減と増税で赤字を解消 投資は別 2020年まで

労働党はイギリスが金融危機で経済が大きく下降した時に政権を担当していた。そのため、保守党は現在の大きな政府債務をもたらしたのは労働党であり、次期総選挙で、財政運営能力がなく、課税し使う労働党が政権を担当すれば、それは破滅的だという。保守党に任せれば安全できちんと財政赤字を減らし、政府債務を減らし始めることができると主張する。

保守党は、付加価値税(VAT)を含めて増税はしないとし、逆に減税を行うという。財政削減、福祉手当削減、そして税回避策への対策強化で、投資を含めた歳出総額の赤字を無くす方針だ。

労働党は、保守党の言うような財政削減が行われれば、それは1930年代の財政と同じレベルとなると主張する。これは、保守党のイデオロギーに基づくもので、必要以上のものだと批判している。キャメロン政権は、財政赤字を急激に減らそうとしたために、賃金と生活水準の下降を招き、経済成長を阻害した、賃金と生活水準が上がれば、より大きな経済成長を達成し、財政赤字削減が進んだはずだ、と主張する。

労働党も財政削減に取り組むが、保守党とは異なり、投資は別とする。増税策としては、200万ポンド(36千万円:£1=180円)以上の住宅への豪邸税、15万ポンド(2700万円)以上の所得への税額50%復活、そして銀行ボーナスへの増税などを考えている。

保守党は、総選挙への公約に、この財政赤字削減策を中心に据えているが、労働党は国民健康サービス(NHS)を中心に据えている。保守党はNHSへの支出は毎年増やすと約束しているが、労働党は、保守党ではNHSを有効に運営していくことはできないという。労働党は、保守党より多くの予算を約束している。いずれにもそれなりの理屈があるが、国民は、経済財政運営ではキャメロン保守党がミリバンド労働党よりも優れていると見ている。

保守党と労働党の議論には、五十歩百歩の面があるが、イギリスでは、権威ある独立シンクタンク、財政研究所(IFS)が厳しい目でこれらの議論を評価、批判している。このような中立的な評価者がいれば議論はかなりわかりやすくなると言える。

総選挙結果の予測

57日に行われる総選挙は、結果を予測するのが近年になく難しいと言われる。それでも、イギリスの賭け屋は、過半数を占める政党はないだろうと見ながらも、保守党のキャメロンが首相として継続する可能性が高いと見ている。

ある投資銀行の予想では、過半数を占める政党はないだろうとしながらも、保守党が政権に就くだろうという。予想をしたゴールドマン・サックスのチーフエコノミストは、1992年の総選挙で、事前の世論調査では労働党勝利の予測だったが、保守党が勝った例を挙げ、世論調査で、経済運営で、保守党が労働党を大きくリードしていたことに注目している。つまり、現在の世論調査で、経済運営で保守党が労働党に大きく差をつけており、それが繰り返される可能性があるというのである。それにあわせ、選挙が近づいてくるにしたがって、保守党の支持を奪っているUKIPの支持が衰えるだろうとの見通し、さらに2015年には所得が向上すると見ており、これらの結果、保守党がわずかの差で最大政党となるだろうと見ている。 

1992年の総選挙の事前の世論調査と結果の差は、これまで多くの議論がある。例えば、サン紙は、その反労働党のキャンペーン、特に投票日当日のものが大きな影響を与えたとして、サンが保守党に勝たせたと主張した。一方、世論調査会社は、世論調査と実際の結果が大きく異なっていた事態を重く見、分析の結果、この差の幾分かは、「Shy Tory(内気な保守党支持者)」にあるとした。これは、世論調査の際に、人頭税などの問題で人気を失っていた保守党に投票するとは言いづらく、その結果、保守党に投票するとはっきりと言わなかったためだったという分析である。それ以来、世論調査会社は、その前の選挙でどの党に投票したかを尋ねるようになった。前回の投票行動と次回の投票行動にはある程度の相関関係があるためである。

ゴールドマン・サックスの分析で、経済運営の評価と投票結果を結びつけたのは、興味深いが、仮説であり、それが証明されたわけではない。現在の段階では選挙の大まかな方向性は分析できても、具体的には、今後の政治状況の展開によるだろう。例えば、今冬のNHSがどうなるか、イギリスの経済状況、さらには政治スキャンダル、それにもしかすると、フランスのパリでおきたようなテロリスト攻撃があるなどの状況で政局は変わる。

幾つかの選挙結果予想が出されているが、保守党と労働党の差はあまりない。これからの政治状況の変化が注目される。

TV討論を避けるキャメロン首相

2015年総選挙では、2010年の際のような党首のテレビ討論はないかもしれない。ただし、保守党のキャメロン首相がミリバンド労働党党首との11のテレビ討論には出演する可能性、または、保守党抜きのテレビ討論が行われる可能性がある。それでもキャメロン首相が保守党の党首としてイギリス独立党(UKIP)と一緒に登場することはないだろう。

イギリスの主要なTV局は、昨年10月、テレビ討論の形について合意している。3回のテレビ討論のうち、1回はUKIPが参加し、主要3党、保守党、労働党、自民党とともに討論する計画だった。しかし、キャメロン首相は、UKIPが招かれ、緑の党が招かれないのは不公平だとし、緑の党が招かれなければ出ないと主張したのである。

テレビや通信を監視する放送通信庁(Ofcom)がUKIPを主要政党と認定した。昨年5月の欧州議会議員選挙でUKIPがイギリス選挙区1位となり、また昨年10月、11月に行われた2つの補欠選挙でUKIPが勝った。また、世論調査では労働党、保守党に続き、第3位で10%台の支持を集めている。一方、Ofcomが主要政党と認めなかった緑の党は2010年に1議席を獲得、最近、世論調査で支持を伸ばしているもののその支持は1桁に留まる。

キャメロン首相の発言に対し、UKIPや労働党は、キャメロン首相は、テレビ討論に怖気づいていると批判したが、キャメロン首相がテレビ討論に出たくないのは明らかである。

2010年の総選挙では、イギリス史上初めて選挙期間中に党首のテレビ討論が行われた。3回行われ、有権者の関心が強く、第一回目には1千万人が視聴した。その結果、クレッグ自民党党首の大きなブームが起き、クレッグマニアと呼ばれるほどの現象となった。 

選挙後、保守党の元副幹事長アッシュクロフト卿が、保守党はこのテレビ討論のために過半数を獲得できなかったと指摘し、このテレビ討論に合意したキャメロンを批判した。この見解を支持する人は多い。

結局、キャメロン首相は、テレビ討論への出場は、リスクが大きすぎると判断し、避けようとしていると思われる。首相である自分が出演することで、討論に参加する他の政党に注目される場と権威を与え、有権者の関心を増す可能性がある。さらに討論で必ず勝てる、もしくは保守党の評価が上げられるという保証がない。5月の欧州議会議員選挙前に、自民党のクレッグ党首・副首相がUKIPのファラージュ党首に討論を申し入れ、二人だけの討論が行われた。クレッグはこの討論にかなり自信を持っていたようだが、討論ではファラージュ党首のパフォーマンスに大きく劣り、自民党には大失敗に終わった。

キャメロン首相がファラージュ党首との討論を避けたいと考えているのは明らかであり、むしろテレビ討論そのものにリスクがあると判断していると思われる。

イギリスの住宅政策の問題点

イギリスの持ち家率が大きく下がっている。人口が増加し、世帯数が増加する中、住宅供給が遅れているために住宅価格が高騰し、購入が難しくなっていることが背景にある。持ち家率の増減は経済と政策の影響が大きいが、ここではっきりしているのは、政府の住宅供給策が十分ではないことである。

欧州連合(EU)の統計局Eurostatによると、2005年から2013年までの持ち家率は以下のようだ。 

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
持家率 70 71.4 73.3 72.5 69.9 70 67.9 66.7 64.6

2007年に73.3%であったが、2013年には64.6%まで大きく下がった。「借家の国」といわれるフランスは2013年には64.3%だったが、現在までに持ち家率でイギリスを追い抜いたと見られる。なお、EU平均は70%、ドイツは52.6%。日本は平成22年度の国勢調査によると61.9%である。 

家を持ちたがるイギリス人

イギリス人は誰でも家を持ちたがる。これには、日本のアパートやマンションのようなフラットも含まれるが、長期的に見れば住宅は価値が上昇すると考えられている。通常、まず、最初の足がかり的な住居を購入し、その価値の上昇をもとに、次の住居を購入し、家族が大きくなればさらに大きな住居へ移っていくという具合にステップアップしていくこととなる。

住宅の売買には諸費用や税がかかるが、単純に説明すると以下のようなこととなる。例えば、元手の資金が2万ポンドあり、8万ポンド借りて、10万ポンドでフラットを買うとする。数年たてば、そのフラットの価値が上がり、例えば12万ポンドとなり、元手の資金2万ポンドと併せて4万ポンドの自己資金ができる。さらに12万ポンドを借りて16万ポンドの家を買うとする。数年たってその家の価値がさらに上がり、20万ポンドとなれば、自己資金は8万ポンドとなる。そしてさらにお金を借りて次の家を買うという具合になる。

日本と異なり、イギリスでは住宅は築後年数がたっても必ずしも価値が下がらない。むしろ、ヴィクトリア時代の家、エドワード時代の家、1930年代の家など人々は歴史的な家を特徴があると好む傾向がある。歴史的に見ると、住宅価格に若干の上下変動があったが、上がる傾向は継続している。近年では2008年の金融危機以降、住宅の価値が一時下がったが、2014年には住宅価格が大きく上昇した。

ただし、上記の連鎖を利用するためには、最初の住居を入手する必要があり、この買い手、いわゆるファーストタイムバイヤーはイギリスの住宅政策では重要である。ところが、現在の住宅価格は上がりすぎ、このファーストタイムバイヤーたちにはかなり敷居が高くなっている。 

住宅建設の遅れ

持ち家率の減少の背景には、イギリスの厳しい住宅建設許可制度、特にグリーン地帯と呼ばれる地域の住宅建設が難しいことがある。政府は住宅建設を促進するために、住宅建設許可制度の緩和をし、さらに開発業者や住宅購入者などへの低利ローン制度などを設けた。また、ロンドンなど大都市近郊の住宅不足を解消するために、ガーデンシティのような新タウンの建設を推進している。しかし、そのような対策には地元住民の反対が少なくない。キャメロン首相の保守党内でも総論賛成、各論反対で、地元選出の議員が反対する傾向がある。Nimby(ニンビー:Not in my back yard:私の裏庭(近所)はダメ)である。 

さらに、住宅価格が大幅に上昇しているのに、賃金の上昇率はインフレ率より低く、住宅を購入することが難しくなっており、住居を求める人たちは賃貸住宅へ向かうこととなる。

一方、お金のある人は、Buy-to-letと呼ばれる投資用賃貸物件へ投資する人が多い。これらの賃貸物件への投資は税制面などで優遇されており、しかも住宅供給の不足から家賃が上昇している。そのため、賃貸物件は増え、持ち家率はさらに下がることとなる。

これまでの傾向

イギリスの統計局が10年ごとに行われる国勢調査の結果をもとにしたイングランドとウェールズの持ち家率の分析では、2001年に持ち家率は69%だったが、2011年には64%に減少した。77%の世帯が借家だった1918年以来、初めて借家率が増加した。1953年から持ち家率が急速に上昇し、1971年には持ち家率と借家率が同じになり、それ以降も上昇していたが、それが下がったのである。

その原因を統計局は以下のように分析する。世帯数が2001年には2170万世帯であったのが、2011年には2340万世帯に増加し、住宅価格は2001年から2011年の間に約2.5倍となった。インフレ率が賃金上昇率を上回り、しかも2008年の金融危機で住宅ローン貸し出しの制約が厳しくなりさらに住宅購入が困難になった。

なお、持家率の上昇には、住宅政策が大きな役割を果たした。1919年に地方自治体に公営住宅の供給を義務付け、その結果1981年には公営住宅の割合が31%まで上昇した。サッチャー政権下で1980年に公営住宅のテナントが、住んでいる住居を購入できるように政策変更し、その後、地方自治体の公共住宅への義務を大幅緩和したため、2011年には公営住宅の割合が18%まで減少した。なお、日本では公営借家の割合は4.2%である。 

住宅供給対策

キャメロン政権での住宅建設促進政策にもかかわらず、現在年に20万軒必要な新住宅の建設がその半分に留まっており、とても住宅需要に追いつく状態ではない。

野党労働党は、次期総選挙に勝てば、年間20万軒の住宅を建設し、5年の任期中に100万軒の住宅を建設すると公約に掲げている。その政策には、住宅建設に適した土地を強制的に吐き出させるものが含まれており、反ビジネス的だと批判されている。一方、保守党は、ファーストタイムバイヤー重視の政策を打ち出している。

保守党も労働党もその支持層への配慮などから、なかなか思い切った政策が打ち出せない傾向がある。いずれにしてもイギリスで住宅建設が急務であるのは間違いなく、それを進めていくには、政治の強力なリーダーシップが求められている。